『真紅の華』の華麗なる冒険活劇 Ⅲ ジュリアン視点

 村に火を放ち、仲間を見捨てて逃げようとしたジュリアンこと、あたしに次々と災難が降りかかった。


 下山している途中で道に迷い、崖から滑り落ちて足を骨折した。そのあげくに入手難度Sランクのアイテムである竜の鱗を落として失くしてしまったのだった。




「しょげてられないわ。なんとか水辺を探して生き延びるのよ」


 あたしは、折れた足の痛みをこらえながら、地面を這いつくばって進み始めようとした。


 その時、何かいやな気配が周囲にただよった。


「え、何?」


 足に何かがついた感触がした。。


 ヘビだった。



「きゃああああああぁぁ!!」



 あたしは驚いてパニックになった。


 1メートルほどのヘビが足にまとわりついていたのだ。


 ヘビはあたしのスカートの中に頭を潜り込ませてくる。


「いやああああぁぁ!!」


 手でスカートをまくり、急いでヘビを取り払った。


 あたしは逃げようとするも、折れた足では立ち上がることができず、なんとかゴロゴロと体制を変えるので精一杯だった。


「ひいぃっ、怖いよぉ。足もいたいよぉ! ううぅ」


 ドスンッ! ドスッ! ドスッ!


 その時、辺りに何か大きな足音が響いた。


「えっ」


 ガサゴソと茂みから姿を現したのは、大きなオークだった。


「オーク! いや、でかい! ハイオークだわ!」


「ふぅー、ふぅー、ごふぅー」


 2メートルをゆうに超える大きさのハイオークは、あたしを見下ろしている。


「ひいいぃぃっ! こんなところでオークに出くわすなんてっ!」


 ハイオークは上級ダンジョンに出てくるモンスターであり、Sランクパーティといえども群れと戦う時は油断するとやられてしまうほどの強さのモンスターだ。


 古代からある山だけあって、こんな強いモンスターがウロウロしているとは思わなかった。


 ハイオークは、あたしの下半身を見て、息を荒げている。


(しまった!)


 下半身はちょうどスカートがめくれあがり、足と下着が丸出しになっていた。


「ごふうぅー、ごふうぅー!」


 ハイオークは、あたしの足の方を見ながらいっそう息を荒げた。


「な、なによ? まさかこいつ、あたしを見て興奮してるの?」


 ハイオークの下半身にあるそれは、徐々に肥大していった。禍々しい形をしたそれを目にしたあたしは、息を呑んだ。


 ハイオークが一歩踏み出し、こちらに近づいた。


「くるなっ!」


 あたしは上体を起こして剣を抜いた。


 こんなやつに襲われるわけにはいかない。


 足のケガさえなければ、タイマンでも負けることはない。だが今は立ち上がれないために、スキルの使用もかなり制限されている。


 その中でも、腕の力だけで繰り出せる『スラッシュ』を使うために剣を構えた。


 いくらハイオークといえども、なんとか足を狙ってスラッシュをぶっ放せば致命傷を与えることができるはず。


 一体だけなら、こちらが不利でも負けることはない。


 そう思って、剣を構えていた時だった。


 ドスンッ! ドスンッ! ドスッ! ドスッ!

      ドスッ! ドスッ! ドスンッ! ドスンッ!


 茂みの中から、複数のハイオークたちが現れた。その数なんと5体!!


 あたしは、絶望して剣を落とした。


「あっ! ああぁ、ああああぁぁ、いやあああああああああああああぁぁぁ!!」


 あたしは、叫びながら、必死に這って逃げようとした。


 こんな数のハイオークに襲われたら、と考えると恐怖でどうにかなりそうだった。


「ごふうぅー、ごふうぅー! ごふうぅー、ごふうぅー!」


 総勢6体のハイオークたちは、それぞれ息を荒らげながら、あたしの後を追ってくる。


「いやあああぁぁ、誰かああああぁぁ!」


 あたしは必死に叫びながら、泥だらけになって地面を進んだ。


 振り返るとハイオークたちは、ニヤニヤと笑いを浮かべながら、ゆっくりと歩いている。


 楽しんでいるのだ。


 わざと、あたしを泳がせて、泣き叫んで逃げ惑う様を眺めて楽しんでいる。


「なんてやつらなの……ひどぃ……」


 あたしは涙をボロボロとこぼしながら、その屈辱に顔を歪めていた。


 基本的に脳みそが少ないのがオーク族だが、ハイオークには得物をなぶって楽しむ意地の悪い特性があるらしい。


 こんな奴ら、パーティで狩りをしていた時ならいくらでも倒していたはずなのに……。


 今は一人で、無様に逃げ惑うしかなかった。

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