第四十一話 大賢者コリウス
世界図書館の賢者、カエデさんに案内されて紹介されたのは大賢者コリウスと呼ばれる120歳を超える老人だった。
コリウスさんは僕たちになにか包み紙のようなものを渡してきた。
そこにはフォーチューンクッキーと書いてある。お菓子だった。
「これの占いに出ていたからな。待ち人来る、とな。」
「う、占いですか……クッキーの……」
「ふふ、今この図書館のみんなの間で流行ってるんですよ。占いクジ付きのクッキーが」
「は、はぁ」
なにか予言のようなものが、僕たちの来訪を示したわけじゃなく、お菓子のおまけの占い紙に書かれたことだったようだ。
「ワシはこれが大好きでの。君たちにも一つずつあげよう。ほれ」
コリウスさんは、そう言って全員にクッキーを手渡していく。
マリィはクッキーをもらってとても喜んでいた。さっそく開けて食べている。
「これなんて書いてあるのー?」
マリィが僕に訪ねてくる。彼女はまだ読めない文字がたくさんあるようだ。
「これはグレートフォーチューン、大吉ってことだよ。大当たりだ!」
「あたり!? やったぁ!」
マリィははしゃいでいる。他のみんなも概ねよかったようだ。コリウスさんは楽しそうにしている僕たちを眺めながら口を開いた。
「見たところ冒険者じゃな。世界図書館へようこそ!」
コリウスさんはニコニコと挨拶してくれた。
「なにか相談があってきたんじゃろう。ワシが力になれることならいいんだが、なんでも言ってみてくれたまえ」
「ありがとうございます」
僕はカエデさんといっしょに、マリィの体質についてコリウスさんに軽く説明した。
「なるほど。ドラゴン化を止める方法か。それなら単純な最も簡単な方法が一つある」
コリウスさんは僕の顔を見てそう言った。
「それは……なんでしょうか」
「自分でコントロールすることじゃ。それが単純にして効果的」
「それは……マリィはまだ子供ですが、できますでしょうか」
「教えよう。そのために必要な本がここには揃っている。安心しなさい」
「なるほど。そんな情報が書かれた本もあるんですね」
「カエデさん、あそこの棚にある本を何冊か持ってきてくれ」
その後、カエデさんは、何冊かの本を持ってきてくれた。民俗学や、生態学、心理学の本だった。
「精神統一や瞑想によって深く自分の中に入り込み、秘めた力をコントロールする、か。難しそうだな」
「マリィ、ちんぷんかんぷん──」
カエデさんの指導の元、僕たちは瞑想を学んだ。これはマリィだけじゃなくて全員が身につけたほうがよいスキルだと思ったからだ。
その後、他の賢者たちが集まってきて、7人の賢者たちは部屋にあったテーブルを囲んだ。これより円卓会議が行われるそうだ。。
「ラルクさん、そういうわけですので今日はここまでです。1階に宿がありますので、そちらで休んでください。気になることがありましたら、また明日お越しください」
「わかりました。カエデさん、どうもありがとうございます」
僕たちは、その日は宿で休んだ。夜はみんなで瞑想をして過ごした。
次の日、みんなでまた7階にある部屋に行った。
「ラルクくんか、実は困ったことになってな……」
そこには7人の賢者たちが勢ぞろいしていた。コリウスさんは、昨日の陽気なお爺さんといった表情から一転して、深刻な顔をしていた。
「実は禁書が盗まれてな。朝から大騒ぎじゃ」
「禁書……ですか」
「ああ、この図書館における最も重要な蔵書の一つ、『世界の根っこ』という本があってな。それには世界の
「『世界の根っこ』……そんな本があったんですね……」
「ああ、それが無くなるということはこの図書館の存在意義すら失いかねないこと。今はそのことについて話しておったんじゃ」
コリウスさんは疲れ果てたような顔をしてそう言った。カエデさんの方を見ても、同じような面持ちでイスに座っている。どうやら二人とも、今日は僕らに構っている時間はないらしい。
「最近、外部の人間の出入りも増えていたからナァ! こういう事態になることも十分想定できたよナァ!」
賢者の一人が少し強い口調でコリウスさんに向かって言った。
「リンドウさん! そんな言い方をしなくてもいいのでは?」
リンドウと呼ばれた賢者に向かって、カエデさんがそう言った。
「ふんっ! 本当のことじゃないか!
「そうかもしれんが、今はそのことについて話すよりも、『世界の根っこ』をどう取り戻すかを議論すべきではないか? リンドウよ」
コリウスさんはリンドウさんを諭すようにそう言った。
『世界の根っこ』という本は、どうやら世界図書館にとって大事なもののようだ。7人の賢者たちは盗まれた本の行方について、お互いに意見は違えど真剣に向き合っているみたいだった。
「ラルクさん、ここでもカミーラさんの鼻が役に立つんじゃありませんか!?」
唐突にシンシアがそう叫んだ。
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