第四十七話 古城の捜索

 僕たちは、世界図書館から禁書を持ち出した大賢者コリウスを捜索するために古城に足を踏み入れていた。


「くんくん! クンクン!」


 鼻が利くカミーラが先導して古城の中を進んでいく。


「やはり何か生き物の匂いがするのですぅ!」


「それは人の匂いなのか?」


「そこまでは、でもなんだか人の匂いと獣の匂いが混じってるような気が……」


「コリウスさんやエリックの匂いとかはしないか?」


「そこまで詳しくはわかりません〜! うぅぅ……ごめんなさい」


「いやいや、いいんだ。助かるよ。ありがとうカミーラ」


「ふふふ! ラルクが褒めてくれると嬉しいのですぅ!」


 カミーラの鼻を頼りに、僕たちはしばらく城内を散策した。




 20分ほど経った時、カミーラの足が止まった。


「ラルクぅ……」


 カミーラがゆっくりとこちらを振り向く。


「どうしたんだ? カミーラ」


「この先に何か危険な匂いを感じるのですぅ」


「危険な……何かがいるのか?」


「何か、嗅いだことのない生物の匂いが……」


「な、なんだって……」


 みんなが息を呑んだ。


「でも、どちらかと言えば危険だと思うのです。そんな予感がするのですぅ」


「わかった。みんな、注意を払いながら……進もう!」


 僕たちは、そのままゆっくりと慎重に進み、角を曲がってしばらく真っ直ぐに進むと大広間が見えてきた。


 ここまで来ると、何か正体不明なものの気配を僕にも感じることができた。


「いる──」


 そうつぶやいた瞬間、向こうからの殺気が僕たちを襲った。



 ──ゾワッ!



 それは、味わったことのない恐怖、悪寒、絶望、そのどれとも違う何か畏怖めいたもの。


 とにかく怖いのだ。


 僕だけじゃなく、みんなもそうだった。


 全員の体が一瞬固まり、ほんの少しの間立ちすくんだ。


「シンシア……詠唱を、頼む。カミーラ、僕と前線を……」


「わかりました」

「わかったのですぅ……うぅ、怖い」


 戦闘民族の末裔であるカミーラは、本能に忠実だった。


 だからこそ、怖いものは怖いのだ。


 それこそが自然の摂理なのである。


 人類は古来より、得体の知れないものを恐れることで生き延びてきたのだ。


 しかし、今はもう遅い。

 僕たちの存在に、間違いなく向こうも気づいているわけで、ここで逃げても追ってくるだろう。それなら進むしかない。


「慎重に行こう。カエデさんは後ろにいてください」


「は、はい」


 カエデさんはなんとか声を絞り出すとそれだけ言った。


 僕たちは一歩ずつ慎重に歩みを進めていった。そして、大広間にさしかかったとき、目を疑うような光景が飛び込んできた。


「な、なんだこいつらは……」


 僕は、思わず言葉を失った。


 そこには、ありとあらゆる神話級の怪物たちがいたのだ。


 キマイラ、バジリスク、グリフォン、ニーズヘッグ、ユニコーンなどのモンスターたちがひしめき合っていたのだ。


 しかし、そのどれもが動いていなかった。まるで銅像かのようにただそこに立っていた。


「動いて……ないですね」


 カエデさんが、言葉を絞り出した。


「とんでもないことが起こっているのか。ここで……」


 この廃墟となった古城で何かが起こっていることは間違いなかった。


 そして、次に僕たちは大広間の中央の玉座で、その答えを見た。


「あ、あそこ! コリウスさんが!!」


 僕は思わず声を上げた。


 その視線の先にはコリウスさんがいた。彼もこちらを見ている。いつから気づいていたのかはわからないが、どこか表情は虚ろだった。


「コリウスさん! どうしてここに!?」


 カエデさんが叫んだ。思わず叫んだのだろう。


「……」


 コリウスさんは黙ってこちらを見ているが、その表情はどこか曇っているように見える。


「様子が変だ。近づいてみよう!」


 僕たちは、コリウスさんのそばへと走った。




「コリウスさん! とうとう見つけましたよ! こんなところで何を!」


 僕は、コリウスさんに向かって叫んだ。


「……」


 コリウスさんは黙ったまま、こちらを見ている。


「一体! この怪物たちはなんなんですか!? あなたは一体何をしようとしているのですか!」


 しかし、彼の表情は変わらなかった。代わりに、後ろから聞き覚えのある声がした。


「よくここがわかったな!!」




 それは、忘れもしない声。そう、エリックのものだった。

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