過保護お姉さんの戦い ~vs.佳澄篇 1~
ヒロ姉にお説教された翌日、すなわち高校生活二日目の朝。
「お、三前。はよっ!」
シュボつく目をこすりながら教室のドアをくぐったボクに、明るい声が飛んできた。
隣の席の
下の名前は、えっと……。たしか「
明るい色の髪を肩のあたりまで伸ばし、胸もとのリボンタイは入学式の翌日なのに早くも少し
活発な感じの
「お、おはよう、宇津科さん」
「眠そうじゃーん。どした、徹ゲー?」
そそくさと席についたボクの肩を、宇津科さんがぱしぱしと叩く。
何か気のきいた返事の一つもしたいところだが、いかんせんボクにそんな快適機能は装備されてない。
かといって、同居人の
しかたがないので、
それにしてもこの宇津科さん、ボクみたいな中身も外見も地味なヤツに普通に話しかけてくれるとか、いい子すぎる。中学のときは、こういうタイプの女の子たちからはたいがい空気扱いされてたからね、ボク。
実のところ、昨日まっ先にメッセージアプリのID交換をしてくれたのがこの宇津科さんだったし、それも声をかけてくれたのは彼女のほうからというオマケつき。
そんな天使みたいな女の子が隣の席とか、ボクの高校生活、どんだけ夢と希望にあふれてんの?
「あ。そういえばさ、今日の部活紹介ちょっと楽しみじゃない?」
宇津科さんが、ボクのほうに身を乗り出しながらそんな話題を振ってきた。
近い。
肩と肩が触れそうなくらい近い。
しかも追い討ちをかけるみたいに、ふわりとシャンプーの香りまでが漂ってくる。
「うん。そ、そうだね……」
ばっくんばっくん跳ねる心臓をなだめながら、やっとそれだけ口にした。
いやいや、それだけじゃダメでしょ。ここが頑張りどころでしょ。なんとか話を広げなきゃでしょ、ボク。
「宇津科さんて、中学のとき何か部活やってた?」
オッケー。これ、無難じゃね? ものすごく自然だったんじゃね?
「うん、やってたよー。バレー部!」
ボクの頑張りに対するご褒美といわんばかりのこぼれるような笑顔とともに、宇津科さんが声を弾ませた。
けれど次の瞬間、なぜか眉を八の字にしてため息を吐き出す。
「でもさー、ココのバレー部って、毎年県のベスト
「そんなに強いんだ、うちのバレー部って」
「そだよ。知らなかった?」
「う、うん。部活に入るつもりなかったから、あんまりそういうの調べてなくて」
「ええ、もったいない!! せっかくの高校生活なんだから、なんかやりなよー」
自分でびっくりするくらい、ふつうに会話が進んでいた。会話が進んだだけでびっくりっていうのが、もうなんかすでにアレだけど。
「私もバレーじゃなくて、なんかノンビリやれるとこ探そっと」
ふうっと伸びをしながら、宇津科さんが独りごちる。
そのまま「どこか一緒の部に入らない?」とか誘われる展開を妄想したものの、さすがに人生そこまで甘くはなかった。
神様も仏様も、もう少しボクを甘やかしてもいいんじゃないかと思う。甘やかすだけが愛じゃないというなら、ボクは愛などいらない。
とはいえ中学三年間を帰宅部一筋で通したボクのこと、そんな誘いを受けたら受けたで、また頭を悩ますことになるのは必定だ。今のところは、宇津科さんとのこの奇跡的な距離感だけでも満足するべきなんだろう。
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