第十七話 封印されし謎の思念体

 禁忌の洞窟の封印の門がエリックによって壊されたようだ。悲鳴のする方へ行くと外へ出てしまったモンスターが村の中で暴れていた。


 村人たちが逃げ回っている。


「くそぉ! なんだこいつ、攻撃が当たらねえ!」


 エリックたちが戦っているその中心には、大きな半透明なモンスターがいた。オークのような姿をしているが、輪郭がボヤけていて実体が掴めない。


「こいつに物理攻撃は通じない! これは思念体だ!」


 英雄アレスが、エリックたちに向かってそう叫んでいるのが聞こえた。


 洞窟内で長年封印され続けたモンスターの体は朽ち果てて、思念体になったようだ。村長の言っていたことは本当だった。


竜巻打撃トルネードバッシュ三連!!!」


 スカッ! スカッ! スカッ!


 エリックが繰り出す剣技は、全て無残に空中に放たれた。


「くそっ! ダメだ! ノエル! お前の大魔法を頼む」


「わかったわ! はああぁ! 四大幻想テトラエレメント!!」


 ノエルの周りに火、水、地、風の魔力の塊が現れ、それらが一斉に対象に向かっていく。


 ボワアアア! シュバアアア! ズドドドドド! ひゅうううぅ!


「そんな……まったく効かないわ」


 その時、思念体が発光したかと思うと、エリックたちの体は吹き飛ばされた。


「うわあああああぁぁ!」

「きゃあああああぁぁ!」


 エリックたちは手も足も出ないようだ。謎の思念体は恐ろしく強い未知なるモンスターだ。

 あんな実体の無い相手に僕の『挑発』が効くのか不安だったが、やってみるしかない。



スキル『挑発』! 対象は謎の思念体 威力は特大!



 すると、思念体は僕の方へすごい速さで向かってきた。


(よし! 効いた。このままシンシアの所まで引き付けよう)


 僕は、急いでシンシアのいる所まで戻ることにした。


 この思念体、物理攻撃や魔法攻撃が効かないようだが、聖域にさえ入れてしまえば弱体化して無効化できるはずだ。その間に封印の聖剣を抜いて攻撃すれば倒せるはず!




 僕が駆けてくる姿を見つけたシンシアは、聖剣の刺さっている場所にタイミングよく聖域を展開させた。


「ラルクさーん、こっちですよー! えいっ、『聖域展開』!」


(あともう少しで聖域内だ!)


 その時、背中に悪寒が走った。


 思念体のオーラが僕の身体に纏わりついてきたのだ。


「うわああああぁぁぁ」


 僕は思念体の邪悪なオーラによって抑えつけられて、地面に倒されてしまった。


「ラルクさん! 大丈夫ですか」


 シンシアが叫ぶ声が聞こえた。


(くそ、失敗した。聖域は目と鼻の先だったのに)


 思念体の邪悪なオーラが、僕の身体をギリギリと締め付ける。


「ぐわあああぁぁ」


 その時、村長が大きな両手剣を振り回し、思念体に向かって飛びかかった。


「よくも村を! ハアアアァ!」


 しかし、彼女の両手剣は空を切り、思念体のオーラによって村長も抑えつけられた。


「アアアアァァ!」


「村長! 大丈夫ですか!?」


「ほわわわ~! 姉上~! じゃなくて村長! 大丈夫ですか~! どうしましょうどうしましょう~」


 カミーラが近くでうずくまり、頭を抱えているのが見えた。パニックになっているようだ。


 思念体は、カミーラにもオーラを飛ばすが、シンシアの張った聖域によって途中で掻き消された。


 カミーラはたまたま聖域内にいたため、シンシアのバフがかかり守られているようだ。


「カミーラ! 僕も村長も動けない! 君しかいない! 君が聖剣を抜くんだ!」


「ううううぅ、無理です無理です。ごめんなさい~」


(ダメだ! 彼女はパニックになって聞く耳をもってない。こうなったら)



スキル『挑発』! 対象はカミーラ 威力は中!



 すると、カミーラがこちらを向いた。


「カミーラ、聞いてくれ!」


「は、はい〜!」


「今は君しか動ける者がいない! 聖剣を抜いて戦うんだ! 君がこのマウリの里を守るんだ!」


「ほわわ~、アタシが、アタシがなんとかしなくっちゃああぁ!」


「そうだ! 君がなんとかするんだ! 頼む!」


「ううううぅ、怖がってる場合じゃない~」


 なんとカミーラは立ち上がり、聖剣の所へ行き、つかを握った!


「カミーラさん! 頑張ってください! あなたには腕力増強(極大)がかかってます!」


「ほわわ~、なんだかチカラが漲ってきますううぅ! 全力ぜんかーーーい!」


 カミーラは叫んで剣を引っ張った。


 なんと、剣が少しずつ地面から抜けている。


「うわ! いいぞ、カミーラ! 剣が抜けてきてる!」


「うううぅ! アタシがなんとかするのですううう!」


「シンシア! もう少しだ! まだ何かバフをかけれないか!」


「もうちょっとですね! 腕力だけじゃダメみたいですので、別のバフをかけます! 絶対アブソリュート共鳴レゾナンス


「うううううぅぅ! ほわわわ~~!!!」


 カミーラが思いっきり引っ張ると、ついに聖剣が地面から抜けた!


「抜けたのですううぅ!」


「やった! よくやった! カミーラ!」


 地面から抜けた聖剣は聖なる光に包まれたかと思うと、その刀身が白銀しろがねに輝き始めた。どうやら本来の姿を取り戻したようだ。


「なんだあれは! あんなにサビついていた聖剣が輝いてる!」


 僕が驚いた声を出すと、


「あれこそが封印されし伝説の聖剣の真の姿!」


 村長が大声で叫んだ。彼女は涙を流している。聖剣の封印が解かれたことに感動しているようだ。いや、自分の妹がその剣を抜いたことに対して涙しているのかもしれない。


「カミーラ! いけえええ! その剣でこいつを封印するんだ!」


「カミーラさん! お願いします! あなたならこの村を守ることができます!」


「カミーラ、助けてくれ……」


「姉上! ラルク! シンシア! ううううぅぅ、許せません!」


 カミーラは思念体の方を向き、聖剣を突きつけて叫んだ。


「うううぅ、アタシは……アタシやみんなをはぐくんでくれたこの村を……守るのですうぅ!」


 カミーラは聖剣を構え、思念体に向かって飛びかかった!






──────────────────────


あとがき


読んでいただきありがとうございました。

あなたのご意見、ご感想をお待ちしております。


暴れだした無敵の思念体!


聖剣を抜いたのはなんとカミーラでした!


続きが気になると思って頂けたら

フォローや★評価をぜひぜひお願いします。


次回、思念体に立ち向かうカミーラの運命は……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る