第三十九話 図書館の賢者、カエデ
「絵本がいっぱいあるー。うれし〜!」
「すっごいのですぅ! 見たことない本が山のようにあるのですぅ!」
マリィは絵本コーナーに目を輝かせている。カミーラも、今までほとんど本に触れてこなかったため、いろんな本を手にとって興味深そうにパラパラとめくっていた。
「ラルクさんはなにか気になる本ありますか?」
シンシアが聞いてくる。
「んー、僕は6階以降の専門書コーナーは興味あるかな。シンシアは?」
「わたしもそこに行ってみたいですね〜。どんな本があるのか気になります」
僕たちは図書館の中をあるき回りながら、上を目指して登っていった。そして5階と6階をつなぐ階段のところまできた。
階段には司書が二人いた。
「こんにちは、これより先は専門書のフロアです。なにか身分を証明できるようなものはありますか?」
僕は冒険者ギルドでもらうバッジを胸につけていたので、それを指で指し示した。
「冒険者の方ですね。お通りください」
「ありがとう」
専門書フロアは想像していたよりも規格外だった。とにかく古い蔵書が山のようにおいてあり、中には読めない文字で書かれている本まである。
「すごい! こんな言語初めて見た。いったいどこで使われている言葉なのかもわからないや」
「ラルクさん、楽しそうですね」
シンシアがにっこりと微笑んでそう言った。
僕は想像以上の驚きに一番興奮していたかもしれない。いつのまにか他の三人とはぐれて、よくわからない古代生物のコーナーに足を運んでいた。
そこのコーナーの奥の方に一人の女性がいるのが見えた。
彼女の格好はいかにも知的な、賢者というものに相応しい服装だった。きちんとした魔導師ようのローブを着こなし、長い青髪を後ろで一つに縛りメガネをかけている。
熱心にページをめくっている彼女の整った横顔は、思わずじっと見てしまうほどキレイだった。
僕は彼女のジャマをしないように、生物の本棚を眺めていく。
すると彼女が声をかけてきた。
「こんにちは、君はどんな本を探しているのですか?」
突然、話しかけられたのにはビックリしたが、おそらく彼女は図書館関係者だ。司書たちと同じようなバッジを胸につけている。
「こんにちは、えと、僕は本を探しにきたのではなく、ただ眺めていただけです」
「そうですか。本を探しにきたのではないのにここにいるのは珍しいですね」
嫌味な感じではなく、純粋に疑問に思ったような言い方で彼女はそう言った。
「それはそうですよね」
僕は苦笑しながら続けた。
「実は賢者たちを探しに、この図書館に来ました」
僕がそう言った瞬間、『まあ』と言うように、口を丸く開いて彼女は僕を見つめた。
「そうでしたか。では、なおさら声をかけてよかったです。わたくしはこの世界図書館に仕える賢者の一人です。カエデといいます」
それを聞いた僕は、驚いたと同時にやはり、とも思った。
「賢者様でしたか! 会えて光栄です。僕は王都からきた冒険者、ラルクと申します」
「ラルクさん、そうですか。王都からはるばる……、どのような要件でいらっしゃったのですか?」
「えーっと、実は……」
説明しようとしていると、ちょうどシンシアとカミーラとマリィがやってきた。
「あ、ラルクこんなところにいたのですぅ!」
カミーラは僕を見つけてそう言った。その後ろからマリィが僕に向かって走ってくる。
「ラルクおにーちゃん、いっぱい本がある! ここ楽しいの!」
マリィはそう言って僕の腰に抱きついてくる。
そんな光景を見て、カエデさんは驚いたように言った。
「まあ、その子はもしかしてドラゴニュート? 珍しいですね」
聞き慣れない単語を言われて戸惑った。
「えっ、なんですか? ドラゴニュート?」
「ええ、竜の血をひく人間のことですわ。天竜族とも呼ばれていますね」
だったら正解だ。
「ドラゴニュート、そんな言い方もあるんですね」
マリィは自分のことをジロジロ見られて恥ずかしがってるのか、僕の体の後ろに半分隠れている。
「マリィ、怖がらなくてもいい。彼女は僕たちの探していた賢者だそうだよ。さ、挨拶して」
「ここは通路なので。向こうのブースに行きましょう。なにかお話があるようですので聞きますわ」
僕たちと、賢者のカエデはテーブルのあるところに移動してから、一通り自己紹介と挨拶をした。
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