第十一話 シンシアと二人きりで
シンシアと別れて、僕はダンジョンを駆け足で進んでいた。途中で出てくるモンスターに、軽く『挑発』をかけて引き連れつつ、どんどん奥に入って行った。
30分くらい進むと、かなり開けた空間が広がっており、なんとそこには数百匹もの見たことのないモンスターが蠢いていた。
パッと見でもわかるくらいにレベルの高そうなモンスターたちばかりだ。
「うわ! なんだこいつら! 見たことのないモンスターばっかりだ!」
しばらく冒険者が来なかったために、こいつらはダンジョンの奥でひっそりと独自の進化を遂げたのかもしれない。
そんな魑魅魍魎たちが一斉にこちらを見る。
「グルルルルッ」
「ガウウゥ、バウウゥ」
「ワウワウワウ!ウウウゥ!」
「よーしこいつら、まとめて連れて戻ろう!」
スキル『挑発』! 対象はここにいるモンスター全て! 威力は特大!
すると、モンスターたちが一斉に僕に向かってきた。僕は振り返り、急いで元来た道をダッシュで戻った。
ズドドドドド! ズドドドドド!
ズドドドドドドドド!! ズドドドドドドドド!!
ズドドドッドドドドド!!! ズドドドッドドドドド!!!
モンスターたちの足音と振動が地響きのようにこだまする。
僕は自慢の足の速さで、追いつかれることなく、洞窟内の奥にいたモンスターたちをほぼ全て引き連れて、シンシアの待つ場所まで戻った。
その数、なんと二、三百匹。しかも珍しいモンスターたちが、うようよと連なっている。
「おーい! シンシアさーん! 戻ったよー!」
「ラルクさーん! 待ちくたびれましたよー!」
シンシアは僕の姿を見て手を振ってくれた。そして僕の後ろにいるモンスターの大群を見て、仰天した。
「きゃあああ! なんですかその数! とりあえず、えいっ!『聖域展開』!!!」
すると、直径30メートルほどの大きな聖域が僕たちの足元に出現した。
「うわあ! 今回の聖域はこの前のやつより大きいな!」
「はい! たっぷり詠唱したので、最大出力です!」
シンシアは両の拳をグッと握って、自信満々の笑顔を作っている。
そして、様々なバフ効果がもりもりとかかっていくのがわかった。
「す、すごいです! ラルクさんにたくさんの効果がついてます! えっと……腕力増強(極大)、
「も、もういいよ! わかったよ! モンスターたちが襲ってきちゃうから倒すよ! って、あれ?」
数百匹のモンスターは聖域内の中で固まっていた。どうやら様々な状態異常とデバフによって、こいつらの動きはほぼ無効化されているようだ。
「安心してください。モンスターたちには全能力低下、全状態異常付与、
「そ、そうか。最後の二つはよくわからないが、とにかく安心だ。シンシアにも何か効果がかかっているの?」
「はい! 私には、
「あ、ああ。すごいね!」
(何が安心か全然わかんないけど、とにかくモンスターを倒すか)
僕は、腕にグッと力を込めて、目の前の敵を軽く斬りつけた。
ズババッバアン! ズッシャアアアアア!!!
すると、軽く振っただけの剣から波動が放出されて、数百匹のモンスターの群れが一瞬で蒸発した……
「お、終わった……一撃で……」
モンスターたちが消え去った後には、数えきれないくらいのアイテムが散らばった。
「うわあああ、なんだこのドロップ量は! 報酬が多すぎる!」
「これも聖域の効果ですよ。ラッキーでしたね! とってもかっこよかったですよ! ラルクさん!」
シンシアはニコニコしながら、僕の腕に抱きついてきた。
「こ、こんなにたくさんの報酬、カバンに入らないや。一度ギルドに戻って、人を呼んでこようか」
「え、人を、応援を呼ぶのですか?」
「こんなにたくさんの報酬は二人だけだと、持ち帰れないからね」
「そうですか。もう少し二人でいっしょにいたかったのですが」
すると、シンシアはウトウトし始めた。
「うん、一度戻って、ああっ! シンシアさん!」
彼女はなんと、僕の腕に抱きついたまま眠ってしまった。
「シンシアさーん! しまった! スキルを使ったら疲れて寝ちゃうんだった」
僕はとりあえず、彼女を背負ってダンジョンを歩き出した。
すると聖域から出られないことに気づいた。
(あれ、なんでだろう。聖域から出ようとすると押し戻される)
聖域をぐるっと一周してみたが、どうしてもそこから出ることができない。
(まさか、シンシアが僕を閉じ込めた……)
聖域に入れる対象も出る対象も彼女の意思で選べると言っていた。つまり彼女の意思によって僕は閉じ込められているということになる。
(眠っているようだけど、無意識に僕にここにいてほしいってことなのかな)
スヤスヤと眠っている彼女と、ある意味密室空間で二人っきり。
僕の鼓動は途端に早くなった。
(僕と……二人っきりで過ごしたいと言うことなのか……)
「シンシア……」
僕は彼女の名前を呼んだ。
「むにゃ……ラルク、さん。ダメですよ」
「わわっ! 一体どんな夢を見てるんだ!」
それから30分ほど聖域は消えなかったので、僕は眠ったままの彼女と二人で過ごしていた。
そして聖域がようやく消えたので、僕は彼女を背負い、ダンジョンを後にしたのだった。
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次回は、山のようなドロップを獲得したラルクたちは……
あとがき
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