第四十二話 盗まれた本の行方

 僕たちは、世界図書館の7人の賢者たちと、その場に居合わせた。彼らは盗まれた禁書『世界の根っこ』の行方についての議論をしていた。


「カミーラさんの鼻なら、探し物を見つけることができるかもしれませんよ!?」


 シンシアは真剣じゃ表情で、僕に向かってそう言う。


「カミーラの鼻……そうか! そういうことか!」


 以前、白で姫が行方不明になった時、カミーラのするどい嗅覚によって痕跡を追ったんだった。


 とうのカミーラは、難しいことはよくわからないといった顔でボケーッとしていた。


「カミーラ、賢者たちの、みんなの役に立ってもらえないか?」


「んん? ラルクが言うなら、何でもするのですぅ!」


 カミーラはそう言って二カッと笑う。


「それは、助かるよ」


 賢者たちに向かって僕は、カミーラのことを説明した。


「なんと! そんな動物並みの嗅覚を持つ人間がいるとは!」

「頼もしい! ぜひ協力を頼もうじゃないカァ!」


 みなさん好意的に受け取ってくれた。


「ラルクくん、そしてカミーラくん。ぜひ君たちの力を借りたいのだが、よいかね?」


 コリウスさんは僕たちの目を見て真剣に頼んでくる。


「とんでもございません! 僕たちでよければ協力させてください!」


「ありがとう。ではさっそく禁書のあった場所に案内しよう」




 こうして、僕たちは『世界の根っこ』という禁書が保管してあった場所に案内された。


 その場所はこの建物の10階、最上階だった。


 コリウスさんとカエデさんの二人が案内してくれて、他の賢者たちは建物内の職員からの聞き込みに戻った。


 そこは厳重な魔法の扉に守られた、宝物庫のような部屋……ではなく、その隣の小さな部屋だった。


 コリウスさんに案内されて、僕たちはその中に入る。


 なんと、その部屋はカギもかかっていなかった。


「コリウスさん、ずいぶんと不用心な場所に禁書があったんですね……」


「ん? そうじゃな。でもそれが逆にいいんじゃよ」


「そうなんですか?」


「誰もこんなところに禁書があるとは思わんじゃろ。普通は宝物庫や、カギのかかった他の部屋が気になるもんじゃ」


「そうですけど……実際は無くなってしまったんですよね」


「う、うぅ!」


 コリウスさんは痛いところを突かれたと言わんばかりに、言葉に詰まったようだった。


「ラルクさん、あまり言わないであげてください。コリウスさん、これでも責任を感じておられるのです」


 カエデさんは僕にそう言ってきた。彼女はとてもコリウスさんを慕っているようだ。


「そうですよね。でもこんな場所にあることをどうして犯人はわかったのでしょうか」


 僕のつぶやきを聞いて、コリウスさんは表情を変えた。


「た、たしかに! つまり犯人はこの場所のことを知っておった人物ということになるかもしれんのぉ」


「確かに、そうかもしれません……でも図書館内部の人間をあまり疑いたくはないですね……」


 カエデさんは神妙な面持ちでそう言った。


「そうじゃ、それにまだ、内部のものの犯行と決まったわけではない。例えばここに長く通っている利用者のものなら、この部屋と禁書の存在に気づいていてもおかしくないはずじゃ」


「そうですよね……」


 コリウスさんとカエデさんは二人して頭をひねっている。


「とにかく、犯人の痕跡を探すために、カミーラに匂いを追跡してもらいましょう。お願いできるかな? カミーラ」


「任せてくださいなのですぅ!」


 カミーラは、そう言うと部屋の中をかぎまわり始めた。


「クンクン、クンクン!」


「どうだ? カミーラ? 何かわかったか?」


「うーん、たくさんの匂いが混じってて、全然わかんないのですぅ!」


 カミーラは、かなり困惑しているようだった。


「そうだ! コリウスさん! 『世界の根っこ』は確か珍しいインクで書いてある本じゃありませんでした?」


「むぅ、そうじゃったかの……」


「そうですよ! 水に濡れたりしても読めるように、魔力が込められたインクで書いてあったはずです! あのインクの匂いも独特なものだったはずなので、あのc匂いを辿ることができれば本が見つかるかもしれません!」


「そうじゃの、インク。インクか。あれはどこにあったかのぉ」


 コリウスさんとカエデさんは物置の中を探し始めた。




「見つからんのぉ。困ったのぉ」


 結局みんなで手分けして探すことになったが、見つからなかった。


「ここは誰か探しましたか?」


 カエデさんがそう言うと、


「そこはワシが見たぞい」


 コリウスさんがこう答えた。しかし、


「そうでしたか、一応見てみたんですが、ここにありましたよ?」


「そうじゃったか。見落としていたのぉ。でかしたぞ! カエデ」


 なんとも、他人事のようなやり取りだったが、なんとか見つかってよかった。


 そうして、魔法のインクの匂いをカミーラが嗅いで、僕たちはその匂いの後を追うことにした。

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