第四十四話 賢者の粘り

「カミーラ! 行くぞ!」


 僕がそう叫ぶと同時に、カミーラと僕は左右に分かれて走った。


 そして、コリウスさんを挟み撃ちにする形で、左右に分かれた僕たちはコリウスさんに飛びかかった。


「ふん……」


 コリウスさんが指をクイっと上げると、僕とカミーラの体は風にあおられて宙を舞った。


 宙を舞った僕とカミーラは、そのまま高く上げられて空中を舞った。


「そんな! カエデさんが詠唱を止めたはずなのに!」


 僕は、カエデさんの方を見た。


「コリウスさんクラスになると無詠唱でもちょっとした魔法を使うことができるんです!」


 カエデさんはそう言いながら何かを詠唱し始めた。


 空中で身動き取れない僕たちだったが、その風はすぐに止んだ。


 下にいるカエデさんが別の呪文でかき消してくれたようだった。


 地上に降りながら、状況を確認するとシンシアが何かを唱えている姿が見えた。


「ラルクさん!」


 シンシアが声をかけてくる。おそらく僕たちが降りる地面に聖域を出してくれるのだろう。


 僕とカミーラが地面に降りると同時に、足元に聖域が出現する。


 腕力増強(極大)、移動速度増加ヘイスト動作省略クイックモーション攻撃速度増加アタックスピード全会心攻撃オールクリティカル、回避率超アップなどが同時にかかる。


 様々なバフが同時にかかり、力が湧いてくる。


「おっ、すごい! こんなにたくさん!」


 シンシアの聖域展開の詠唱速度が、かなり早くなってることに驚いた。


「行くぞ! カミーラ!」


「はい! なのですぅ」


 ヘイストがかかっている僕とカミーラは、コリウスさんに向かって様々なフェイントをいれながら近づいていく。


 コリウスさんが杖をかかげるのと同時に、僕の剣が杖をはじいた。


「むぅ!」


「ッハアァ!」


 僕とカミーラは、コリウスさんの右手と左手をそれぞれつかみ、動きを封じた。


「むぅ、この老体を気使ったつもりかもしれないが、きちんと攻撃しなかったことを後悔するぞ」


「ふんっ! 杖や手は使わなくとも念じるだけで魔法は繰り出せるのじゃ!」


 コリウスさんがそう言った瞬間、僕とカミーラの体は左右にふっ飛ばされる。


「ぐわああぁ!」

「きゃああぁ!」


 僕とカミーラはそれぞれ5メートルほどふっ飛ばされるも、すぐに態勢を立て直し、コリウスさんに向かっていく。


火柱ファイアピラー!」


 コリウスさんがそう唱えると、彼の周りに大きな火炎渦が立ち上る。


「くっ! これは! 近づけない!」


 火柱が轟々と立ち上るのを見て、僕とカミーラはすくんでしまう。


 しかし、すぐにシンシアの声が飛んでくる。


「お二人に追加で呪文軽減マジックバリアをかけました! かまわず入ってください!」


「ホント! すごいや! わかった! いくぞ! カミーラ!」


「はい!」


 僕とカミーラはシンシアの言葉を信じて、火炎渦の中に突っ込んだ!


 しかし、その中にコリウスさんの姿はなかった。


「ふぉっふぉっふぉ」


 その時、上空から笑い声がした。


「上か!」


 上を見上げると、コリウスさんの体がどんどん上昇し、空に昇っていた。


「また会おう。諸君。近いうちにな──」


「しまった! 逃げられたか!」




 結局、コリウスさんは、禁書『世界の根っこ』を持ち去って姿を消してしまった。


「カエデさん、あの本には何が書かれていたんですか?」


「そうですね。わたくしも中身を読んだことはないのですが、世界のことわりについて書かれた本だという噂です」


「世界のことわり……」


「はい、世界が作られた経緯と、それを終わらせる未来の方法が……」


「世界を終わらせる方法だって? そんなとんでもないことが……」


「ええ、いえ、昔話のたぐいだと思っていましたが、まさかコリウスさんが持ち出すなんて……」


「彼は何を考えてるんでしょうか」


 僕がカエデさんに問いただすと、彼女は口ごもりながら言った。


「わかりません。ですが、わたくしは大賢者コリウスを信じています。彼は何者にかに操られているだけなのではないかと思います」


 そこへ、怒鳴り声が響いた。


「そんなわけねーだろうが! 日和ってんじゃねえよ!」


 そこには、七大賢者の一人、リンドウさんが立っていた。

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