第三十一話 天竜族の村
僕たちを出迎えたのは、一人の青年だった。
「ようこそ、この地は神の宿る神聖な土地です。くれぐれも村の中では騒がないようにしてください」
そう言って、村の青年は僕らを宿へ案内してくれた。
「なぁなぁ、あの人肌が青白いなー、さっきのサンダーイーグルみたいだー!」
「こら、カミーラ! 聞こえるぞ」
青年は足を止めて、振り返った。
「ボクのこの肌が気になりますか?」
「あ、いや……その肌の色の人間は初めて見るもので、珍しいですね」
「この村に住んでいるのは天竜族。かつて竜と血を分け合い生き延びたという先祖の末裔です」
「へぇ、そんな伝説があるんですね」
僕が軽く返事をすると、青年は態度を急変させた。
「これは伝説ではありません! 事実です!」
「あ、すいません。そうだったんですね」
「あなたたちも……まさか竜の鱗目当てですか?」
「えっ? いや、僕たちは人を探してまして。女性5人組の冒険者パーティがこの村に来ませんでしたか?」
青年は、視線を少し泳がせてからこう答えた。
「ああ、そのパーティなら何日か前にこの村を訪れました。ただもう村を去りましたよ」
ウソだ。僕はそう直感した。だが口には出さなかった。
『あなたたちも……まさか竜の鱗目当てですか?』
僕は、先程の青年の言葉を思い出していた。
竜の鱗というのは入手難度Sクラスのレア素材の一つで、めったに市場に出回らないとされている。この山で入手できることは僕でも知らなかった。
案内されたのは、小さな宿で宿泊客は僕たちしかいなかった。
「ラルクさん、どうしますか? 『真紅の華』の皆さんはもういないみたいですが……」
僕は、先程の青年に感じた違和感をシンシアに話した。
「ウソ、ですか?」
「んー、ウソというか、彼は彼女たちの居場所を知っているという感じだった」
「まだ村にいるのでしょうか。少し散策してみますか?」
「そうだね。少し出歩いてみよう」
僕たちは村の中をブラブラと歩いて、人々に話を聞いた。
村人たちは自然と共存しており、農作業や植物の採集をして生計を立てているようだった。
村の奥に小道が伸びていた。その先へ行こうとすると、後ろから声をかけられた。
「その先には立ち入らないでいただきたい」
先程の青年だった。
「あ、すいません。この先には何が?」
「部外者には関係ありません。とにかく近づかないでいただきたい。村の中を回っていたようですが、何か情報は集まりましたか?」
「あ、いえ、特には。皆さん幸せそうに暮らしていますね」
「この地は神々に守られた土地。太古より自然と共生していますので。しかし最近は竜の血や鱗を求めて山を踏み荒らす冒険者たちが跡を絶ちません。
「竜の血というのは?」
「ん? なんですか? そんなこと言ってませんよ……」
「えっ……、あー、いや、今確か」
「とにかく、もうすぐ夜になるので、今日はもう宿でおやすみください。明日、またゆっくりとお話を伺いますよ」
「わかりました。ありがとうございます」
なんだか青年に上手く誤魔化されてしまった。仕方ないので、僕たちは宿に戻り一泊することにした。
「ラルクさん、あの村の青年、なんだかわたしたちをあまり歓迎してないようですね」
「そうだね。結局名前も聞いてないや。明日聞いてみよう」
「ラルクぅ! ご飯もう少し食べたかったなー。まだまだ食べられるなー!」
「仕方ないよ、カミーラ。我慢するんだ」
宿で出された食事は質素なものだった。
そして僕たちは眠りについた。
夜更けに、カミーラの声で目を覚ました。
「ラルクぅ、ラルクぅ! 起きて起きて!」
「どうした? おしっこか?」
「バカァ! 窓を見て! あのオトコが歩いてるぅ! 村の奥に向かって歩いてるぅ!」
窓から外を覗くと、昼間の青年が村の奥の小道を歩いて行くのが見えた。
青年の隣には小さな女の子がいる。
「ホントだ。こんな深夜に何やってるんだろう。あの女の子は誰だ? 昼間は見かけなかったけど……」
「ラルクさん! 行ってみましょう!」
シンシアがまさかの乗り気だった。
「う〜ん。行ってみるか。見つかったら怒られそうだから慎重にいこ!」
僕たちは、宿をコッソリと抜け出して青年の後を追った。
青年と女の子が歩いて行った小道を進んでいくと、開けた場所に出た。そこには白い壁で作られた神殿があった。彼らの姿は見当たらない。この中にいるのだろうか。
「
「中に入ってみますか?」
シンシアが僕に聞いてきた。
「勝手に入るのはまずそうだけど行ってみるしかないか」
「待ってください! 誰か出てきますよ!」
僕たちはとっさに茂みに隠れた。
神殿から出てきたのは、あの青年一人だった。さっきの女の子はどうしたんだろうか。
青年が村の方に戻って行くのを確認して、僕たちは神殿に侵入した。
中はろうそくの明かりが灯っていた。
奥へ進むと、何やら複数の女性の声が聞こえてきた。
「あ、あなたたちは!」
そこにいたのは『真紅の華』のメンバーの五人だった。牢屋のような部屋に五人は閉じ込められていた。
リーダーであるジュリアンが口を開いた。
「シンシア! そしてこの前の、Bランク野郎!」
「あの……ラルクです」
名乗るのは三度目だ。いい加減に覚えてほしいものだ。しかし、なぜ彼女たちは捕まっているのだろうか。話を聞くことにした。
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