過保護お姉さんの戦い ~vs.佳澄篇 10~

 白状する。

 これが人生初の女子とのライントークである。

 緊張するなというほうが無理だ。もしそんな無茶な要求をするやつがいたら、そんなやつは百円ショップのビニール紐で五十メートルバンジーでもしてみるがよい。きっと今のボクの気持ちが分かるだろうさ。

 震える指をスマホに延ばす。

 狙いを定めて宇津科さんのトークルームをタップする……。

 表示されたのはたった三文字の、しかし輝けるばかりのメッセージ。


  おーい 19:52


 おおお! なんかかわいい。

 思わず「はーい」とか返したくなる。

 

      19:57 どうしたの?


  ひ 19:58


 ひ……?

 ひまわり?

 ひぐま?

 ひだたかやま?

 

  ま 19:58


 謎の一文字返信に頭を悩ませていると、続いて新着がきた。だけどまた一文字だった。

「ひ」と「ま」。……あ、「ひま」か。

 女の子って、友達どうしでひっきりなしにSNSのやり取りしてそうなイメージあるけど、そうでもないのかな。


      19:59 ボクもひま


 こっちも一文字づつ区切ろうかと思ったが、やめた。ボクがそれやったら絶対引かれると思う。

 既読はすぐについたが、返信がなかなかこない。

 これが既読スルーってヤツですか? 初体験って、どんなことでもドキドキするなあ。……違う。このドキドキはそういうんじゃない、きっと。

 あまりに反応がないので、つまらないメッセージを返しちゃったせいかと心配になりかけたころ、ポコッと返信が表示された。


  なんか言ってた? 20:05


 このメッセージが意味するところはすぐに分かった。

 省略された主語はきっと「今朝のお姉さん」だ。

 宇津科さん、今朝ヒロ姉に言われたことを気にしているのに違いない。


      20:06 かわいい子だねって

            言ってた


 きっとそういうことがきたいんじゃないんだろうなと知りつつ、そう返すしかなかった。表面上の事実としては噓じゃないし。


  うそつき 20:07


 いや、だから噓じゃないんだよ……。

 そう心の中で呟いてみても、ちょっとした罪悪感は消えてくれない。

 もう一度言う。

 事実だけを繋ぎ合わせて嘘を作ることができると、いつか誰かが言っていた。

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