第八話 シンシアの笑顔
僕とシンシアの初めての冒険、はじまりの森での薬草摘みは、なんと突如現れた冥界の王ダークロードを討伐するというとんでもない結果に終わった。
そしてその翌日、僕は加工屋へ足を運んだ。加工屋の主人とは馴染みだったので、僕を見るとさっそく声をかけてくれた。
「おぉ、ラルク! 久しぶりだな。なんでもパーティを追放されたんだって? 一体何があったんだ?」
「いやあ……大したことじゃないですよ。少し意見が合わなかっただけで。でも大丈夫ですよ! もう新しい仲間とパーティを組んだので」
「そうかい。それならいいが、Eランクからやり直しだろう? 苦労するよなあ。ところで今日はどうしたんだい?」
「これを見てください」
僕は魔力結晶を取りだして、主人に見せた。
「こっ! これはっ! 魔力結晶、しかもとてつもない上物じゃねえか。初めてみたぜ! こんなもの一体どこでっ!」
「今のパーティでの初仕事で、ボスモンスターを倒したんです」
「えぇ! なんだって! いやあ、ラルクさん、悪いな。今まであんたを見くびってたぜ。まさかそんなに腕があるとは」
「そんな、勘弁してください。今まで通り接してくださいよ。それよりその魔力結晶をある物に加工してほしいんです」
「ほぉ、なんだい? 詳しく教えてくれ」
僕は主人に詳しく注文の説明をした。
「本当にそんなもの作るのに使うのか? なんだかもったいねえな。闇取引にでも出せばいいのに」
「いえ、いいんですよ。お金よりもっと大事な物がありますから」
「はははっ、気に入った。今日中に作ってやろう。いやあ、こんな代物を加工できるなんて腕がなるぜ!」
数時間後、頼んだ品物が出来上がった。
「出来たぜ。こんな感じでどうだい?」
僕は注文の品を受け取った。
「おぉー! 素晴らしい出来ですね。これなら彼女も喜んでくれるかもなあ」
僕は、その足でシンシアの泊まる宿舎へ行き、彼女の部屋を訪ねた。今日は冒険は休みにしようと言ったけど、まだ明るい時間だから、彼女を食事に誘ってみることにした。
「ラルクさん! 急にどうしたんですか? やだ、私ったらこんな格好で!」
彼女は、慌てた様子で顔を出した。
今日はずっとゴロゴロしていたのだろうか。寝間着姿で焦っている様子もなかなかかわいい。
「シンシアさん、突然訪ねてすいません。よかったら夕食でもどうですか?」
「もう、そういうことは先に言ってください! 困ります!」
「あっ、ごめんなさい。えっとダメですか?」
「もちろん、オーケーですよ! ダメなわけないじゃないですか!」
「なーんだ。よかった」
「女の子にはいろいろと準備があるんです! ちょっと1時間ほど待っててくださいね」
「わかったよ。外で待ってるね」
(準備、けっこうかかるんだなあ)
1時間後、準備を終えたシンシアが出てきた。彼女は昨日とは服装が違っていた。修道服ではなく、町娘のような恰好をしている。
「あれ、シンシアさん、修道服は?」
「あれは、冒険用ですよ」
「そっか。その服も似合ってますよ!」
「は! 早く、い、行きましょう!」
彼女は顔を真っ赤にして、早足で歩き出した。
僕らは少し早い夕食を終えて、町をブラブラしていた。
もうすぐ日が沈みそうだ。
「いやあ、でも昨日はホントにすごかったね。はじまりの森であんな大物に出会うなんて、あんなに興奮した戦いは初めてでしたよ」
「そうですね。でも倒せてよかったです。ラルクさん、とってもかっこよかったですよ」
「いやいや、シンシアさんの聖域があったからこそ倒せたんですよ」
「ラルクさんが、私のスキルを信じてくれたからですよ? あんなに聖域の効果を受けられる対象はとっても特別なんですよ」
「なんだか照れるなあ。そうだ! 渡したい物があるんだった!」
僕は、ポッケから小箱を取り出して、彼女に差し出した。
「なんですか? これ」
彼女の目の前で小箱を開け、中に入っている物を取りだした。
「これ! ペンダントですか?」
「うん、君にプレゼント。受け取ってくれる?」
シンシアは両手で口元を抑えて、エメラルドのような瞳を輝かせている。
このペンダントにはめ込まれている宝石も同じようなエメラルドグリーンの輝きを放っていた。
「そんな、どうして」
「母の形見のペンダントを無くしたって言ってたでしょ? 代わりってわけじゃないけど、よかったら付けてみてください」
「はい……」
シンシアは嬉しそうにペンダントを受け取って付けた。彼女の胸元でペンダントは一際輝き、碧眼の色合いとマッチして、とても映えている。
「とても似合ってる」
「あ、ありがとうございます」
彼女は目をウルウルさせて、喜んでいる。
「すごく綺麗な宝石ですね。これどうしたんですか?」
「昨日拾った魔力結晶を加工したんです。暗い緑色だったけど、加工したら綺麗な緑色になってね。とても綺麗になったからよかったよ」
「本当ですね。すごく綺麗です! ふふふ、とても嬉しいです」
夕日に照らされた彼女の笑顔は、とてもかわいかった。
僕たちは、しばらく話しながら町を歩いた。そして彼女を宿舎まで送っていきその日は別れた。
「ラルクさん、今日はとても楽しかったです。ペンダントありがとうございました」
「喜んでくれてよかった。シンシアさん、また明日からよろしくね」
「はい、こちらこそ! ラルクさん。お気をつけて」
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おやおや、次回はどうやら勇者エリックたちがクエストに向かうようですが……
あとがき
読んでいただきありがとうございました。
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