第十四話 マウリの里の戦士カミーラ
緊急クエストを受けて、マウリの里に到着した僕たちの前に、カミーラと名乗る門番の女戦士が現れた。
改めて彼女の姿を見ると、無造作に伸ばした長い赤髪に、髪飾りをたくさん刺している。顔は整っているが化粧っ毛は全くない。髪もボサボサなので外見に無頓着だということが伺える。男子禁制の村らしい特徴だ。
しかし、あのビキニ型の鎧はこの村特有の装備なのだろうか。かなり恥ずかしい恰好にも見えるが、村の者同士では普通の感覚なのかもしれない。
「僕も、名乗っていいのかな。僕はラルク」
「ひゃっ! オトコとは喋りませんっ!」
そう言ってカミーラはそっぽを向いた。
すると、そこへ一人の女性が現れた。高身長で赤髪の、いかにも屈強な戦士という特徴の女性だった。カミーラと同じようなビキニ型の鎧を着けている。
「これ、カミーラ。冒険者はワタシのところに通せと言ったであろう」
「ほわわ! 姉上! じゃなくて、村長!」
村長と呼ばれたその女性は、身長2メートルはあるだろうか。その威圧感は凄まじい。
(あれ、今姉上って言った? 姉妹なのか? この二人)
「オマエたち、冒険者ギルドの依頼を受けて来た冒険者だな。ワタシが依頼主の村長だ。ついて来い」
そして僕たちは、村に案内された。男子禁制で女性だけの村というだけあって、村には女性ばかりが目についた。
「ホントに女性ばっかりいるんだなあ」
「んんっ!」
おっと、シンシアがこちらを睨んできた気がする。
「今日はもう暗くなるから、洞窟には明日案内しよう。ただその前に見てほしいものがある。これだ」
案内されたのは村のハズレだ。そこに、一本の古びた剣が地面に刺さっていた。
「これは……」
「見ての通り、これはこの村に昔からある封印されし伝説の聖剣だ」
村長の言葉に僕は耳を疑った。
「封印された伝説の聖剣だって、これが……?」
目の前に刺さっているのは、サビて朽ち果ててしまいそうな剣だ。これがそんな大層な物には見えないが、村長がそう言うのならそうなのだろう。
「ワタシたちはずっとこの剣を抜ける者を探している。選ばれし勇者をな。オマエ、この剣を抜いてみてくれないか。どう見てもヒヨワそうだから無理かもしれないが」
村長は僕の体つきをジロジロと見ながらそう言った。
「ラルクさんはとてもすごい人なんですから! こんなボロボロの剣、簡単に抜いて見せますよ! ねっ! ラルクさん」
「シ、シンシア!」
シンシアが僕を
「僕は選ばれし勇者なんかではないけど、とりあえず試してみますね」
そして、地面に刺さった剣の
「頑張ってください、ラルクさん! きっと出来ますよ!」
(まあ、抜けないと思うけど、というか力を込めると折れそうだなあ。よーし!)
「ふんっ! んぐぐぐぐ! んぎいいい!」
全く抜けないし、微動だにもしなかった。それにボロボロで折れそうに見えた刀身も
どうやら力ずくで抜ける物ではないような気がする。
「はぁはぁ、やっぱりダメだ。シンシア、ごめんね。応援してくれたのに」
「いえ、とんでもないです。ラルクさんでも出来ない事があるんですね」
「ダメだったか。仕方ない。聖剣が無くては結局徒労に終わるかもしれないが、明日一応禁忌の洞窟には案内しよう」
「えっと、これが伝説の聖剣ってことは、これを使わないと禁忌の洞窟のモンスターは封印できないんですか?」
「そうだ。数百年前に魔物が封印された時に、かつての勇者が使用したのがこの聖剣だからな」
「そんな、じゃあこの剣はやっぱり必須なんじゃないですか。なんとかして抜く方法はないんでしょうか」
「今まで数々の男たちがこの地を訪れ挑戦したが、誰も成し得なかった」
「そうなんですね。ですがこの村は元々男子禁制では?」
「かつて禁忌の洞窟に魔物を封印した勇者は、聖剣をここへ残してこの村を去った。それからというもの、この剣を抜き勇者として認められたい野望に満ちた男たちが
「そんなことがあったんですね。ちなみにこの聖剣を抜こうとしたのは男性だけなんですか?」
「そうだが」
そう答えた村長の体を、僕は改めて見た。僕が今まで見たどの男性冒険者よりも彼女は筋骨隆々で逞しい体をしていた。
「あの、村長さんなら抜けるんじゃないですか?」
「なにっ! ワタシが! バカなことを言うな。汚らわしい!」
「え、どうして」
「ワタシが、男たちの野望の塊であるモノを抜こうなどと、そんなことは許されぬ!」
「うーん、よくわかりませんが、とにかく嫌なんですね」
「他に抜けそうな方と言えば、王国の騎士団長であるアレス様でしょうか」
「英雄アレス……か。確かに、彼なら或いは……」
「村長さん、アレスさんを知ってるんですか?」
さすが、英雄アレス。王都だけでなくこんな山奥の村にまで名前が知られてるようだ。
「ん、まあ、昔ちょっとな」
村長は、何か昔を懐かしむような顔をした。
「とにかく、今日はもう休んで構わない。おい、カミーラ、客人を寝床へ案内するんだ」
「はい! そ、村長!」
今度は間違えずにちゃんと言えたようだ。
「わかりました。ご厚意感謝いたします」
「では案内しますう。はわわ~、オトコはあそこで寝てくださ~い」
「へっ?」
カミーラが指さしたのはどう見ても馬小屋だった。
「こ、これって馬小屋じゃ……」
「そうですう、この村にオトコの寝床はありませ~ん。か弱き乙女たちと同じ屋根の下に寝ようなんてダメなのですぅ! ここで我慢してくださーい!」
「ラ、ラルクさん……」
「シンシア、僕はかまわないよ。大丈夫、君がちゃんと寝れるだけでもよかったじゃないか」
シンシアは、同情した顔をこちらに向けていた。
「ラルクさん、ではまた、明日」
「うん、おやすみ」
こうして僕は今夜、まさかの馬小屋で寝るという、なんとも嫌な初体験をすることになった。
(あの剣を抜かないと封印はできない。なんとかしてあの剣を抜かなければいけないんだよなあ)
僕は、馬糞の匂いが立ち込める馬小屋で一人、考え事をしていた。
(並みの筋力じゃあの剣は抜けそうにないよなあ。待てよ! あの手があったか!)
閃いた僕はさっさと寝ることにした。カイバの山は意外と寝心地がよく、気付いたらすぐに眠りについていた。
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あとがき
読んでいただきありがとうございました。
あなたのご意見、ご感想をお待ちしております。
村長とカミーラは姉妹! 全然似てない!
カイバの山は気持ち良さそう!
などなど、続きが気になると思って頂けたら
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次回、ラルクがマウリの里へ行ったことを聞いたエリックは……
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