第四十八話 追い詰めた先に

「エリック!!」


 僕は思わず叫んだ。自分でもビックリするくらいの声で。


「ラルクか! フン! 相変わらずの間抜け面だな! こんなところにノコノコ現れるとはなぁ!!」


 エリックは、相変わらず人を見下すような態度でそう叫んだ。


「……エリック! どうしてこんなところに!」


「バカが! 飛んで火に入る夏の虫とはお前のことだぜ! えぇ? ラルク!」


 エリックは両手を広げて言葉を続けた。


「見ろ! この怪物軍団を! ただのモンスターじゃないぜ! こいつらはどれも神話級の遺物たちだ!」


「コイツラは……君が呼び出したのか?」


 召喚士サモナーと呼ばれる存在を聞いたことがある。


 己の魔力や生命エネルギーと引き換えにモンスターを召喚するスキルを扱うという。しかし、この規模の召喚ともなると、Sランクの召喚士が数十人は必要だろう。


 神話級や、ワールドボス級のモンスターたちがゴロゴロいるこの状況は、本当に不可解なものだった。


 エリックは、不気味な笑いを浮かべながら僕の問いかけにこう答えた。


「ハハハ!! お前は本当に愚かだな! のんきなことを言ってないでさっさと逃げなかったことを後悔するぜ?」


 エリックは、自信に満ち溢れていた。かつて同じパーティで僕を見下してバカにしていた時の調子を完全に取り戻している。


 エリックとコリウスさんとの間に何かがあり、エリックが莫大な力を持ったに違いない。このモンスターたちも彼らの手によって、何かしらの方法で呼び出されたのだろう。


「エリック! この怪物たちをどうするつもりだ!」


「バーカ! 後ろ気をつけろよ!?」


 エリックのその言葉を聞いた瞬間、後ろで断末魔が聞こえた。


「ピギャアアァァ!」


 振り返ると、10メートルはあろう大きな怪物、コカトリスが一刀両断されていた。


「カミーラ、すまない。仕事が早いね」


 僕がそうつぶやくと、「朝飯前なのですぅ!」と彼女は元気に答えた。


「な! コカトリスを一撃だと! そんなバカな……クソ! こうなりゃまとめて襲いかかれえぇ!」


「来るぞ! シンシア!」


「はい、詠唱完了です。『聖域展開』!!!」


 シンシアがそう言った瞬間、辺り一面が聖域に包まれた。


「これは! 範囲が広い! またかなりレベルアップしたね。すごいよ、シンシア!」


「えへへ、これもラルクさんとの冒険のおかげですよ」


 シンシアが10分ほど前から詠唱していた聖域の範囲は最高レベルのものだった。


 直径30メートルほどの範囲があり、その中に最初からいた怪物たちは、一瞬で無気力になり地面に横たわった。


「よし! 残りは、バジリスク! ニーズヘッグ! キマイラの三体だけだ!」


 僕はそう叫びながら、その中の一体、ニーズヘッグに立ち向かった。


「ハアアアアアアアァ!!」


 ザシュッッ!! ズシャアァ!!!


 無数のバフの効果でステータスアップした僕の一撃は、容易に古代の怪物の身体を断ち切った。


 僕の上空では、カミーラがバジリスクとキマイラを相手に空中戦を繰り広げている。


「ヤア! タア! ヤア!」


「すごい! 2匹同時に相手にするなんて! さすがカミーラだ!」


「ラルクぅ! こっちは任せろなのですぅ!」


 カミーラは、2匹を相手に翻弄しながら、僕らと距離をとったところに移動した。


 わかった。カミーラ、僕たちの戦わなきゃいけない相手は怪物たちじゃない。


 僕は、玉座でニヤニヤと笑っているエリックを見た。


 手前にいるコリウスさんは、依然としてぼーっとした表情で立っている。


「ラルクさん、コリウスさんの様子がおかしいです。意識がないような感じがします……」


 と、後ろからカエデさんが声をかけてきた。


「確かに、様子がおかしいですよね」


 僕たちの会話の様子から何かを感じ取ったのか、エリックが声をあげた。


「ああ、このジジィが気になるのか? こいつはもう死んでるぜ! 正確に言えば魂を抜いて操ってる! もう用済みだからな!」


 エリックの口からとんでもない言葉が出てきた。


「ええぇ! なんてこと!」


 カエデさんが悲鳴にも似た叫び声をあげた。


 コリウスさんとエリックの関係はわからないが、エリックを止めるしかなさそうだ。


「エリック! 君を捕まえて城に連れて行く! 覚悟はいいか!?」


「やってみろ! ゴミクズが!」


 僕は剣を構え直して、走り出した。


 視線の先でコリウスさんが、こちらに焦点を合わせて手を動かすのが見えた。

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