『真紅の華』の華麗なる冒険活劇 Ⅰ ジュリアン視点

「くっ……あたしがあんな下級冒険者にやられるなんて……認めない……認めないわよ!」


 ジュリアンこと、あたしは、この状況下で必死に頭を働かせた。


 周りを見回すと仲間の四人が倒れている。みんなぐったりしている。


「ちっ……みんなやられちまって……意識があるのはあたしだけか。やくたたず共め」


 向こうの方では、あたしたちを倒したラルクとその仲間が、複数の村人に囲まれているところだった。


 あたしは起き上がると、彼らにバレないようにこっそりと木の陰に隠れた。


「何かわからないけど、村人と揉めているようね。今のうちに逃げてやるわ」


 あたしは、四人の仲間を置いて一人で逃げることにした。どうせ彼女たちはあたしよりランクの低い冒険者だ。代わりはいくらでもいる。


「また捕まったら嫌だから、さっさと下山してやるわ。こんなところ一刻も早くおさらばよ!」




 あたしは村人たちに見つからないように村に行った。村人たちのいない村は静かだった。


「しかし、このままギルドに戻るのもまずいわね……この村で捕まったあげく、下級冒険者にやられて敗走したなんて知られたら、あたしの華麗なる経歴に傷がつくわ……」


 あたしは、その二つの失敗を帳消しにできる、いいアイデアを思いついた。


「そうだ! 確実に逃げられるように、村を焼き払っちゃえばいいんだわ!」


 村を焼いてしまえば、あたしがここで捕まったなんて話も、うやむやになるでしょう。


(パニックになるから、あたしを追ってくることもないはず……我ながらいいアイデアね)


火の玉ファイアボール!」


 あたしはさっそく近くの民家に火を付けた。


 ボ、ボボボ、ボボボワアアァ!


 燃えやすい作りの藁葺わらぶきの家はすぐに燃えた。そして隣の家々にあっと言う間に燃え広がった。


 村は炎と煙に包まれていく。これは相当な被害になるだろう。


「ホーホッホ! いい気味ね。これでこの村も終わりよ! あたしを不当に拘束したバツよ! これだけ火の手が早ければ、神殿の辺りにいる奴ら全員逃げ遅れるでしょうね。ラルクたちやメンバーたち亡くなってくれれば安心ね」


 全員が亡き者になれば、あたしの悪いウワサが広まることはないだろう。


 あとはギルドに戻って火事があったことを報告し、次の人生を歩めばいいのだ。


「そうだ。なんなら火事はラルクたちの仕業にすればいいのよね。う〜ん、いいアイデアだわ!」


 あたしはさっさと村を立ち去ろうとしたが、辺りがまだ暗いことに戸惑った。


「暗いうちに下山するのは危険だけど。朝を待っていたら見つかるかもしれないわね」


 あたしは仕方なく、燃え盛る村を後にして、神ノ山を下山することにした。


「ふふ、竜の鱗も手に入れたし、これを元に加工すれば、お肌にすごくいいポーションを作ることもできそうね!」


 入手難度Sクラスのアイテムをゲットしたあたしは浮かれながら、歩き出した。




 しかし、山を甘く見ていたあたしは、この後とんでもない目に会うのだった。

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