過保護お姉さんの戦い ~vs.佳澄篇 5~
「ほーう。あんな美人と一緒にねぇ……」
見やれば、果たして宇津科さんの口もとがによによと
「お年頃の男子としては、誘惑に満ちたなかなかにキツい環境ですな?」
まったくもって宇津科さんのおっしゃる通りだった。
けれど、現実は彼女が想像しているよりずっと過酷だ。
入浴後にバスタオル一枚でリビングをうろつく。
突然ボクの目の前で着替えを始める。
雨天時、ところかまわず下着を部屋干しする。
ボクという存在を度外視したヒロ姉の行動は枚挙に
しかも、何度注意しても改善が見られない。
「構わないじゃない、別に。子供の頃から見慣れているでしょう?」とはヒロ姉の弁。
いったい何年前の話だろう。そんなグラビアモデルみたいなナイスバディに見覚えはないんだが。
「まあ、美人を毎日間近で拝めるんだしいいじゃん」
さっきまでのフォローみたいに宇津科さんは言う。
確かに、ヒロ姉みたいな超絶美人と一つ屋根の下で暮らすのは目の保養にはなる。けれど、美人を毎日のように目にするということは、必ずしもメリットばかりじゃないのだ。
「慣れちゃうんだよね……」
「え、なに?」
何言ってんのコイツという顔で、宇津科さんがそう聞き返してきた。
「毎日見てるとさ、ヒロ姉の美人レベルに慣れてきちゃうんだよ。街でちょっとくらい
実際、ボクには昔からそういう傾向があった。
けれど、年に数回しかヒロ姉に会わなかった中学時代までと違って、一緒に暮らし始めたこの春以降は急激にその現象が顕著になってきた。
「ボク、ただでさえ地味でモテないのに、この上自分の理想まで高くなったら一生彼女とかできないよ」
他人から見たらアホのようなこの悩み。けれど実際その状況に置かれたら、けっこう笑い事じゃない。
これで同居人が外見的美貌偏重の、性格最悪でいけ好かないタイプだったらまた話は違うんだろうと思う。「やっぱ女性はビジュアルより内面だよねー」と、未来で知り合うだろう幾多の女性に夢と希望を託す人生もあったに違いない。
けれどボクの同居人は他ならぬあのヒロ姉。
男なら誰しもが振り返るルックスの持ち主であるのみならず、世界中の女性の中で最もボクを
そんな人が、よりによって恋愛の対象外。
これはもう、一生童貞の道が敷かれたと言ってもいいんじゃなかろうか。
「あー、いや。うん……」
そんなボクの
「……なんか、………………が、がんばれ……」
それはボクが今までに受けた最も悲しい励ましだった。地味とか、モテないとか、彼女できないとか、そういった要素に対するフォローもなし。
希望はないが、がんばれと。
荒野への道と知っても、ただひたぶるにつき進めと。
報われない努力を
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