第二十九話 魔道具の秘密
「こんなすげえクリスタルは見たことねえ! どこで手に入れたんだ!」
僕が渡したクリスタルを見て、加工屋の主人が大声で叫んだ。
エリックに逃げられた日の翌日、僕とシンシアとカミーラは、加工屋に集合して装備を調達していた。
「すげえや。とんでもない魔力が内包されてやがる!」
加工屋の主人はレンズを使ってクリスタルをいろんな角度から眺めている。
「マウリの里にある禁忌の洞窟で手に入れた物です。これを使って杖を作ってもらえませんか」
マウリの里の村長にもらった小さなクリスタルの破片は全てギルドに納品したが、一際大きなクリスタルだけは手元に残していた。加工屋の主人に作ってもらいたいものがあったからだ。
僕は、シンシアと主人と相談しながら、作って欲しい杖の詳細を伝えた。
カミーラは会話には参加せず、その間、店の商品を見ていた。
「なるほど。注文通り作るには一工夫必要だがなんとかやってみよう」
「よろしく! じゃあ、また取りに来ますね!」
「ああ、徹夜して明日の朝までに作っておくぜ」
「ありがとうございます!」
「ラルクぅ! これ買ってほしいのですぅ!」
カミーラはずっと商品を眺めていたが、しっかりとした皮のグローブを気に入ったようだ。
加工屋を出た後は、近くのレストランで三人で食事をした。
「ラルクさん。楽しみですね! しっかり使いこなしてみせますね!」
シンシアは上機嫌だ。
「うううぅ? さっき三人で何話してたのですかぁ?」
「えーっと、カミーラは詠唱ってわかる?」
「ほわわ〜……? シンシアが聖域を出す時に唱えてたやつですぅ?」
「そうそう。その詠唱を短くするための装備品を注文してたんだ」
「ううぅ? そんなこと出来るのですか〜?」
「杖に詠唱時間短縮の効果を付与するんだ。それによって詠唱を短かくできるのさ」
「ほわわ〜! すごいですぅ! ラルクはなんでも知ってるのですぅ!」
「ラルクさん、わたしの装備のことまで気を使ってもらって嬉しいです」
「これで聖域展開の詠唱を少しでも縮めることが出来たらいいと思ってね」
「わたしも、詠唱時間を削って短めの聖域を出せるように先日から練習してました」
「そうなの? 食事の後に、是非成果を見せてほしいな」
「わかりました。でも……おかわりしてもいいですか?」
「おっかわりー! おっかわりー!」
食欲旺盛な二人は今夜もそれぞれ5人前ほどの食事をたいらげていた。
翌日、僕たちは加工屋の主人から注文の杖を受け取った。
「いいか! これはラピッドスタッフと名付けた! 詠唱時間−50%、詠唱時間−1分の効果が付与されている。更に詠唱を中断されることなく行うことができる補助機能も備わってるぜ」
主人はこう言っていた。とてもよい物に仕上げてくれたようだ。
そして、僕たちはその後、早速シンシアのスキルを試していた。
「ところでシンシア、練習中のスキルを見せてくれない?」
「わかりました」
「
シンシアが何事か唱えると、彼女の足元に小さな聖域が出来た。
「えっ! 早い! それは何?」
「人一人分の範囲に出せる聖域です。この中にいれば効果時間内なら何回でも攻撃を防いでくれますよ。スキルレベルによって効果時間は変わるみたいです」
「す! すごいじゃないか! 時間内なら何回も攻撃を防いでくれるの!? いつのまにこんなスキルを!」
「えへへ、ラルクさんに褒めてもらいたくって秘密で練習してたんですよ!」
「シンシアは頑張ってたのですぅ!」
「そうだったのか。ホントにスゴイよ!」
「杖のおかげですね。ホントは2分ほどかかるんですけど、詠唱時間カットの効果のおかげでほぼ無詠唱で唱えることができました!」
普通、杖には魔法威力上昇の効果を付与するのが一般的だ。詠唱時間は術者の努力で短くすることが効果的と言われている。
またはスキルの効果を下げれば詠唱時間は自然と短くなる。
詠唱時間1時間どころか、2分のスキルであっても使い物にはならない。
しかし、シンシアの場合は詠唱時間を削らないことで効果を大幅に向上させている。
だからこそ、杖に付与した詠唱時間カットの効果が活きるのだ。
その日、僕たちが城に向かって聞いたのは、エリックの行方がつかめなくなったという情報だった。
どうやら彼は追手の兵士たちを完全に振り切って逃れたらしい。おそらく隣国の町まで逃げたというのが捜索隊の見解だった。
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