第十話 本格的なダンジョン攻略

 翌日、シンシアに会うと、彼女はさっそく昨日渡したペンダントをつけてくれていた。


「シンシアさん! そのペンダントとっても似合ってる! すっごく素敵だよ」


 開口一番に僕がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にしていた。


「あ、ありがとうございます……なんだか照れちゃいます」


 彼女は目線を泳がせてモジモジしている。


 冒険者ギルドで合流した僕らは、クエストボードを眺めていた。


「ラルクさん、今日はどこへ出かけましょうか?」


「そうだねえ。僕たちはまだパーティを組んだばかりだし、出来れば簡単なクエストをこなして慣れていきたいね。初級クエストなんかがちょうどいいんだけど」


「おう、お二人さん。調子はどうだい?」


 ギルド長が声をかけてきた。


「あ、ギルド長。こんにちは」


「いやあ、先日納品してくれたダークロードの破片。すごい魔力を秘めていてね。魔法衣や磨道具作りに活かせそうで非常に助かったよ」


「ホントですか? それはよかったです!」


 ギルド長の方から声をかけてくるなんて、前までなら絶対になかったことだ。僕が『†栄光の騎士団†』にいた頃は、ギルド長はリーダーであるエリックにしか話しかけていなかった。


 冥界の王ダークロードをたまたま倒しただけなのに、扱いがガラリと変わってしまった。まあそれだけ頼りにされているということなのだろう。


「クエストを探してるのか? これなんかどうだ?」


『上級クエスト:魔の山、ダークホーネット1000匹の討伐 報酬:50万ゴールド』


「こ、これは……。ギルド長、僕たちのパーティは二人しかいないので、本格的な狩りはちょっと……。比較的簡単な採取クエストとかないですか?」


「簡単なクエストか? じゃあ、調査クエストで誰もやってないのがあるぜ。これはどうだ?」


『中級クエスト:ロングロングの洞窟の調査 報酬:10000ゴールド』


「お、調査クエストですか! いいですね。へぇー、これは誰もやってないんですねー」


「ああ、というより、そのダンジョンは人気が無くて誰も立ち寄らないんだ。だから放置されてしまっていてな。奥がどうなっているか調べて来てほしいんだ。」


「わかりました。どうしてそんなに人気がないんでしょう?」


「とても長くて深いダンジョンでな。奥まで行くのに、二時間くらいかかるから探索が大変なんだ。だから誰も行こうとしないんだよ」




 こうして僕たちは調査クエストを受けて、ロングロングの洞窟の前に来ていた。


「なんだかこの辺りは、長い間誰も立ち入ってないようですねえ」


 草が生い茂っている入り口付近を見てシンシアがつぶやいた。


「そうだねぇ。おそらく探索が困難な上に、たいした報酬も得られないから放置されているんじゃないかなー。ダンジョンも人気のある場所とそうでない場所は、格差が激しいから」


「そうなんですね。人がいっぱいいるところもありますもんね」




 僕たちはダンジョンに入り、探索を開始した。長い間放置されて、構造がかなり変わってしまったようで、ギルドからもらったマップは細かいところが違っていた。


「なるほど、これは調査が必要なわけだ」


 僕はきちんとマッピングしながら進んだ。


「ラルクさん、何をしてるんですか?」


「マッピングだよ。ダンジョンの中の構造を書き留めながら、できるだけ正確な地図を作るんだ。それをギルドに報告して共有することで、次にここへ来る冒険者はスムーズに探索ができるだろう?」


「すごい! ラルクさん、すごいです! そんな技術があるなんて」


 シンシアは、僕にぐいっと顔を近づけて褒めてきた。


「いやいや、そんな褒められるほどのことじゃないよ。これは冒険の基本のようなものだから」


「ラルクさんは、わたしが出来ないことをたくさん知ってるのでとても尊敬します!」


 シンシアはなんだか楽しそうだ。彼女の笑顔を見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。


 洞窟内は、かなり複雑な構造になっていて、まだまだ先は長そうだ。出てくるモンスターもまばらで、たいして強くもなく弱くもない。

 そしてドロップ品もたいしたことないという、なんとも面白味のないダンジョンだった。


 なんだかこのダンジョンが不人気な理由が理解できた。




「そろそろ30分くらい歩いたな。先は長そうだし、一度休憩しよう」


「えぇー! 休憩ですか?」


 僕はカバンからミニチェアとティーセットを取り出した。


「さ、このイスに座って休んで。ハーブティでも飲む?」


「ダンジョン内でティータイムなんてすごいです! ラルクさん、用意がいいですね」


「えへへ、道中長いから疲れるでしょ? 休憩も必要だよね」


 僕たちは、紅茶を飲みながら一息ついていた。


「この紅茶、すごくいい香りがしますね」


「このハーブ、トワイライトラベンダーって言ってね。フローラルな香りがとても特徴的で、最近の流行りなんだ」


「ラルクさんて……センスいいんですね。素敵です」


 シンシアはそう言ってニコニコしている。彼女も喜んでくれたようでよかった。




 一休みした後、僕らはまた少し進んだが、やっぱりモンスターはポツポツとしか出てこなかった。これは、どうにも先が長くなりそうで、僕はある提案をした。


「よし、ここまで人が全くいないんだったら、ちょうどいいかもしれない。あとは僕一人で奥へ行ってくるよ」


「え?」


「このあたりはちょうど、モンスターが沸かないみたいだし、シンシアはここで聖域を詠唱しといてくれないか?」


「ここですか? 聖域をここに出すんですか?」


「うん、ちょっとモンスターまとめて連れてこようかと思ってね。ここなら他の冒険者の迷惑にもならなさそうだし」


「なるほどー、聖域に入れてまとめて倒すんですね」


「そう、その方が効率的かと思ってさ」


「わかりました。じゃあ私はここで詠唱していますね。どれくらい時間かかりそうですか?」


「今ちょうど、半分くらいの所まで来てるから一時間くらいで戻るよ」


「はい、気を付けてくださいね」


「うん、大丈夫。体力には自信あるから!」


 そう言って僕は、シンシアを残してダンジョンの奥へ進んだ。彼女は待っている間、『聖域展開』のための詠唱をしてくれている。


 念のために彼女の周囲にモンスター除けのお香を炊いておいたので一人でも大丈夫だろう。






──────────────────────



次回は、洞窟の奥には無数の……



あとがき


読んでいただきありがとうございました。


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