第三十六話 消えたジュリアン

「火事だー!」


「火の手が早すぎる! もうダメだ! 逃げろー!」


「何だって!」


 人々がパニックになっていた。村の方から煙が流れてくるのを見て僕たちは森に逃げ込むことにした。


「なんてことだ! このままでは村が全て燃えてしまう!」


 僕はつぶやいた。


「みなさん大丈夫でしょうか……」


 シンシアは村人たちを心配している。


 レナードもマリィを抱えて森に飛び込んでいた。


「レナードさん! みんなは!」


「大丈夫です! みんな森に避難できました!」


「そうですか! よかった……」


「ラルク、彼女たちがまだ倒れているが……」


 レナードは、僕らがさっきまでいた場所を指さす。


「あっ! 忘れてた!」


 『真紅の華』のメンバーたちは気絶したままだったので、僕たちは彼女たちを抱えて森に運び込んだ。


「ラルクさん! ジュリアンさんがいませんよ!」


 シンシアが叫んだ。


「えー! なんだって? 一人で逃げたのかなあ……まあ彼女のことだから大丈夫じゃないかな」


 消火できるような設備が無かったため、その後も僕たちは成すすべなく村が焼け落ちるのを見ることしか出来なかった。




「ラルク! あの女性冒険者たちが意識を取り戻したようだ。」


 僕は『真紅の華』のメンバーたちから話を聞くことにした。


「ジュリアンがいないですって! そんな……」


「どうして一人でいなくなったのか心当たりある?」


 メンバーの一人がこう答える。


「わからないけど……さっきドラゴンから剥ぎ取った竜の鱗が見当たらないし、ジュリアンが持っていったのかも……」


「素材を一人で持ち逃げしたってこと?」


「うーん、ジュリアンなら有り得るんだよね〜。竜の鱗をどうしても欲しがってたからさ。永遠の美を手に入れるんだって」


 仲間を置いて、素材を持ち逃げする。にわかには信じられないが、自暴自棄になった彼女ならありえるかもしれないと、他の仲間たちも口々に言っていた。


「ジュリアンってホント、自分のことしか考えてないから……」

「そうよね、私たちのことAランクだからって見下してたしね」

「ワタシはジュリアンのことキライだったわ! 正直逃げたんならもういいわ。こんなパーティ抜けてやるわよ」


 みんな、口々にジュリアンの文句を散々言い始めた。


 そして、その晩は森の中で朝を迎えた。




「ラルク! 聞いてくれ。村を調べてたんだが、火の手は民家の外から上がったようだ!」


 朝になる頃には、村は全て焼け落ち、火は収まっていた。僕は村人たちと被害を確認するために村の中を調べていた。


「レナード、それってつまり放火ってことか?」


「その疑いが強い。信じられないことだが……村の中でそんなことをするようなヤツはいない! 断言する!」


「それは……そうだろうね。だいたい犯人の目星はついてるよ」


「アイツだろ! だから逃げたんだ! 許さない……」


 レナードは憤っていた。


 犯人はジュリアンで確定だった。状況がそう物語っていた。


 『真紅の華』のメンバーたちも戸惑いを隠せないようで、みな同様に落ち込んでいた。


「とにかくケガ人が出なかったことが幸いだ。落ち着いたら、一度王都に戻って復興支援の要請をしようと思う。そして今回のジュリアンのことをギルドに報告する。君たちもついてきてくれるよね?」


 彼女たちはコクリと頷いた。




 それから三日間は、焼け落ちた天竜族の村の片付けを手伝った。そして村人たちの当面の仮住まいを、みんなで協力して作った。


 僕たちと『真紅の華』のメンバーたちは、物資や支援を要請するために王都に帰還することにした。


「ラルク。僕たちも行くよ」


 出発の朝、レナードがマリィを連れて村の入り口にいた僕たちの所へ来た。


「レナード! どうして! マリィも連れてくるってどういうことだ……」


「村の代表者として、今回の被害をギルドに伝えたい。そして村の復興支援を国王に直々にお願いするために、僕もいっしょに行かせてくれ」


 レナードは真剣な表情でそう言った。


「わかった。それじゃ、いっしょに行こう。マリィは山歩き大丈夫なのか?」


「見くびるな。天竜族の血はヤワじゃないぞ。体力、筋力は普通の人間以上にある」


 レナードがそう言うと、マリィも声をあげた。


「見くびるナー!」


 マリィは拳を強く突き出してそう言った。




 こうして、僕たちは下山することにした。

 その途中、まさかとっくに逃げたはずのジュリアンに会うことになるとは思っても見なかった。






──────────────────────


あとがき


読んでいただきありがとうございました。


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