『真紅の華』の華麗なる冒険活劇 Ⅴ ジュリアン視点

「ううぅぅ、あたしをどうしようっていうのよ……! 誰かたすけて……」


 ジュリアンこと、あたしは下山の途中で道に迷い、ケガをしたところをハイオークたちに見つかり、彼らに連れていかれてしまった。




 ハイオークたちに連れていかれた先は、彼らの群れが暮らす集落だった。


 あたしは檻の中に入れられた。


 外には見張り役のハイオークが一体いる。


「うううぅ、天竜族の村でも捕まって、ハイオークにも捕まるなんて……屈辱しかないわ」


 あたしは檻の中で痛めた足をさすりながら、恐怖と屈辱に支配されていた。


「あたしは、このままどうなるのよ……誰か助けて……」


 あたしは、仲間を捨てて一人で逃げ出したことを後悔していた。


「ううぅ、あいつら……役立たずたちばかりだったけど、なんとか助けに来てくれないかしら。もう誰でもいいわ。助けてほしい……」





 檻の中にしばらくいると、見張りのハイオークが檻の中に入ってきた。


「ごふっ! ごふっ!」


 ハイオークは、鼻息を荒くしてよだれを垂らしながら、あたしに迫ってくる。


「いやあああぁぁ、何? 何するの! やめてええぇ!」


 ハイオークは両手で、あたしの両足を雑に掴んで広げてくる。


「やっ! いたいいたいっ! 痛いよぉ!」


 ハイオークの太い指がぎゅっとあたしの太ももに食い込み、激痛が走る。


「ごふふっ! ふっふー!」


 ハイオークは興奮して無我夢中になっているようだ。


 ハイオークはあたしの上半身の服に手を伸ばしてくる。服を思いっきり引っ張られて、引き裂かれた。


「何するのよ! この変態! やめなさいよおぉ」


 あたしは、必死に口で抵抗するも、実際に腕には力が入らず止めることはできない。



 ズシャッ!



 その時、何かがつぶれたような、とても不快な音が檻の中に響いた。


 あたしの体を掴んでいたハイオークの頭に斧が刺さっている。


 ぶしゅっ、と血が噴き出しハイオークは倒れた。


 すると、そこにはあたしを運ぶように指示を出していたハイオークのボスがいた。


 ボスは何かわめき散らしながら、あたしを襲っていたハイオークを斧で叩きまくっていた。


 そのハイオークはもうとっくに死んでいるのに、顔や腹に執拗に斧を振り下ろしている。


「なに……なんなの……なんて野蛮なやつらなの……」


「ごるるるっ! ごるる!」


 ハイオークのボスはあたしを見ながら嬉しそうに何かを言ってくる。


 もしかして、こいつはあたしを気に入っているのか? あたしは俺様の物だ、とか言ってこのハイオークを殺したのかしら。


 だとしたらこれはチャンスだった。なんとかこのボスに取り入ってスキを見て逃げ出せると思った。


 あたしは、なりふり構わずにハイオークのボスにすがりついた。


 色仕掛けでこのボスに取り入ることができれば、脱出の道はある。


 ボスの足元まで這っていき、すがるような表情で見上げる。


「あなたとても強いのね。あたしを助けてくれたの? うれしいわ!」


 モンスターにこびるようなセリフを言っている自分に、吐き気がしたがもはやなりふり構っていられなかった。


 なんとか機嫌を取って脱出を! そう思った時、ボスはあたしの頭に手を伸ばしてきた。


 ボスはあたしの頭を掴んで、ぐっと力を入れて持ち上げてきた。


「ぎゃあああああぁぁ、痛い痛い痛い!」


 オークの鋭い爪が、こめかみに食い込む。


 あたまを掴んで宙吊りにされたあたしをにらみながら、ハイオークのボスは何かブツブツ呟いている。


 あたしは思い知った。


(こいつら、血も涙もない。人間とは違う! 何考えてるかわからない。殺される……)




 あたしはハイオークのボスに宙吊りにされたまま、村の外まで連れて行かれた。


 そして、集落の中央にある丸太で作られた『はりつけ台』のようなものに体をくくりつけられた。


 身動きが取れず、大の字になってはりつけにされるあたし。


「ダメだ。殺される。あたしはこいつらに食われるんだわ」


 そばには大きな鍋が置いてあった。直径3メートルほどの大きな鍋だ。


 おそらくその鍋が放っていると思われる異臭が、あたりに漂っている。


 鍋の中には人骨のようなものが浮かんでいる。人間の骨でダシをとっているのだろうか。


「おえ、あそこで煮て食われるの? なんてこと……」


 ハイオークたちが次々と集まってきた。宴でも行われるのだろうか。あたしはそのご馳走になってしまうようだ。


「あぁ、あたしはもう終わりね……。ここでこいつらに食われて」


 あたしが絶望し顔を伏せた時、辺りにオークたちの声が響いた。

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