第六話 大聖女シンシア
シンシアの聖域により強化された僕は、一撃でダークロードを倒した。しかし砕け散ったその破片から出てきたオーラが集まり出した。
そのオーラが集まり、先ほどの人間の姿とは違う異形の姿になった。その見た目の恐ろしさはさすがに冥界の王。これが本物の姿なのだろう。
「ふははははっ! 今のは仮の姿よ。人間ごときに本当の姿を晒すことになるとはな! だがもう遅いぞ。余がこの姿になったからには世界が半分滅ぶと思え! この姿になった余の魔力は無限大! そして余の身体は何度でも再生を繰り返す。倒してもまた復活するぞ!」
シンシアがそっとつぶやいた。
「奴に沈黙効果をかけました。なので魔法は使えません。そしてかかっている全ての特殊効果を無効にするデバフもかけました」
僕はそれを聞いて、地面を蹴って斬りかかった。
「ったあ!」
ザシュッ!
「ぐはっはああ。はあ? 身体が再生しない。なぜだああ! ぐわあああ、余が、こんな、こんな下等な人間ごときにいいいいぃ」
こうして、冥界の王ダークロードは断末魔と共に砕け散り、後には綺麗な宝石が残されていた。暗い緑色の輝きを放つ魔法石だ。おそらく奴の体内で魔力が結晶化された物だろう。
「やりましたね! ラルクさん!」
「あ、倒したん……ですね」
「すごいすごい! すごいです! ラルクさん、強いです!」
シンシアはそう言って僕に飛びついてきた。
「わわわっ! シンシアさん!」
「きゃあっ! 私ったら、ごめんなさい」
彼女はそう言って、慌てて僕から離れた。
「いやいや、そんな褒めないでください! これはシンシアさんの聖域の効果のおかげですよ!」
「いえいえ、ラルクさんが使ってみてって言ってくれたからですよ! 初めて実践で使ったのでこんなにすごい効果だって自分でも思ってませんでした」
「あ、これ実践で使ったの初めてだったんですね。前のパーティの時は使わなかったんですか」
「はい……。みなさんに詠唱時間が長すぎて待ってられないと言われたので、わたしはほとんど雑用係でした……」
シンシアはそう言った後に、ニッコリと笑い続けた。
「でもでも! 今はラルクさんの力になれて本当に嬉しいですよ!」
「こんなすごいスキルだったなんて、もっといろいろ試してみたいなあ。今度はダンジョンに冒険に行ってみない?」
「はい……でも、少し待ってもらえますか。ふわあぁぁ」
彼女は欠伸をして眠たそうな目をしている。
「あれ? どうしたんですか?」
「この聖域展開は、ほとんどの……魔力と精神力を使っちゃうので、使ったあとは、眠く……なっちゃうんです」
そう言って彼女はパタン、と眠りこけてしまった。
「ええ! シンシアさ〜ん! こんなところで寝ないでください!」
こうして、僕はシンシアを担いで冒険者ギルドまで戻ることになったのだった。
帰り道、彼女は、僕の背中で穏やかな寝息を立てていた。
「シンシアさん、君は決して役立たずなんかじゃないですよ。立派な『大聖女』です」
冒険者ギルドに帰り、受付で冒険の報告をしているとギルド長が飛んできた。シンシアはまだ僕の背中で寝息を立てている。
「ラ、ラルクさん! あんたはじまりの森でダークロードに会ったって本当か!」
「えぇ。まさかあんなところにボスモンスターがいるなんて思いませんでした」
「いやあ、無事でよかった。よく逃げてこれたな」
「え、いや、倒しましたよ?」
「えええ! 倒したああ? ボスモンスターのダークロードを!」
「はい、これがドロップ品です。ダークロードの体の破片。加工して何かに使えるかと思って拾ってきました」
「こいつはすげえや。ものすごい魔力を帯びてやがる。この素材を防具に練り込めばすごい魔法衣が作れそうだぞ。魔道具作りにも役立ちそうだ」
「あとこんなのも拾ったんですけど」
僕は、緑色に輝く魔力結晶をギルド長に見せた。
「ひぃっ! これは魔力結晶……。こんな立派な物は初めて見たぜ。確かにこれはボスクラスのモンスターしか落とさない代物だ。あんたどうやって倒したんだい」
「えっとー、まあ彼女のおかげですよ」
僕は、背中ですやすやと寝ているシンシアの顔を振り返った。
「なんだなんだ? ダークロードってなんだ? ボスモンスターだって?」
ギルド長が大声を出したので、冒険者たちが何事かと集まって来たようだ。
「おいおい、あんたら、薬草摘みに行ったんじゃねえのか」
「ダークロードというのは伝説級のモンスターだろう。その恐ろしい魔力に当てられただけで普通の人間は立っていられないとも聞くが……君たちは一体」
「あんたたちEランクの冒険者じゃなかったの? こんなすごい子たちがEランクなんて。ちょっと、ギルドの指標はどうなってるのよ!」
何やら、騒がしくなってきた。シンシアを早くベッドで休ませたいが、他の冒険者たちが次々と話しかけてくるせいで動けない。
「ちょ、ちょっとすいません。彼女を医務室に連れて行きたいんで失礼します」
僕は人込みの間をすり抜けて、そそくさと医務室へ向かった。
「おーい、ラルクさん、後で話があるから帰りにまた受付に顔を出してくれ」
ギルド長が僕の背中に声をかけてきた。
医務室へ行き、シンシアをベッドに寝かせた。
僕は彼女の寝顔を見ながら、初めての冒険がうまくいってよかったと安堵していた。
──────────────────────
次回、シンシアをベッドに寝かせたラルクは……!
あとがき
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