第三十二話 青年と女の子の秘密
深夜に青年の後を追い、村の奥にある神殿へ侵入した僕たちは、捕らえられた『真紅の華』のメンバーたちを見つけた。
「おい! ラルク! シンシア! あたしたちを助けろ! この村の連中はイカれてる!」
「ジュリアンさん! どうしたんですか!」
彼女たちは、縄で拘束され身動きがとれないようだ。
「村の男に捕まって、拘束されたのよ! さっさと助けなさいよ!」
「そう言われても……この牢屋の鉄格子はどうしようもありませんよ。カギもかかってるし」
「もう! なんなのよ! 役に立たないわね! シンシア! 何見てんのよ!」
「ひっ! 見てません」
シンシアは、ジュリアンに威嚇されてビックリしている。
「ジュリアンさん、落ち着いてください。あと大声出さないでください。見つかるかもしれない」
「わかったわよ」
ジュリアンはようやく落ち着いてくれた。僕は、さっきの青年が戻ってこないか心配だった。
「僕たち、村を案内してくれた青年の後をつけてきたらここに辿り着いたんです。どうしてみなさん捕まってるんですか?」
「そいつよ! あんたたち、その男に気をつけなさい。あたしたちその男に捕まったのよ」
「どうして? 何か悪いことしたんですか?」
「別に何もしてないわ。ただ竜の血はどうすれば手に入るのかって尋ねただけよ」
竜の血、それは青年が口を
「竜の血っていうのは、一体なんなんですか?」
「そのまんまよ。ドラゴンの生き血のこと。飲めば大いなる力を手に入れることができるとされているわ」
「大いなる力、ですか」
「ドラゴンの寿命は恐ろしく長いとされてるわ。だから、その生き血にはおそらく、不老不死や自己蘇生の力が備わってるんじゃないかと言われてるのよ」
「不老不死、ですか」
「そうよ。人間なら誰でも憧れるでしょう! あたしは永遠の美が欲しいのよ」
ジュリアンはそう言って不敵な笑みを浮かべた。
ギャオオオオオオオン!
その時、建物の奥から不気味な唸り声が聞こえてきた。まるで獰猛な肉食獣のような唸り声だ。
「なんだ! 今の声は!」
「ひぃ! ひいいいいぃぃ! アイツよ! ドラゴンよ!」
ジュリアンさんはヒステリックにそう叫んだ。
「えっ!」
「この神殿の奥にはドラゴンがいるの! あたしたちはあの男とドラゴンにやられて捕まったのよ!」
「何だって!」
「ラルク、入り口の扉が開く音がしたのですぅ! 誰か来るのですぅ!」
まずい、さっきの青年だろう。
「隠れよう!」
僕たちはとっさに柱の影に隠れた。
しかし、青年に見つかってしまった。
「あなたたち! ここで何してるんですか! ここは立入禁止です!」
「しまった! 見つかった!」
「あなたたち! そこにいてください! あとで詳しく話を聞かせてもらいますよ!」
青年はそう言って、唸り声のする神殿の奥へと走っていった。どうやら僕たちに構っている時間はないようだ。
「ジュリアンさん、今夜はもう戻ります! 明日必ず助けに来ますから!」
「わかったわ! 必ず助けてね!」
僕とシンシアとカミーラは神殿を後にして、宿に戻った。
神殿に勝手に入ったことを、青年に咎められるかと思って僕たちは不安に包まれていた。
「まずかったなあ」
「思いっきり見つかっちゃいましたね……」
「彼が来るかもしれないから、交代で見張りをしながら寝ようか」
結局その後、青年が宿に来ることはなく、そのまま夜が明けた。
翌朝、宿で朝食をとっていると、青年が現れた。
「みなさん、昨晩のことでお話があります」
「ああ、僕たちの方も話があるんです」
僕がそう言うと、青年はジッと僕の顔を見つめてくる。
「『真紅の華』の皆さんはどうして捕まってるんですか?」
「やはり彼女たちのことですか。あれは彼女たちが悪いのです」
「……どういうことですか」
「あなたたちは、彼女たちの知り合いなのですね。では、正直に話しましょう。彼女たちのことを……」
青年は、僕たちの前に腰を降ろし、ジュリアンたちのことを話してくれた。
「彼女たちは、少し前にこの村を訪れて散策していました。そして立ち入り禁止の神殿を夜中に訪れてしまったのです。昨晩のあなたたちと同じようにね」
青年は、僕たちの顔を見回してきた。
「あの神殿には、夜になると現れるドラゴンがいるのです。ドラゴンはこの山の守り神とされている神聖な存在です。ボクはドラゴンを守る役目を担っており、神殿の管理も任されています」
「ドラゴン……昨日、僕たちが聞いた唸り声はドラゴンのものだったんですね」
「えぇ、そして彼女たちは、竜の生き血欲しさに、神聖なドラゴンに襲いかかりました。しかしあえなく返り討ちにされてしまったのです」
「そうだったんですか……」
「なので、彼女たちの身柄はこちらで拘束させてもらいました。本当に反省するまでは出すつもりはありません。これはボクだけでなく村人たちの総意でもあります」
「ジュリアンたちがそんなことを……、うーん、なんと言っていいやら」
「別にあなたたちをどうこうするつもりはありませんよ。見たところ優しそうな心をお持ちだ。しかし、彼女たちを解放することはできません」
青年と話していると、宿に小さな女の子が入ってきた。
「お兄ちゃ〜ん。お話まだ終わんないノ?」
お兄ちゃんと呼ばれた青年は、顔を赤くして立ち上がった。
「マリィ! お兄ちゃんは今大事な話をしているんだ。後で遊んであげるからお外に行ってなさい」
青年のあたふたした姿に、さっきまでの態度とギャップを感じてしまい僕たちは思わず吹き出してしまった。
「ふふ、妹さんですか?」
「ああ、申し訳ない。この子はマリィと言ってボクの妹です。そう言えば自己紹介もまだでしたね。ボクはレナードと言います。村の案内役や管理を務めています」
「僕はラルク」
「わたしはシンシアです」
「アタシはカミーラですぅ!」
マリィという女の子が、この場に来たことでいっきに雰囲気は緩和され、僕たちは打ち解けることになった。
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