第二十四話 女性だけのパーティ『真紅の華』

 シンシアが元いた女性だけのパーティ、『真紅の華』のメンバーたちとギルドでバッタリ出会った。


 彼女たちの一人が、僕たちを引き留めるように大声で声をかけてきた。


「うちから逃げ出した役立たずの聖女さんじゃないの? ごきげんよう」


 嫌味ったらしくそう言ってきた彼女は、風貌はいかにも気の強そうな女剣士といったところだ。


「ど、どうも……」


 シンシアは目を逸らしたまま、小さい声で返事をする。


「あれからどう? 頑張ってる? 安心してね。あなたが抜けてから、こちらは至って平和よ」


「そう……ですか。よかったです」


 シンシアの表情を見て、僕は堪らず口を挟んだ。


「あの、はじめまして。僕はシンシアとパーティを組んでるラルクというものです。彼女になにか御用ですか」


「あら、どうも。あたしはジュリアンよ。『真紅の華』のリーダーをしてるわ」


 そう言ってジュリアンは、胸についているバッジを見せつけるように胸を張る。


(あのバッジは確か、国王に認められたSランク冒険者の証)


 それはSランク冒険者の中でも全員が付けているわけではない。功績を認められた一部の者だけに与えられるバッジだった。


「失礼だけど、ラルクさん。あなたのランクはいくつかしら? お初にお目にかかるわね」


「僕は先ほどBランクになりました」


「そう、Bランクなのね」


 彼女はどうでもよさそうな感じで、視線を僕の隣のカミーラに移した。


「ほわわー! アタシはFランク! Fランクなのですぅ!」


 カミーラはランクをもらえて嬉しいのだろう。ジュリアンに向かって叫んだ。


「まあ! Fランク? あなたとってもお強いのね?」


 ジュリアンは明らかにバカにしたような態度で、カミーラにそう言った。


「ううぅ! そうなのですぅ! マウリの里の戦士はと〜っても強いのですぅ!」


 カミーラは嫌味を理解していないらしく、素直に返事をしている。とても彼女らしい反応だった。


「あ、あの……」


 シンシアが何か言いたげに口を開くが、ジュリアンはすかさずそれに被せてくる。


「シンシアさん! この二人が新しいお仲間かしら? なんだかとても頼りがいがありそうで羨ましいわね! FランクにBランク、あなたにはと〜ってもお似合いのパーティだわ〜!」


 冒険者ランクに比例して、性格の悪さも増すものなんだろうか。エリックにしろこのジュリアンにしろ、少々態度が悪すぎる。


「あの、ジュリアンさん。彼女は……シンシアはとても有能なスキルで僕たちをサポートしてくれます。恐らく『真紅の華』にいた頃の彼女は、能力を発揮できていなかったと思いますが、今はとてもいい仕事をしてくれてますよ。ですから安心してください」


 僕は、いっきに喋った。


 ジュリアンは、少し呆気に取られた表情をしてから、僕を睨みつけてくる。


「はあぁぁ〜? 何よあなた! あたしに向かって何を言いたいわけ? シンシアが役立たずだったのは、あたしたちが悪いと言いたいのかしら?」


「そうじゃありません。適材適所があるということです」


「よかったわね。無能で役立たずで何も出来ない女にも適所があって! ねえシンシア!」


「……」


 シンシアは、返事をすることなくジュリアンを見ていた。


「何よ。何かいいたげね。あら? そのペンダント」


 ジュリアンは、シンシアに一歩近づいた。


「これが無くしたって騒いでたペンダント? 見つかってよかったわね。この輝きはけっこうな……」


 ジュリアンはそう言いながら、シンシアの胸元に手を伸ばした。


「触らないで!」


 シンシアは両手でペンダントを覆い隠した。彼女が力強い言葉で拒否反応を示したことに、思わず手が止まるジュリアン。


「何? 何何? そんなに大事なペンダントなの? あたしにも見られたくないくらいに! フン! どうせ安物でしょう? 大した物じゃないわ!」


 ジュリアンは、シンシアが拒否反応を示したことに、苛立ちを隠しきれないようだ。


「じゃあね。あたしたちはもう行くわ。実はこの後、王宮での食事会に呼ばれてるの。あたしたちくらいになると王族との付き合いがあったりするものなのよ。ほんと忙しくて困っちゃうわ」


「ジュリアンさん、またどこかで会ったらよろしくおねがいします」


 そう言って去っていくジュリアンの背中に、僕は手短に言葉を投げかけた。


「シンシア、気にしないで。何かおいしいものでも食べようか!」


「……はい! そうですね! 食事にしましょう!」


「ここで食べるのでいいの? けっこう騒がしいけど」


「たまにはいいですよ。賑やかなのも!」


 シンシアにしては珍しい。今日はそういう気分なのだろう。


「ごっはん! ごっはん!」


 カミーラは王都での初めての食事に浮かれていた。




 その後、ギルドの酒場で三人で食事をした。


 カミーラの食欲は凄まじく、大人5人分くらいの食事を一人でたいらげた。


「ウマウマなのですぅ! ここの料理はと〜っても、美味しいのですぅ!」


 カミーラの食欲は、他のテーブルの冒険者をもあっと驚かせていた。




 食事を終えて帰ろうかとしていると、ギルドの入り口で城の兵士に声をかけられた。


「ラルク様ですか。アーサー殿下より言伝ことづてを預かっております」


「え! アーサー殿下から!」


「はい、ラルク様には明日、国王に謁見してほしいとのことです」


「ええっ! 国王と会えって? なんかそんなこと言ってたけどホントだったのか……」


「明日の午前10時にこのギルドにお迎えに上がりますので、是非お仲間の方といっしょにいらしてください」


「わかりました。わざわざありがとうございます」


「どうしたのだ? 明日どっか行くのか?」


「カミーラ、明日はこの国の城へ行くことになったよ。とっても広い大きな城だ」


「お城! おっしろおおぉぉ! ううううぅ! ワクワクするのですぅ! 明日はお城に遊びに行くのですうぅ!」


「こらこらカミーラ、遊びに行くわけじゃないよ」




 こうして次の日、僕たちはアーサー殿下に呼ばれて、国王と会うことになった。






──────────────────────


あとがき


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