第四十九話 エリックの本気

 僕がエリックに向かって走り出した時、今まで動かなかったコリウスさんが九に手を動かした。


「なんだ?」


 コリウスさんが手に持った杖をかざすと、僕の身体が反転した。


「??? え!?」


 急に反転して、元いた方向に向き直り走り出した僕は身体が思ったとおりに動かせないことに気づいた。


 なんだこれは? このままではシンシアと、カエデさんに向かって切りかかってしまう!


 そう思った僕は口を開こうとしたが、またしても口が開かない。


 まずい、どうなってる!? 身体が、意思が入らない!


「ラルクさん!」


 目の前に、必死に叫んでいるシンシアの顔が迫ってきた。


「えい!」


 シンシアが何かを唱えた瞬間、僕の身体は一瞬固まった。


「……!!」


 僕の身体は急に固まったまま動かなくなった。


「時間停止効果をかけました。そして全ての状態を初期化するデフ効果をかけます!」


 全ての効果が消えた僕の身体は一瞬重くなった。やはりバフがかかってる状態だと動きが圧倒的によかったが、バフが切れるといつもの感じに戻ってしまう。


「ありがとう、シンシア。なんとか身体が動くようになったよ」


「はい、でも気をつけてください。全てのバフ効果を無効化してしまったので今は素の状態です!」


「ああ、大丈夫」


 僕はそう言って振り向き、コリウスさんの方へと走り出した。


 しかし、すぐに気づいたのだ。さっきのシンシアのデフ効果によってコリウスさんにかかっている効果も切れたらしく、彼は地面に横たわっていた。


「コリウスさん! しっかりしてください!」


 後ろでカエデさんの叫び声があがる。


「くそっ! 使えないジジイめ! そいつはとっくに死んでるんだよ」


 やはりコリウスさんはもう亡くなっていたらしい。エリックが用済みとばかりに殺して操っていたんだろう。


「あークソ! 使えないヤツばっかりだ。結局俺がやるしかねえのかよ!」


 エリックが遠くで悪態をついている。


 僕は、目標をエリックに移して、走り出した。


「エリック!」


「来い! ラルク! 俺が相手だ!」


 キンキンキンキン!


 互いの剣が交わり、火花が散った。


「ラルク! バフがなくなったようだが、大丈夫か? お前は人の助けがないと強くなれないんだろ?」


「黙れ……」


「ふん、弱々しかったお前が俺に勝てると思うなよ!? 俺はジジイの持ってきた禁書を読んで最強の力を手に入れたのだ!」


「……エリック! コリウスさんを利用したんだな? 絶対に許さない!」


「あのジジイは人が良すぎたようだな! この大陸の腐った国々を一つにまとめようとしていたみたいだ。まあ俺と手を組んだのが間違いだったな。しっかりと利用させてもらったぜ」


「エリック、君は間違っている! ここで絶対に倒し、捕まえてみせる!」


「うりゃああ! 今までの俺と思うなよ! 喰らえ!」


 その時、エリックの掛け声とともに、凄まじい一撃が僕を襲った。


暗黒疾風迅雷ダークゲイルサンダー!!!」


 周りに風が巻き起こり身体が不安定になる。剣でガードしたが、弾かれて身体ごと吹き飛ばされた。


「うわああああああぁぁ!」


「ハハハ! やっぱりその程度かよ、素のお前はよ!」


「ラルクさん!」

「ラルクぅ!」


 シンシアとカミーラが心配そうに叫んでいる。


「カミーラ、そっちは終わったのか。さすがだな……」


 カミーラは残る2匹の怪物も難なく倒したようで、今はシンシアのそばに立っていた。


「ラルクさん! 大丈夫ですか……」

「ラルクううぅ! しっかりするのだあぁ!」


 2人が僕を勇気づけてくれている。ここで終わるわけにはいかない。


「大丈夫だ……。みんな、僕は心配ない」


 僕は持てる力を尽くして立ち上がった。


 このまま終わるわけにはいかない。


 これが最後だ。


 なあエリック、君はどこで間違ったんだろうな。僕にはわからない。君も気づくのはきっとずっとあとなんだろう。


 だから、今は止める!




 僕は、剣を握りしめ渾身の力で地面を蹴った。


「エリックうううぅ!!」


「ラルクううううぅ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る