第三十三話 天竜族の末裔、マリィ
天竜族の村の青年、レナードと彼の妹のマリィ。二人はとても仲がよかった。
二人と打ち解けた僕たちは互いのことを話し合った。
「ラルクさんたちは冒険者ですか。夢があって楽しそうですね」
「そんな、レナードさんたちだって、こんなのどかな村でのんびり暮らせるなんて羨ましいですよ」
遠くでマリィと遊んであげているシンシアとカミーラを見ながら、僕はレナードと話していた。
「のどかですか。そうだといいんですがね」
「えっ」
「ボクたちの役目はこの神ノ山の生物たちと共生し、末永く見守ること。しかし近年は山を踏み荒らす冒険者たちが後を経ちません。それに生物たちも怒っているのです」
「そうなんですか……。そういえばドラゴンというのは村にとってどういう存在なんですか」
「村にとってというより、山にとっての守護神のようなもの。我々天竜族とは血の繋がりがあるとも言われています」
「血の繋がり、じゃあ村人たちにも竜の血が流れてるんですか」
「そうかもしれません。ただボクたち自身にとってはどうでもいいことです。竜の鱗や血を求めてくるのは、外から来る人間たちだけなので」
「そうですよね……」
「まあ、今日も村でゆっくりして行ってください。くれぐれも夜は出歩かないように」
こうして、天竜族の村で過ごす二日目の夜がきた。
「ラルクぅ! またレナードがマリィを連れて歩いていくのですぅ!」
カミーラに言われて窓の外を見ると、レナードがマリィの手を引いて、昨晩と同じように村の奥へと歩いていく。
「なんだか、マリィの様子がおかしいように見える。嫌がってないか?」
「そうですね……、ちょっと声をかけてみませんか?」
シンシアに言われて僕も同意した。僕たちは宿から出て、レナードたちの後を追いかけた。
「どうしてきたんだ! 出歩くなと言っただろう! すぐに宿に戻ってくれ!」
「そんな! レナード、待ってくれ! マリィが嫌がってるじゃないか! どうして彼女を神殿に連れて行くんだ?」
僕たちはレナードとマリィを追いかけて、小道の先で神殿に入る前の二人に声をかけた。
「いいから! ついてこないでくれ! 早く行かないと……マリィ? 大丈夫か?」
「ううぅ……苦しいよ。お兄ちゃん」
マリィは胸に手を当てて苦しそうにしている。それを心配するレナードの目は優しい家族の眼差しだった。
「レナード、マリィは体長が悪いんだろ? 安静にしていたほうがいい。もしかして病気かもしれないんだぞ!」
「これは……違うんだ! マリィ、行くぞ!」
「レナード!」
僕はレナードの手を掴んだ。
「邪魔するな!」
「ううぅ……あああぁ……」
その時、マリィが低い唸り声をあげた。
「まずい! 離れろ!」
レナードは僕の手を振りほどいて、距離を取った。マリィの体から何か青白いオーラが出ている。
「ダメだ。遅かったか!」
レナードはそう言って、マリィの手を離して、彼女から距離をとった。
「あああああぁぁぁ!」
マリィが声を上げると同時に、その体は光と煙に包まれて見えなくなる。
煙がはれて、次に姿を現したのは、大きな青白い肌のドラゴンだった。
「グルルルルルッ!」
「なんだこれは……。ドラゴン!」
「これがドラゴンなのですね。わたし始めてみました……」
「ほわわ〜、おっきいドラゴンなのですぅ」
「マリィ!」
レナードはドラゴンに向かって、マリィと叫んだ。
「レナード、これは……? あれはマリィなのか?」
「そうだ! マリィはドラゴンに変身してしまう呪いにかかっている!」
「呪い!?」
「たまに夜になると苦しそうにして、ドラゴンに変身してしまう。村の者たちにバレないように、迷惑にならないように神殿に連れて行ってたんだ! 今日は間に合わなかった!」
「そうだったのか! そうとは知らず引き止めて……僕のせいですまない……」
「それはもういい。それよりもマリィを大人しくさせるのを手伝ってほしいんだ! この姿になったマリィは手がつけられない!」
「ググルルルッ!」
全長10メートルほどの大きさのドラゴンの姿になったマリィは、巨大なシッポを振り回してきた。
ブオォン! ガキン!
「せえぇい!」
カミーラが剣で受け流してくれる。
「すっごく硬いのですぅ! 手がシビレますぅ!」
「シンシア! 聖域を詠唱してくれ!」
「今からですか!」
「簡単なやつでいい。10分時間を稼ぐ! 離れた所で頼む!」
「わかりました!」
「よし、カミーラ! なんとか時間を稼ぐぞ! 村の方には行かせないようにしよう!」
「わかったのですぅ!」
「ボクも援護する!」
それから、ドラゴンの姿になったマリィを相手に僕とカミーラとレナードの三人はなんとか立ち回った。
そして、マリィが次に巨大なシッポを振り回した時、神殿の壁が壊された。
崩れた壁から顔を出したのは捕らえられていた『真紅の華』のメンバーたちだった。
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