第五話 シンシアの優しさ
シンシアのおふざけによりエビルスライムへと進化したスライムたち。その中の一匹がシンシアに襲いかかった!
「シンシアさん! あぶない!」
シュバ! ピキーン!
なんとスライムは、シンシアの体に触れる前に、見えない何かに弾き飛ばされた。
「な、なんだ? シンシアさん! 大丈夫ですか?」
「わたしなら大丈夫ですよ。無敵バフがかかってますから」
彼女はそう言ってニッコリと微笑んだ。よく見たら彼女も聖域内にいる。中にいれば自分自身も効果の対象にできるようだ。こいつはすごい。
「む、無敵バフ! そんなのもかけれるんですか? 僕にもかかってますか?」
「あ、これは自分にしかかけれないんです。ごめんなさい」
「そうなんですか?」
「対象によってかけられる効果が決まってるんです。でもすごいですよ? ラルクさんはかけられる効果が他の人に比べていーっぱいあります」
「ホント? 自分ではよくわからないんですが、今は何がかかってるんですか?」
「腕力増強(特大)、
「す、すごい。めちゃくちゃな効果がたくさんついてるんですね」
「本当にすごいです! こんなにたくさんの効果を付与できる対象はなかなかいませんよ! ラルクさんはすごいですよ!」
聞いたことはあるが実際に目にしたことのないバフばかりだ。この中のうち一つでもかけられるとしたらそれはもう支援職としてはすごいことだ。パーティに引っ張りダコだろう。
さっきからエビルスライムは、シンシアに向かって体当たりを続けている。
「シンシアさんばかり狙ってますね。無敵なのに」
「ええ、でも術者が一番狙われるのは当然です。だからわたしも聖域内に入り、自分に無敵バフをかけてるんです」
聖域の効果がものすごいせいで。術者にヘイトが向いてしまうようだ。
ヘイトとは戦闘時に、モンスターが誰を狙うかという敵意のことである。強い者、弱い者、前衛、後衛、モンスターによってそれぞれ狙ってくる対象は違う。
冒険者の行動、スキルの使用によってもヘイトは変化するので、体力の低い魔法使いや、回復魔法を使おうとしたヒーラーを狙ってくる狡猾なモンスターもいたりする。
(なるほど、閃いたぞ!)
「シンシアさん。この『聖域展開』は僕のスキルとすごく愛称がいいかもしれません」
「そうなんですか?」
「ええ、僕のスキルを見せますね」
スキル『挑発』! 対象はスライム! 威力は特大!
すると、目の前のエビルスライムが飛びかかって来たので、剣を一振りして倒した。
ズバシュッ! 「ピキーッ!」
「おかしいな、このスライムだけにかけようとしたら、いつもより効果が強まった気がする」
「今、ラルクさんにはスキル範囲拡大のバフが付いてますよ」
「あ、そうだったんですか!」
「あ……ラルクさん、あれ……」
聖域の外を見ると、はじまりの森中に生息しているたくさんのスライムが押し寄せてきていた!
その数およそ1000体!
ポヨ、ポヨポヨ、ポヨポヨ、ポヨポヨポヨ!ポヨポヨ、ポヨポヨポヨ!
ポヨポヨ、ポヨポヨポヨ!ポポポ、ポヨポヨ、ポヨポヨポヨ!
ポヨポヨ、ポヨポヨポヨ!ポヨポヨ、ポヨポヨ、ポヨポヨ!
「うわあ! 森中のスライムを呼び寄せてしまった! 」
「すごい。ラルクさんのスキルって挑発スキルなんですね! 珍しいですね!」
スライムたちは、聖域に入ろうとしては弾かれている。シンシアが許可していないので入ってこれないようだ。
中に入れないスライムたちは、聖域の見えない境界に折り重なり、周囲にスライムの壁がだんだんと積み上がっていく。たくさんのスライムたちが、空中に浮いてるように見える。聖域の外から見ると、大きなスライムの家のように見えるんだろうか。
これを見ててわかったが、聖域は空中にも半球状に見えない境界があるようだ。おそらく地下にもあるんだろう。聖域は空中と地下を合わせて球状の形になっていると思われる。
「ラルクさん、このスライムたち、どうしましょう?」
シンシアは照れ笑いを浮かべながら聞いてくる。
「うーん、今なら範囲攻撃で一撃で倒せそうですねえ」
「こんなにたくさんのスライムを全滅させるなんて! かわいそうですよ!」
「あの……シンシアさんって優しいんですね」
その時、なんとスライムたちが一瞬で消え去った。まるで何かに吸い込まれるように綺麗さっぱりいなくなってしまった。
「え、なんだ?」
何やら怪しい気配のする方を見ると、そこには一匹の『何か』が立っていた。
「フッフッフ、余を起こす者がいるとはな。この静かな森でひっそり眠っていたが、こんなにも何かに興味を惹かれたのは初めてだ。どんな人間がいるのかと思えば。どうもそんなに強そうには見えんが……」
「なんだこいつは……」
そこには、人間の形をした何かが立っていた。人に化けて人語を操るモンスターは知能が高く、総じてレベルも高い。
「頭が高いぞ、人間よ。余は、冥界の王ダークロード。冥界の
「ダークロードだって! や、やばい。ボスモンスターだ──。シンシアさん。さっきの範囲拡大された僕の『挑発』スキルでやばいモンスターを呼び寄せてしまったみたいです」
「えっ、あの、ボスモンスター? あの人は人間ではないのですか?」
「いえ、あれはダークロード。太古より生きる冥界の王で、遥か昔に魔王と戦って負けて以降、人間界に紛れ込み身を潜めていると書いてありました。しかしどうしてこんな場所に……」
「下等な人間よ、発言には気を付けろ。余は負けたのではない。戦いに飽きたのだ。この平和な森で静かに生きることを選んだのだ。しかし、久しぶりに目を覚ましたら……なんだか」
ダークロードは不敵な笑みを浮かべて僕を睨んできた。
「少々暴れたくなったぞ!」
ダークロードの体からは、凄まじい闇の魔力が溢れだしている。昔見た文献には町を一瞬で滅ぼすほどの魔力を持っていると書かれていた。
「やばいな! こんなやつが暴れたらどうなるんだ──」
(だが、やつもシンシアの聖域に入ればデバフがかかって弱体化するかもしれない)
「フフフ、貴様らが入っているその聖域。何やら嫌な感じがするぞ。そこに入れば余といえども、ただではすむまい。ノコノコと入るものか」
(一瞬でこっちの手の打ちと、狙いを見破られた!)
その時、シンシアがつぶやいた。
「ラルクさん、『挑発』を使ってみてはどうですか?」
「えっ、あっ! そうか!」
スキル『挑発』! 対象は冥界の王ダークロード 威力は特大!
すると、ダークロードは自分から聖域内に入り、僕に襲い掛かって来た。
「ヌアアア、か弱き人間よ! 寝起きの準備運動に貴様を
襲いかかってきたダークロードのあまりにも遅いスピードに僕はビックリしてしまった。シンシアの方を見ると彼女が目で合図している。
なるほど、どうも遅いと思ったら、ダークロードにはスローのデバフがかかっているようだ。
「はああああああぁぁぁ」
ザシュッ!
僕は余裕を持って、気合いを入れ、ダークロードを一刀両断した。
「ぐはあぁっ! なぜだ! こんな人間ごときに!」
そしてダークロードの身体が砕け散った。
「はあはあ、終わった、のか」
手ごたえは十分にあったが、まさか一撃で倒せると思っていなかったので少し拍子抜けした。
「シンシアさん大丈夫? 怖くなかった?」
彼女に振り返り声をかけた。
「ああ! ラルクさんあれを見てください!」
彼女は砕け散ったダークロードの破片を指さした。
破片からは、邪悪なオーラが放出されそれが空中に集まって形作られていった。
「こ、これは! まだ終わってなかったのか!」
──────────────────────
あとがき
読んでいただきありがとうございました。
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