『†栄光の騎士団†』の栄光への道 Ⅳ エリック視点

 リザードマンに背中を攻撃され、深手を追ってしまったアーサー殿下。急いで彼を回復させなければいけない。俺は彼を、アリサが隠れている岩陰へと運んだ。


(マズイ! 王族であるアーサー殿下にケガをさせたとなるとパーティの評価が下がってしまう)


 王子を危険に晒したとウワサになればパーティの評判が落ち、パーティランクにも影響するかもしれない。それはすなわち俺の評価の下落にも直結する。


(クソ! クソ! どうしてこんなことに……)


 岩陰を覗くと、そこにはアリサがいた。いっしょだと思っていた荷物持ちの姿は見えない。


「アリサッ! 大変だ。アーサー殿下が傷を負った! 早くヒールを頼む!」


 アリサは項垂うなだれて、一枚の紙切れを持っていた。


「ねえ……」


「アリサ、どうした?」


 アリサが紙切れを俺に手渡してくる。そこにはこう書いてあった。


『旦那様たちには付き合いきれません。先に帰らせてもらいます。余った消耗品は賃金として頂いていきます。 荷物持ちより』


「あの野郎! 逃げやがったな!」


「エリック! あんなやつのことほっときましょう、それよりアーサー殿下をアリサに見てもらわないと」


「そうだな! アリサ、殿下にヒールを頼む!」


「できないわよ! MPが無いんだもの!」


「な、なんだって?」


「さっきも言ったじゃない! MPが尽きかけてるって」


「いや……そうだけど、完全に尽きてはいなかったろう?」


「自分にヒールをしたのよ! それで無くなったの!」


「……は? お前、そんなにダメージを受けていなかったろ? なんで自分にヒールを使ったんだ?」


「だって足が痛かったんだもの、歩き疲れたのかしら」



(だって足が痛かったんだもの、だと?)



 俺は、怒りで一瞬我を忘れかけたが、なんとか意識を取り戻した。


(危ねえ、またやらかすところだった。冷静になれ俺)


「なあ、おいアリサ。どうして最後のMPを自分へのヒールに使ったんだ? 普通仲間が傷ついた時のために取っておくだろう? 前衛の方が傷を負いやすいんだから」


「それが何? そんなことわかってるけど? なんで今そんなこと言うのよ。どうしようもないじゃない」


「いやいや、だけどなあ」


「ちょっとエリック。今アリサを責めたってしょうがないわよ。回復ができないなら急いで町へ戻りましょう! アーサー殿下にもしものことがあったらどうするのよ!」


「わかってるって! 殿下、俺が肩に担いで外まで運びます。もう少し辛抱してください」


「ううぅ、頼む。早く助けてくれ」


 こうして俺たちは、深手を負ったアーサー殿下を担いで、ダンジョンを後にすることにした。クエストは全く達成できていないが、仕方ない。殿下にもしものことがあっては俺たちの進退がどうなるかわからない。今は一刻も早く町に戻ることが先決だろう。俺の判断は間違ってないはずだ。




 俺たちは、残りわずかな回復薬をアーサー殿下に飲ませて、意識を保たせながら、ダンジョンを脱出しようと外へ向かっていた。


 回復薬では深い傷は治せないので、気力を保たせるための気休め程度にしかならない。


「アーサー殿下、お気をしっかり! エリック、今どのあたりまで来たんだろう?」


 ノエルが声をかけてくるが、今はそれどころではない。正直黙っていてほしかった。


「ああ、もう半分くらいまでは来てるから、このまま進めば大丈夫だろう」


 しかし、実は途中で道がわからなくなってしまっていた。地図も持ってきていなかったし、行きはカンで進んできたので、帰りのことなど考えてなかったのだ。


(なんとか見覚えのある場所を見つけないとなあ)


 別れ道に差し掛かった時、見覚えのある岩を発見した。


「なあ、あの岩って見覚えないか? 確かあの岩の方から来たんだったよな」


「え、私はわかんないよ……。エリック、道覚えてるんじゃないの?」

「アタシもわかんなーい。岩なんて全部同じに見えるぅ。ハァ、もう疲れた」


「いや、一応確認しただけだ。あの岩の方向で間違いないはず」


「なあ、ちょっといいかい」


 その時、アーサー殿下が声をかけてきた。


「殿下! 大丈夫ですか! 傷に障るので喋らない方がいいですよ」


「いやいや、君たちの話を聞いてたらそうも言ってられない。岩を目印にとか言っていたが、上級ダンジョンはそれ自体が生き物の腹の中のような性質を持っていて、人間を飲み込もうとしていると聞いたことがある。だから刻一刻と構造かたちを変えるダンジョンもあると」


「ああ、そういう話もありますね。でもここは違うと思いますよ」


「本当にそう言い切れるのか? 僕は不安でしかない……ぐわぁ」


「殿下! 傷が痛むのですか! あまり喋らない方がいいですよ。少し黙っていてください」


 冒険者としては初心者であるアーサー殿下に話しかけられるとしゃくに障るので、正直黙っていてほしかった。


(くそ、俺だって必死なんだ。道を覚えてねえのは、こいつらも同じじゃねえか全く)


「はあ、まさか荷物持ちが逃げ出すなんてなー、やっぱり金で雇った奴は全然信用できないじゃない。エリック、帰ったら専属の荷物持ちをちゃんと雇いましょうね」


 ノエルが嫌な話題をぶり返してくる。


「ノエル、その話はいいから、ちょっと黙ってろ」


「何よ! その言い方! あなたって仲間に対して思いやりが欠けてるのよ。だから逃げられるんじゃない」


「な、なんだと?」


 俺はアーサー殿下を抱えて歩いているので、飛びかかりはしなかったが、内心ではノエルをぶっ飛ばしたいくらいハラワタが煮えくり返っていた。


「ノエル、エリック。口喧嘩はもうやめよーよ。ムダに体力使っちゃうしさ。今はアーサー殿下が気がかりだよ」


(ちっ、アリサのやつはお気楽でいいな。お前にだけは一番言われたくねえよまったく。まあでも俺がケガをしなかっただけよかったなあ)


「アリサの言う通りだ。ところで、だんだんダンジョンの嫌な感じが薄れてる気がするぞ。出口は近いぞ!」


「気がする……って、エリックさー。やっぱりカンで進んでたんだね。はあ、●●●なら大荷物を抱えながらでも、帰り道を先導してくれてたのに」


 とノエルがつぶやく。



 イマ、ナンテイッタ──?



「●●●ってさ、消耗品の他にお菓子とかまで持ってきてくれてたんだよね。今考えたらすごく気が利いてたっていうかー」


 とアリサがこぼした。



 マタ、ナンテイッタ──?



 その名前はもう絶対に聞きたくなかった。いや、俺は聞こえないフリをしていた。




 俺たちはそれから終始無言で、歩き続けた。


 そして、ようやくダンジョンの出口が見えてきた。






──────────────────────



次回、エリックたちの耳にはラルクの活躍が飛び込んできて……



あとがき


読んでいただきありがとうございました。


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