第三十五話 天竜族の村の掟
Sランクパーティ『真紅の華』のメンバー五人と剣を交えた後、僕とカミーラは倒れた。
それと同時に、ジュリアンたち五人も倒れた。
「あたしたち五人相手に……なんて……やつだ……」
「危なかったー!」
「ギリギリだったのですぅ!」
僕とカミーラは緊張が解けたからか、腰が砕けてしまっていただけだった。大したダメージはない。
「大丈夫ですか! お二人とも!」
シンシアが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫、ちょっと気が抜けて倒れちゃっただけ。カミーラも、ね?」
「三人といっぺんに戦うのは大変だったのですぅ!」
「カミーラ、ホント強いよね」
「ほわわ〜! そんなラルクもなかなかやるのですぅ!」
「カミーラがいるから背中は安心して任せられるんだよ?」
「うううぅぅ、照れるのですぅ!」
「そうだ、ドラゴンは!」
ドラゴンと化した妹のマリィを止めるため、レナードは必死にマリィの気を引いていた。
レナードが僕たちのほうへやってくる。
「よかった。そっちは終わったか! 彼女たちを倒してくれてありがとう! これでマリィがこれ以上傷つかないで済むよ」
「マリィちゃんはどうですか? どうやったら元に戻るんですか?」
「数時間は戻らないこともある。しかしこのままでは村が……それに他の村人たちに見つかるのもマズイ。やはり力ずくで止めるしかない!」
「よし、シンシア! 聖域を出してくれ! ドラゴンになったマリィちゃんを止めるんだ!」
「はい! 任せてください。『聖域展開』!」
すると、マリィの足元に直径15メートルほどの聖域が現れた。
マリィの動きが鈍り、だんだんと動かなくなる。
「マリィさんには
「よし、動きが止まった!」
「マリィっ! 大丈夫かー!!」
レナードさんはマリィに駆け寄り、
「グルル……グルル……」
「大丈夫だったか、マリィ。痛かったよな? 怖かったよな?」
マリィは弱々しく鳴いている。そんな彼女の大きな頭を優しく撫でるレナード。
マリィの見た目は完全にドラゴンだが、そんなことを忘れさせるくらいにレナードの仕草は愛情に溢れていた。
「落ち着いたみたいでよかった……シンシア、聖域の効果はどれくらい持ちそうだ?」
「30分ほどでしょうか……それまでに元の姿に戻ればいいんですが……」
「だね」
その時、村の方から村人たちが複数名やってくるのが見えた。
「しまった……。みんなが来てしまった……もう、終わりだ……」
レナードは愕然としていた。
村人たちは、聖域の中にいる、僕たちとレナード、マリィを取り囲んだ。
「ラルクさん、一応……聖域の中にいる間は大丈夫です」
「ああ、わかってる」
「レナード! これはどういうことだ! このドラゴンは……」
「村長! これは……マリィです」
ざわざわ……ざわざわざわ……
村人たちは不穏な雰囲気で互いに顔を見合わせている。ドラゴンになってしまう呪いというのはやはり恐ろしいものなのだろうか。
「やはり……マリィは竜の子だったか」
「レナード……、なぜ隠していた!」
「それは……皆さんに……迷惑がかかると思ったので……すみません」
レナードは俯いて、声を絞り出した。
「マリィは、なぜか夜になると苦しみだし、ドラゴンになってしまうんです! でもマリィが悪いわけではないんです! 村長、どうか御慈悲を!」
レナードはすがるような態度で村人たちに迫った。
村長と呼ばれた男は一歩前に出て、レナードに厳しい顔を向けた。
しかし、次の瞬間村長から出た言葉は意外なものだった。
「顔を上げなさい、レナード。何怯えてるんだ? 我々がマリィちゃんをどうにかすると思ったのか?」
「……えっ?」
村長の言葉に遅れて、レナードは一言声を上げた。
「それは竜の呪いじゃない。立派な天竜族としての証じゃないか」
村長は笑みを浮かべて、優しい口調でレナードに声をかける。
「え、どういう……」
「随分と立派な翼だ」
「いや、あの牙を見ろ。まだまだ成長するぞ」
「こんな立派な竜化をする子は、何十年ぶりだろうねえ」
村人たちは、ドラゴンの姿になったマリィを見上げながら、次々と言葉を並べていた。
「レナード、我々天竜族は人と竜の混血の存在。しかし時たま、竜の血を色濃く受け継ぐ子が生まれるのだよ……」
村人たちの反応に戸惑うレナードを諭すように村長が言った。
「竜の血を受け継ぐ……」
「そうだ。お前とマリィの父親もそうだった。先の大戦で……亡くなってしまったがな……彼の死に際の最後の姿は、それはもう立派な竜の姿だった。」
「父が、竜……」
「レナード、お前は人間である母の血を強く引いているようだから竜化はしないようだが、マリィは天竜族の父親の血を強く引いているため竜化してしまうようだな」
「そうだったんですね……知らなかった。マリィ……」
「知らないのもムリはない。村の中でも無闇に話題に出さないのが暗黙の掟だ。それに今の天竜族の血は時代と共に薄れつつあるので、村の中で竜化する者はいない。お前たちの父親が最後の一人だと思っていたが、マリィが受け継いだようだな」
「マリィが、マリィだけが……」
「そうだ。マリィが現存する唯一の竜の末裔だ」
レナードと村長の話を僕たちは黙って聞いていた。するとマリィの様子に変化が起きた。
「レナード、マリィが!」
「あっ、マリィ!」
マリィの体はドラゴンの姿から、女の子の姿に徐々に戻っていった。まるで村長の話に納得したかのように、おとなしくなったのだった、
「マリィ、大丈夫か! しっかりしろ!」
「ううぅ、お兄ちゃん……」
「よかった。マリィ! もう大丈夫だからな!」
「大変だ! 村が燃えている! 火事だー!」
その時、辺りに村人の声が響き渡った。
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