第二十三話 ランクアップ、シンシアの不安
マウリの里から、王都に帰ってきて僕とシンシアとカミーラはクエストの報告をするために冒険者ギルドに向かった。
「ラルクさん! あんたら! またすごいことをやってのけたもんだ!」
「ギルド長! ど、どうしたんですか!」
冒険者ギルドに入るなり、ギルド長が僕の元へ飛んできた。
「あんたらの活躍は、昨日のうちにアレスさんやアーサー殿下から聞いたぜ!」
ギルド長が大声を上げたものだから、他の冒険者や受付嬢も何事かとこちらを見てきた。
「ラルクさんが帰ってきたぞ! 今度はマウリの里を救ったらしい!」
「堂々たる風格。英雄のご帰還だな」
「あの英雄アレスさんでも、倒せなかったモンスターを倒したらしいわ」
何やらみんなが僕の方を見てウワサしている。『挑発』スキルを使っていないのに、こんなに人々に注目されるのは初めてのことだ。
「なんでも何百年も封印されていた伝説クラスのモンスターを倒したんだって?」
「ええ、とても手強い相手でした。そういえば、これ報酬品なんですがギルドに収めます」
僕は、大きな袋を取り出してギルド長に渡した。中にはたくさんのクリスタルの欠片が詰まっている。
「うわあ、何だこりゃ! 見たこともねえ綺麗なクリスタルの欠片がいっぱい入ってやがる!」
「魔力も少し帯びてるようなので、魔道具作りに役立ててもらえたらいいと思います」
「いやあ、毎度毎度助かるよ。こんな上質な素材を納品してもらえることは、Sランクパーティでもめったにないからね」
ギルド長はそう言うと、表情を少し歪ませ、声のトーンを落として言った。
「そういえば、エリックさん。あんたのことを襲ったんだって? アレスさんが衛兵といっしょに連れていっちまったよ」
「あー、はい。エリックはなぜか僕に恨みがあったみたいで……」
「とんでもねえやつだよ、あいつは。自分で追放したラルクさんを逆恨みして襲いかかるなんて」
「エリックは何か言ってましたか?」
「ギルドの前に止まった馬車の中で、縛られているのを遠目で見ただけだが、何やら目が虚ろで、ブツブツ言ってるように見えたな。そのうち廃人みたいになりそうだなと思ったよ。とにかく見ていて哀れだった」
アレスさんたちはノエルとアリサをギルドに送り届けるために立ち寄ったらしい。そしてギルド長にエリックのことを報告している間、話を聞きつけた他の冒険者たちも集まってきて、一時はギルド内が騒然としたらしい。
「他の冒険者たちも驚いてたよ。まさかSランク冒険者で勇者と呼ばれていたエリックがあんな風になるなんてな。まあ傲慢なところがあったから元々そんなに好かれてはいなかったみたいだけどな」
「そうでしたか」
僕はギルド長との会話を終えると、シンシアとカミーラの所へ行った。彼女たちはギルドの中を見回っていた。
カミーラが冒険者ギルドは初めてだというので、シンシアが案内してあげていたのだ。
と言うよりも、カミーラは村から出て他の町へ来るのも初めてだったので、王都に足を踏み入れてからも興奮しっぱなしだった。王都に来て、まず人間の多さ、そして男の多さにびっくりしていたようだが、次第に慣れたようだ。
「ほわわわ〜、すごいですぅ、すごいですぅ! 見たことのない武器や防具がいっぱいあるのですぅ。冒険者たちもみんな強そうなのですぅ」
カミーラは他の冒険者たちを見てビックリしているが、おそらくSランク冒険者たちと比べても彼女の強さは引けを取らないのではないだろうか。昨日の彼女の戦いぶりを見ても僕やエリックより強いように思えた。
「カミーラも冒険者登録してみるか? というか僕たちのパーティに入るにはしないといけないんだけど」
「冒険者! アタシも冒険者するのですぅ!」
受付へカミーラを連れて行き、冒険者登録を行った。
「えー、カミーラさん。あなたは冒険者へ初めての登録になるのでFランクの冒険者になります」
最初は誰でもFランクからスタートだ。過去に実績があったり、パーティを脱退した者はEランクからの再スタートになる。僕やシンシアがそうだったように。
「Fランク! Fランク」
カミーラはランクの意味を理解していないのだろう。とにかく冒険者になれたことが嬉しいようだ。
彼女の戦闘力だけ見れば、正当に評価するならSランクが妥当だろう。だがカミーラは冒険者になれてとても喜んでいるようなので、そこは別に気にしないことにした。
「カミーラ、これでいっしょに冒険ができるな」
「ううう! ラルクと冒険! ワクワクするぅ!」
「ラルクさんとシンシアさんはBランクになります、そしてパーティランクもBランクになります」
「ありがとうございます」
「もうBランクまで上がったんですね! ラルクさんとパーティを組んでからランクアップがすごく早いです! さすがラルクさんです!」
シンシアが嬉しそうに僕の方を見る。
「いやいや、シンシアのおかげだよ。君の唯一無二のスキルのおかげで困難を乗り越えられていると思ってるよ」
「ふふ、そう言っていただけると嬉しいです。ラルクさんとパーティを組んで本当に良かったです」
「シンシアは、前のパーティではランクはなんだったの?」
「パーティ自体はSランクでしたが、わたしはDランクでしたよ」
「そうなんだ」
その時、ギルドの入り口の方が少しざわついた。
「ほわわ〜、あの人たちアタシと同じ女戦士なのですぅ」
入り口の方には四人の女性がいて、他の冒険者たちの視線を集めている。
「あっ……」
その時、彼女たちを見たシンシアの表情が曇った。
「あの人たちが、わたしの元いたパーティ『真紅の華』の皆さんです」
「あ、彼女たちがそうなんだ。なんかすごく人気があるみたいだね」
「はい、皆さんとてもお綺麗ですし、Sランク冒険者なのでとても人気があるんです。わたしだけがDランクの落ちこぼれでしたから……」
「あの人たち、強そうなのですぅ! 村の外にもあんなに強そうなオンナがいるなんでビックリなのですぅ」
確かにSランクというだけあって風格は堂々たるものだ。見た目も華やかで注目の的になるのは頷ける。
だが彼女たちはシンシアを追放した者たちだ。シンシアも顔を合わせるのは嫌だろう。
「シンシア、酒場で何か注文しようか」
それとなくシンシアを
すると、ちょうど『真紅の華』のメンバーたちがこちらへズカズカと歩いてくるのが見えた。
「あ〜ら、誰かと思えばうちを出ていった役立たずの聖女様じゃないの!」
彼女たちのうちの一人が、無神経に大声を出しながら僕らに、いやシンシアに声をかけてきた。
シンシアの表情が更に曇るのがわかった
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あとがき
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