過保護お姉さんの戦い ~vs.佳澄篇 7~

「あやしい……」

 ヒロ姉の探るような視線がボクにつき刺さった。

 ボクの袖をつかむ手はそのままに、無言の圧力をもって要求を突きつけてくる。

 真実を語れと。

「あのさあ、ヒロ姉……」

 ボクは拗ねたようなヒロ姉の目をまっすぐ見返しながら口を開いた。このセリフはあまり口にしたくなかったが、どうやらそうも言っていられないらしい。

「そんな心配、ぜんぜん的外れだと思うよ?」

「どうして?」

「だって、ボクがそんなに女の子にモテるわけないじゃない……」

 なんか、とても悲しい自己分析を強いられていた。

 その点については自分でもイヤというほど分かっているし、周囲からの評価もボクの自己採点とほぼ違わないだろう。

 十五年という歳月を自分なりに生きてきて、今はその現実をなかば受け入れている上に、これから先の人生でもさほどドラスティックな変化はなかろうと覚悟もしていた。

 だけどそれをみずから口にすることは、やはりちょっとした痛みを伴うのは今でも同じだ。ましてその相手がヒロ姉なら、なおさら。

 ゴメンよ、ヒロ姉。

 二代さかのぼれば血が繋がってるはずなのに、あなたの従弟いとこはなんでこんな地味で、平凡で、つまらないヤツなんだろうね。

 そんなボクの内なる問いに答えてくれるはずもなく、ヒロ姉はただキョトンとした顔でボクを見つめていた。

 カチッ、カチッと、壁掛け時計の秒針の音がやけに耳につく。

 あまりに長く続く沈黙にちょっと気まずくなりかけた時、突然それが破られた。

「ハルくん、キミ……」

 ボクの袖をつかんだ美女が突然クリン、と首をかしげる。

「いったい何を言っているの?」

「え?」

「ハルくんみたいな優しくて可愛い男の子が、女の子にモテないわけないでしょう」

 太陽は明日も東の空から昇るでしょう、くらいの調子で言われた。

 たわむれか、あるいは同情由来のオブラートかとヒロ姉の表情を探るが、彼女の目はいたって生真面目そのものだ。

 親の欲目、というのはよく聞くし、実際にありがちだが……。いや、うちの両親は除いて。それにしても何だ、これは。わば「従姉いとこの欲目」とでも言うべきものなのか?

「だってボク、実際女の子に告白とかされたことないんだけど……」

「ハルくん相手だと、女の子たちの方が気後れしちゃうのね、きっと」

 なんたるポジティブシンキング。きっと本人の百万倍はポジティブだ。

「だけどハルくん。昨日も言ったけど、高校で知り合った女の子たちは要注意よ。特に宇津科さん」

 ヒロ姉の目が再び鋭くなる。

 美人がこういう目をすると本当に怖い。早急な法的規制を希望する。

「手際よくハルくんの連絡先を聞き出した上に、今朝のあの距離感……。いよいよハルくんを本気で狙ってくる気ね」

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