第四十五話 賢者のことわり
「リンドウ! いったい何を!」
大賢者コリウスを逃してしまった僕たちのもとに、リンドウと呼ばれる賢者がやってきた。
カエデさんはリンドウさんの言ったことに対して憤っている。
「あのジジィ、とんだくせ者だったな! 俺たちはまんまとヤツのために利用されたってわけだ!」
「相変わらず口が悪いですね、リンドウ! 他の賢者たちを呼んできてください。緊急会議です」
「おう」
リンドウさんはそう言ってしぶしぶ戻っていく。
その後、僕たちは7階にある会議室に集められた。6人の賢者と、僕たちのパーティがそろっていた。
図書館の館長を務める大賢者コリウスが、禁書を持ち出して逃亡した。これには他の賢者たちも言葉を失っていた。
「職員たちも混乱しています。みなさん、何か案をお願いします」
カエデさんが全員を見回す。
「行き先の検討はだいたいついている。そうだろ? カエデ!」
リンドウさんが乱暴な口調でそう言った。
「えっ、そうなんですか? カエデさん」
僕は意外だったので、カエデさんにそう問いかけた。
「それは、そうですね。ラルクさんにもお話します」
僕は、カエデさんからある国の話を聞いた。
その国は、はるか昔、隣国と戦争を繰り返していたらしい。その国の王は隣国を滅ぼすために古代の魔法を復活させたらしい。
その古代の禁忌魔法が書かれているのが『世界の根っこ』という本なわけだ。
『世界の根っこ』にはその他にも、世界を滅ぼすための方法など、危険な思想がそれとわからないようにやんわりと書いてあるというのだ。
そんな本を持ち去って何をしようというのか。その理由はわからないが、行き先としてあげられるのは、どうやら昔古代魔法を復活させた国らしい。
僕は、カエデさんからその話を聞いて、こう返した。
「その国っていったいどこなんですか?」
「それは……ラルクさんが来た国なんです」
カエデさんは言いづらそうにそう言った。
「えっ、そんな。まさか……」
「そのまさかですわ。あなたたちが来た国は、この図書館がある地域を挟んで反対側の隣国と戦争を繰り返していたと聞いています。この図書館はその戦争が終結した当時に建てられた物らしいです。中立の立場の場所として」
「じゃあ、僕の国の国王が、なにかよからぬことを企てているということですか?」
「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません」
「おい、ラルクとやら! お前はその国の冒険者としてここに来ているわけだが、そんなことも知らねーんだな!」
リンドウさんが僕に突っかかってくる。
「それは……そうですね。知りませんでした」
「わたしも知りませんでした……」
シンシアも続いた。もちろんカミーラも、だ。
「まあ、そうだろうよ。おそらく国は関係ねーからな」
リンドウさんは何か含んだような言い方をした。
「どういうことですか?」
「これは別に国王の陰謀とかじゃねーかもってことだ」
「そんな……コリウスさん個人の企みということですか?」
「いや、間違いなく仲間はいるぜ。可能性は十分にある!」
僕は、リンドウさんの言葉に続いた。
「実は、少し心当たりがあります」
「ホントですか? ラルクさん!」
カエデさんが反応した。
コリウスさんが逃げる時に、彼の体を運んでいった竜巻のような風は、なんだか見覚えがあった。
そう、エリックだ。
ずっと前にエリックが逃げた時も、突風が吹き竜巻が起こり彼の体を運んでいった。
今回のコリウスさんのそれと似ていたため、僕はほぼ確信していた。
そのことをみんなに説明し、策を練ってみた。しかし、結局はどこに逃げたかわからないためどうすることもできないという結論に達した。
「一応周辺の廃墟や、廃村などを中心に探してみますか?」
カエデさんはそう言うが、図書館の少ない担当者だけであてもなく探し回るのは困難だ。
「あの、カエデさん、他の国に応援要請などはできないんですか? さすがに図書館だけで解決できるような問題ではないと思うんですが」
僕はカエデさんにそう言った。
「そうですよね。ただ図書館は中立の立場でもあるので、なかなか一方的に意見するのは難しく……できないことはないのですが……」
カエデさんはなんだか歯切れが悪い。
「だからよ! つまりそれはジジィの仕事だったんだよ!」
その時、リンドウさんが怒気を含んだ声でそう言った。
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