過保護お姉さんの戦い ~vs.佳澄篇 13~

「ごめんなさい! 本当ごめんなさい!」

 思わず額を机にこすりつけんばかりの勢いで頭を下げていた。

 ええ、分かってるんです。ボクみたいなヤツとそういう仲じゃないかって勘ぐられること自体、女の子にとってはきっとある種の屈辱なんだってことは。

 いやいや。私、そんなに男に不自由してないんですけど? って感じですよね?

 パンデミックや核戦争で、たとえ人類最後の二人になったとしてもさすがにそれはないわー、ってことですよね?

 それ以前に、人類以外との異種交配を疑われるとか、名誉毀損で訴えますよ? って話ですよね?

 なんかもう、申し訳なさと宇津科さんの反応に対する恐怖で顔を上げられなかった。ていうか居たたまれなさのあまり、思わず自らを人類の枠から外しちゃってた。

「……ハァッ!」

 頭上で勢いのよい溜め息の音が聞こえた。

 呆れられてる? 見離されてる? それとももはや軽蔑されてる?

「いやもう、なんなわけ? その色々すっ飛ばしちゃっての思い込み……」

 その後に続く宇津科さんの言葉はなく、空き教室に時ならぬ沈黙が訪れる。

 ボクは恐る恐る顔を上げ、宇津科さんの顔色をそっと窺った。彼女は放心したような顔で、視線を窓の外、どこか遠くに向けている。

 こんな時になんだけど、その光景にちょっと見とれた。

 普段から少し大人びた感じがする宇津科さんが、アンニュイな表情で夕陽に照らされながら窓の外を眺めている図というのはものすごく絵になる。

 ……し、写真撮りたい。こんな状況でさえなければ。

 そんなことを考えていたら、窓の外に向けられていた宇津科さんの目が不意にボクのほうを向いた。

「ていうか、なんで三前が謝ってんの?」

「え? いやだって……」

 くりっ、と可愛らしく首をかしげる宇津科さんを見て、おずおずと身体からだを起こす。

「……このたびは、えっと、うちの姉? がとんだご迷惑をおかけしたわけで、その……」

「だから、どして疑問形だし。あと従姉いとこだってもうバレてるし」

 ぺしっ、と軽いデコピンが飛んできた。

 うわ、なにこれ。なんでか、ちょっと照れる。

 女の子の軽いデコピンって、お仕置きのフリしたある種のご褒美みたいに思えちゃうのはなぜ?

「別に、あんたのせいじゃないじゃん。それに、迷惑っていうのとも少し違うし……」

 そう言うと、宇津科さんはちょっと考えこむそぶりを見せた。

「なんていうのかな。どう見られてるのかちょっと気になった? みたいな……」

 ああ、なるほど。それはちょっと分かる気がする。

 ボクみたいに、もう周囲からの評価に諦めをつけてしまったヤツとは違って、宇津科さんはきっと「周りから自分がどう見えるか」といったことに常に気を配っているんだろう。だからオシャレにも、振る舞いにもすきがない。

 髪、制服の着こなし、アクセサリー。

 言葉遣い、女の子らしい仕草、付き合う友達の選択。……ボクのことはまあ、この際例外として。

 宇津科さんのそういった要素から受ける印象は、ズバリ「今どきの女子高生」。きっと宇津科さん自身、そう見えるように気を遣っているのだ。

 それはきっと、一面すごく大変なことなのだと思う。周囲からの視線を意識し、その期待するところを常に維持することは、ボクなんかには想像もつかないほどの精神力を消費するに違いない。

 リア充にはリア充なりの苦労がある、ということなのですね、きっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る