第十六話 エリックとの再会

 なんとマウリの里で、僕を追放した勇者エリックと再会した。


「おや? 誰かと思えば使えねえ荷物持ちじゃねえか。名前はなんだっけか」


「エ、エリックたち、どうしてここに!」


 リーダーのエリック、魔法使いのノエル、ヒーラーのアリサ。彼らの顔は忘れもしない。そして他に知らない剣士が二人いた。そのうちの一人、たくましい方の剣士はどこかで見た記憶があるが思い出せなかった。


「俺たちは、そこに刺さっている聖剣に用があるんだよ! お前こそどうしてここにいるんだ?」


「ぼ、僕も、聖剣を抜こうと思ってきたんだ」


「はあああああぁぁ? なんだってええぇぇ? お前が聖剣を抜くだとお! 笑わせんなよ! あーっはっはっはっはっは!」


 エリックは、突然大声で笑い出した。


(あまりうるさくしてほしくないなあ。シンシアが集中できないかもしれない)


 シンシアの方を見ると、既に深く集中しているようで、まったく動じていない。詠唱が長引くにつれて、彼女は深く自分の中へ入り込むようだ。もしかして周囲の声もそこまで聞こえていないのかもしれない。


「ちょっと、エリック。笑いすぎじゃない? 落ち着きなさいよ」


「ちっ、うるせーな」


「ラルク、あなた本気でその剣を抜く気なの?」


「そ、うだけど」


「ふーん」


「なあ、ラルク。冗談はその辺にしとけよ。いいからそこをどけ! 俺たちが先だ!」


 そう言って、エリックは僕を小突いて来た。


「アレスさん、さっそくお願いします!」


「うむ」


 アレスと呼ばれた屈強な男は、僕をチラッと見て聖剣に歩み寄った。すごい威圧感だ。


「悪いな少年。私が先にいいか」


「あ、はい」


(アレス? アレスってまさか英雄アレスか?)


 僕は、王国の近衛騎士団長アレスを思い出していた。直接見たことはないが有名人なので名前は知っている。百戦錬磨、一騎当千と名高い英雄だ。


「エリック、アレスと言ったが、彼はあの英雄アレス?」


「ああ、そうだ。驚いたか?」


「彼は確か王国の騎士団長だろう? なぜいっしょにいるんだい?」


「ふんっ、助っ人だよ。俺が頼んだんだ。アレスさんはお前の代わりに入ったアーサー殿下の直属の護衛なんだよ」


「なるほど。そういえばアーサー王子が入るって言ってたね」


 そして、聖剣の前に立ったアレスは、つかを握って腰を落とした。


 その場にいる全員が、彼が剣を抜くのを見守った。


「ふんっ! うおおおおおおおぉぉぉ!!!」


 僕らは、英雄アレスが聖剣を抜くのを見守った。彼が抜くことを誰もが期待したが結果は僕らと同じだった。


「ダメだ。私の力ではとても抜くことができない。なんという代物だ」


「そ、そんなアレスさんでもダメなのか」


 エリックが残念そうにつぶやいた。僕はエリックにこう尋ねた。


「エリック。君は挑戦しないのかい?」


「ああああ? てめえ! 俺に指図する気か!」


 エリックはすごい形相で怒鳴ってきた。


「まあ俺が挑戦してもいいんだけどよ。おそらく簡単に抜いちまうだろうが。それじゃあおもしろくねえだろ! 次はお前がやってみろや! ラルク!」


「僕は、挑戦するつもりだけど、今はまだできない。準備が出来てないから」


「なあにが準備だ。腰抜けのハッタリ野郎が! お前みたいな無能の荷物持ちが聖剣を抜けるわけがねえんだよ。英雄アレスでさえ抜けなかったんだからな! 素直に出来ませんと言ったらどうなんだ!」


「……。」


 僕は黙ってシンシアの方をチラっと見た。彼女の詠唱はまだかかりそうだ。


 その視線に気付いたのか、エリックもシンシアの方を見た。


「おい、あの女がお前の新しい仲間か?」


「ああ、そうだ」


「ふーん、何やってんだ? 木の下で寝てるのか?」


「一応、スキルの詠唱中さ。彼女のスキルは詠唱に時間がかかるんだ」


「そうか。よくわかんねえが、結局はお前たち何もしてねえんだろ。邪魔だから帰っちまえよ! 目障りなんだよ!」


 ぎゃあぎゃあとわめくエリックにアレスが話しかける。


「なあ、エリック。私にも剣は抜けなかったが、禁忌の洞窟を一目見ておきたいんだが」


「ああ、いいですよ。一応見ておきましょう。でも中には入らない方がいいです。とても人がいられるような場所ではないので」




 そしてエリックたちは、少し離れた禁忌の洞窟へ移動した。


 ようやく静かになった。シンシアの詠唱もそろそろ終わることだろうか。


 するとカミーラが禁忌の洞窟の方からやってきた。


「ほわわわ~! オトコの人がたくさん村に来たのですぅ」


「カミーラ、大丈夫。彼らも依頼を受けて来たSランクパーティだよ。中には王国の英雄と呼ばれた男もいるから安心するといい」


「ううううぅ、あのオトコたち、洞窟の前で何やら騒いでいるのですぅ、不安なのですぅ」


「ええ! そうなの?」


「何やらリーダーの人が封印の門を壊そうとしているのですぅ、やっぱりオトコの人は物騒で恐いのですぅ!」


「そんな、エリックのやつ何を考えてるんだ」



 ゴオオオオオォォォオオオオオン!



 その時、村に轟音が響いた。禁忌の洞窟の方からだ。


「なんだ?」


 禁忌の洞窟の方からマウリの里の村長が走ってくるのが見えた。


「姉上! あ、村長! 何があったのですかー?」


 カミーラが心配そうに村長に声をかける。


「マズいことになった。あのバカ、いや冒険者が封印の門を叩き壊したのだ。中の魔物を外へ引きずり出せば互角に戦えるはずだと言ってな!」


「そ、そんな! そんなことして大丈夫なんですか!」


「大丈夫なわけがない! あの洞窟は魔物を抑えつけておく効果があったのだから。洞窟内は人間にとっても不利な環境ではあったが、その中にいる限りは魔物も自由には動けなかったから、まだよかったのだ! あの洞窟から出た魔物はどんな行動をするか予測がつかない!」


 その時、向こうの方から複数の人の悲鳴が聞こえて来た。


「ほわわわ~、村中がパニックになってますうぅ。誰か助けてくださ〜い!」


 カミーラが頭を抱えて怖がり、うずくまっている。


「大変だ! モンスターが暴れてるんだ! なんとかしないと」


 僕はシンシアの方を見た。


「シンシア! そろそろ詠唱終わる?」


「はい! 大丈夫です。聖域を出しますか?」


「ああ、封印の聖剣の周りに頼む。僕はモンスターをここまで連れてくる!」


「わかりました! 気を付けてください!」


 僕はモンスターを引き付けに行くために、悲鳴のする方へと向かった。






──────────────────────


あとがき


読んでいただきありがとうございました。

あなたのご意見、ご感想をお待ちしております。


エリックはラルクに対しては相変わらずの態度です……


封印の門を壊してしまったエリックたち、マウリの里の運命やいかに


続きが気になると思って頂けたら

フォローや★評価をぜひぜひお願いします。


次回、ラルクたちに襲いかかる謎の思念体……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る