『†栄光の騎士団†』の栄光への道 Ⅱ エリック視点

 使えない荷物持ちのラルクを追放した勇者パーティのリーダー、俺ことエリックは、新しく迎え入れたアーサー殿下と共に、上級ダンジョンに潜っていた。


「とりあえず、クエストの依頼内容はリザードマン200体の討伐だな。さっさと終わらせて酒場で飲もうぜ」


 ここは以前にも来たことのあるダンジョンだし、確かリザードマン狩りはなんなく達成できたクエストだった。その時は足手まといのラルクがいたが、1時間ちょっとで終わったので、今回はさらにはやく終わることだろう。


「あれ、リザードマンの巣はここら辺だと思ったんだが、今俺たちはどこにいるんだ?」


「アタシに聞かれても困るんだけどー、誰か地図持ってないの?」


「おい、荷物持ち。地図をよこせ」


「えっ! 旦那。地図は言われてないので持ってきてませんよ」


「はあ? どういうことだよ! 地図くらい言われなくても持って来いよ」


「いやしかし、あっしはただの荷物持ちなので。ナビゲーターは別にいると思ったんですが」


「どうした。トラブルか?」


 アーサー殿下が俺に声をかけてきた。


「いえ、大丈夫です。殿下。地図がないんですが、だいたい覚えてるものなので問題はないです」


「そうか。早く剣の腕を見せたい。モンスターはどこだ」


「ええ、もうちょっと進めばいると思います」


 俺は、とりあえずで進むことにした。奥へ奥へと進めばそのうちリザードマンの巣にあたるだろう。帰り道は元来た道を辿ればいいだけだから簡単だ。


 しばらくすると開けた場所に出て、複数のモンスターの影が見えた。


「あ、いたぞ! リザードマンだ! よーし! さっそくやるか」


 俺はモンスターの群れに突撃して、いっきに剣をふるった。


「うおりゃああああ、疾風斬撃ウィンドスラッシュ!」


 バシュッ! バシュッ!


 リザードマンを薙ぎ払い、1匹2匹と倒していく。


「エリック、調子いいじゃん。じゃあ私も! はああああ、深火炎隕石クリムゾンメテオ!」


 ズガーン! ドガーン!


 俺たちはとにかくスキルをぶっぱなし、リザードマンを次々と殲滅していった。


「ふっ! やあっ! とりゃあっ!」


 アーサー殿下も剣を華麗に振るっている。しかしリザードマン1匹に苦戦しているようで、期待していたほどの強さではない。剣の腕は確かだが、型通りでやはり温室育ちといった感じが否めない。


「まあいいか。俺とノエルで全ブッパしてればすぐに終わるだろう」


 リザードマンたちは仲間を呼ぶので、援軍が次々と駆けつけ、次第に数が増えていった。


「ひ、ひえええリザードマンの大群だ、20、いや30匹はいるううう。旦那様、いったん引いて態勢を立て直しませんか! あっしは全然戦えないんでこの数のモンスターを見ているのは怖いんです!」


 ふんっ、荷物持ちが何か言っているが関係ない。たくさん出てきた方が効率が上がるというもんだ。


「お、おい。彼の言う通りだ。少し引いた方がいいんじゃないか。エリック」


(ちっ、お坊ちゃんはうるさいな)


「大丈夫ですよ。殿下。これくらいの数なら以前もこなしていましたので」


「いや、しかし、僕は本格的な狩りの経験は浅いので1匹倒すので精一杯なんだが」


「エリックー、アーサー殿下にあんまりムチャさせちゃダメよー。あと私もちゃんと守ってね。なんか今日はすっごい狙われるんだから」


 アリサが、俺のほうへ近寄って来た。俺を頼ってくれるのは嬉しいが距離が近すぎて逆に邪魔だ。


(おいおい、そんなに近寄ると剣を振りづらいじゃねえか。何考えてんだまったく)


「ちょっと! エリック何してんのよ! なんか殲滅が間に合ってないんじゃない!」


「うるせえな、ノエル。お前がしっかり魔法を撃たないからだろ」


「そんなこと言ったって、私だって、すっごい狙われるんだから安心して魔法が使えないのよ」


 なんだか、今日はやりづらい。パーティプレイに慣れてないアーサー殿下がいるからなのか、俺たちの調子が悪いのか。いや例え調子が悪かったとしても、こんなリザードマンごときに苦戦することなどないはずだ。


「くそっ、やはり殲滅が間に合っていないな。一旦引くか」




 俺たちは、リザードマンの巣から離れ、少し道を戻り、岩陰に隠れた。


「ふう、まだ20匹くらいしか倒せていないな。このペースじゃ終わらないぞ」


 俺がそう言うと、アーサー殿下がこちらを見て言った。


「ちょっと待ってくれ。あんなにモンスターが大勢いるなんて聞いてない。それに作戦も何もあったもんじゃないから、非常にやりづらいんだが」


(ちっ、アーサー殿下、文句しか言わないな。王子じゃなけりゃ無理矢理にでも言うこと聞かせるんだが。立場上、強く言えないからやりづらいな)


「旦那ぁ、回復薬がもうわずかしかないんですが、どうしましょう?」


 荷物持ちがありえないことを言っている。


「はあっ? どういうことだよ! まだ半分も終わってないのに、なんでもうなくなるんだよ?」


 俺は荷物持ちの胸ぐらを掴んで怒鳴った。


「ひいいぃ、乱暴はよしてくださいよ、旦那あ! みんなすごい勢いで使うもんですから」


「アリサ! お前何やってんだ! ちゃんとヒール使ってるのか?」


「ハアアァ? 何? アタシのせいだっていうわけ? モンスターに狙われまくってヒールを使う余裕がないのよ!」


「すまない、彼女がヒールを唱える余裕がなさそうなので、自分で回復薬で回復していたんだ」


 アーサー殿下が申し訳なさそうに、俺に頭を下げてくる。


「いやいや、殿下は別にいいんですよ。すまないアリサ。お前のせいだと責めてるわけじゃないんだ。しかし、なんでそんなにモンスターに狙われるんだ? 俺は頑張って倒してるんだが」


 俺はそう言いながらノエルの方を見た。


「何よ? 私が何もしてないって言いたいの? 私だってモンスターに狙われながら必死に詠唱してるんだけど? なんか以前よりうまくいかないわねえ」


「エリック。僕は初めてだからよくわからないんだが、リーダーである君がしっかりと戦況を把握して的確に作戦を練るものじゃないのか」


(うるせえっ! そんなことはわかっている! と言いたい)


 みんなを見回すと、なんだか俺に突き刺さるような視線を向けている。


 マズい。ケンカするつもりはなかったんだが、雰囲気が悪くなっている。ここは俺のリーダーシップを発揮してどうにかしなければならない。


「いや、みんなすまない。戦況をしっかりと掴めていなかった俺の責任だ。今からの作戦はこうだ。しっかりと陣形を作って、1匹ずつ確実に仕留めていこう! 名付けて『各個撃破作戦』だ」


「陣形というのは具体的にどうするんだ?」


「えっと、だから俺と殿下を先頭にして、ノエル、アリサが後方支援。荷物持ち。お前は邪魔だからここに隠れて待っていろ」


「ええぇ! わかりやしたよ、旦那」


「よし、気を取り直していくぞ! 『†栄光の騎士団†』に栄光あれ!」



 誰も何も言わなかった。



 俺たちはしっかりと陣形を組み、またリザードマン狩りに繰り出した。


(大丈夫、きっとうまくやれるはずだ。以前はなんなくこなせたんだからな)






──────────────────────



次回、エリックたちは更なるトラブルに見舞われるようです……



あとがき


読んでいただきありがとうございました。


続きが気になると思ってくれたら……


☆☆☆をポチっと押してくれると嬉しいのです

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る