第四十話 世界図書館の秘密

「そんなところに角が!」


 天竜族のマリィが、髪飾りを外すと、小さな黄色い角が生えていた。薄い青髪によく映えており、とてもキレイだ。


「お兄ちゃんに内緒にしなさいって言われて、ずっと隠してた。あと尻尾もあるよ!」


 マリィはいつもふわふわとしたロングスカートを身につけていたが、お尻に生えている尻尾を隠すためのものらしい。


「これがドラゴニュートの身体的特徴ですね。実を言うとわたくしも文献でしか見たことありませんでした。こうして本物を目にすることができて今はとても驚いていますわ」


 世界図書館の賢者、カエデは僕たちと自己紹介をした後、マリィの体について解説してくれた。


 代々受け継がれてきた天竜族は、現代研究ではドラゴニュートと呼ばれているらしい。生体としては人間とほぼ同じなのだが、異なる特徴をいくつか持っている。角や尻尾、血などがその例だ。


「あとは筋肉、細胞も優れた能力を持っており、筋繊維は上部で太く、細胞の自己再生能力が極めて高いです」


「へぇ〜、そうなんですか」


「マリィ、ケガはすぐに治るよー。転んでも平気だもん!」


「そっか、すごいなマリィは!」


 僕たちは知らなかったマリィのことをいろいろ教えてもらった。マリィ自身が知らないこともあった。まだ子供のため自覚がないのだ。


「角は年齢とともに少しずつ大きくなります。大人になるとおそらく髪飾りで隠すことはできないでしょう。ですが、成長するにつれて隠すこともなくなるでしょう」


「どういうことですか?」


 カエデさんの意味深な言い方に、僕は疑問を投げかけた。


「今は少数民族は生きづらい世の中かもしれませんが、種族関係なく平和に暮らせる時代はいずれやってきます。わたくしたちがその導き手となるでしょう」


 カエデさんの言っていることはよくわからなかったが、とても良いことを言っているような気がした。


「ところで、カエデさん。マリィがドラゴンになってしまう症状を防ぐことはできませんか?」


「えっ……、どういうことでしょう……?」


「ドラゴン化してしまうんです。これも天竜族……いや、カエデさんのおっしゃるドラゴニュートの特徴なのかもしれませんが」


「えええええぇぇ! ドラゴンになれるんですか! すごい! ホントですか!  ホントですか!?」


 カエデさんは、目を見開いて急に騒ぎ立てた。まるで子供がおやつを前にしたような喜びようだった。


 この人、今までずっと無表情だったからすごいギャップだ。


「え、ドラゴニュートってドラゴン化するものではないんですか?」


「いやいやいやいや! そんなことまでは文献には載ってませんでした。もしそれがホントならすごい発見だと思います! 学会でぜひ話題にしたいくらいです!」


 カエデさんは興奮した様子で、マリィの方を見ている。マリィは少し怖がった様子でカエデさんを見返している。


「カエデさんはすごく探究心に熱い方なのですね……」


 シンシアが少し困ったように言った。


「すごいのだ。さっきと全然態度が違うのですぅ!」


 カミーラも目を丸くしている。


「カエデさん、すいません。そのドラゴン化について、実は困っているんです。理性が無くなって暴れてしまうので……」


 僕は、嬉しそうにしているカエデさんを諭すように村での敬意などを説明した。


「失礼しました。お困りの相談だったのにはしゃいでしまって申し訳ない。研究者魂に火がついてしまって……それでしたら、他の賢者たちの知恵も借りてはどうでしょうか。この世界図書館にはわたくしを含めて7人の賢者がいますので」


「7人も……すごいですね」


 僕は驚いた。賢者という存在は国に一人、いるかどうかというレベルの存在だ。それが7人も結集しているこの場所は、やはりすごいところだった。




 僕たちは、カエデさんに案内されて7階にある大きな部屋に通された。そこは関係者以外立入禁止の場所のようだった。


「失礼します。コリウス様、お時間ありますでしょうか。報告したいことが……」


「うむ……そろそろ来ると思っていたよ。話を聞こうか……」


 カエデさんは、僕たちをコリウスさんという人に紹介した。


 大賢者コリウス。120歳にして現役の図書館長。この世界図書館の創設者の一人らしい。見た目はヨボヨボのお爺さんだが、眼光は鋭く、言葉もしっかりしていた。


「君たちが来ることはわかっていた」


「そんな……、ど、どうしてですか?」


 ビックリする言葉を聞いて、僕はコリウスさんの厳かな雰囲気に飲まれまいと、聞き返した。


「それはな……」


 コリウスさんはおもむろに何かを取り出して見せてきた。なんとそれは……。

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