第四話 シンシアとの初めての冒険

 ダンジョンで偶然出会い、パーティを組むことにした僕とシンシアは、さっそく冒険者ギルドに登録をしに行くことにした。


「わぁー、この時間は混んでますねえ」


 相変わらず冒険者ギルドの受付は混み合っていた。だがシンシアと話しながら順番待ちをするのは苦痛ではなかった。


 僕たちの番が来た。受付嬢に名前を告げる。


「ラルクさんとシンシアさんですね。今日はどのようなご用件ですか」


「彼女と臨時パーティを組みたいんです。それで、何かクエストを受注したいんですが」


「わかりました。臨時パーティ希望ですね。あなたたちは二人ともEランクなのでこちらから選んでいただくことになります」


(彼女もEランクだったんだ。まあ追放されたわけだしそうなるか)


 シンシアを見ると目が合った。彼女はニッコリと笑った。


「同じランクですね」


「ああ。じゃあ、クエストはなんでもいいんだけど……。とりあえず薬草摘みにでもしましょうか。それでいいですか? シンシアさん」


「はい! わたしは、それでかまいませんよ」


「薬草摘みクエストですね。では気を付けていってらっしゃいませ」


 僕とシンシアが受付を離れる時、後ろにいた冒険者たちの声が少し聞こえた。


「おいおい、薬草摘みのクエストなんてマジで受けてるやつら初めて見たぜ。男女二人で仲良くデート気分かよ」

「あまり見てやるな。かわいそうだろう。彼らも彼らなりに頑張っているのだよ」

「そうよ。Eランクですもの。彼らのような人たちがいるおかげで、私たちは回復薬を安く買えるんだからバカにしてはかわいそうよ。むしろ感謝するべきよ」


 彼らは、僕たちに聞こえるようにわざと大きな声で言ってるのだろう。


(好きに言ってくれてけっこう。別に本気で薬草を摘みにいくわけじゃないさ)


 隣にいるシンシアの横顔をうかがうも、聞こえてないのか聞こえないフリをしているのか、僕にはわからなかった。

 その後、僕たちはギルドを出て、はじまりの森という場所に向かった。




 ここは低レベルのモンスターしか生息していない、はじまりの森。


 初級冒険者用の場所。だが実際は、みんな最初からパーティに入って活動するため、ほとんど誰も来る事はない。なので人っ子一人いない場所になっている。


「わたし、この森に初めて来ました。空気が綺麗な所ですねえ」


「そうですね。冒険者に成り立ての頃しか来ないし、いきなりパーティにスカウトされたりしたら、一度もこないことも珍しくないような」


「わたしは『深紅の華』のみなさんに最初から中級ダンジョンに連れていかれて、彼女たちについて行くのに必死でした。本当は最初はこういう初級の狩場に行ってみたかったんですけどね」


 女性冒険者だけで構成されたパーティ『深紅の華』にスカウトされたシンシアは、全く使えないゴミスキル持ちの聖女と言われ、半年でパーティをクビになったらしい。


(女だけのパーティか。いろいろありそうだ。けっこう苦労したんだろうなあ)


「とにかく、ここなら凶悪なモンスターもいないし、スキルの試し打ちにはもってこいです。さっそく詠唱を始めてください」


「わかりました。じゃあ半分くらいの魔力の聖域にしますね。詠唱に一時間ほどかかりますので、その間時間を潰して待っててもらえますか」


「はい。じゃあ僕は、その辺で薬草でも摘んでますね」




 僕はスライムなどのモンスターを適当に倒しながら、初心に帰って周辺の薬草を摘んでいた。シンシアを遠目で見ると、一生懸命に詠唱をしている。


 彼女の姿を見ようと近づいて、顔を見てみた。すると彼女がこちらを見てきた。


「な、なんですか?」


「いやー、真剣な顔してるなーと思って」


「は、恥ずかしいので離れててください!」


 彼女は照れ笑いを浮かべながらそう言った。


「へへっ、ごめんごめん」


 僕はまた薬草摘みに戻った。


 こうして、森を歩いて薬草を摘んでいると子供の頃を思い出す。僕の実家は、王都から遠く離れたド田舎にあった。


 子供の頃はよく野山を駆け回って遊んでいた。


 父親に連れられて毎日のように山奥へ狩りや山菜取りに行っていたので、脚力と体力だけはかなり自信がある。


(あー、嫌な記憶を思い出した)


 子供だった僕は、なぜか獲物を引きつける囮役をやらされていたのだ。どこに実の息子を囮に使う父親がいるのだろう。


 とにかく僕はイノシシやオオカミから必死に走り回っていた記憶がある。


 13歳の時に家を出て、冒険者になるために王都に来た。大したスキルもない田舎者の僕を入れてくれるなら、どこのパーティに入ってもいいと思った。


 たまたま荷物持ちポーターを募集していたエリックたちのパーティに入れてもらった。自然の中で鍛え上げられた脚力と体力を存分に発揮して、最初は荷物持ちやマッピングなどの、サポート業務をやっていた。


 そのうち、自分には人やモンスターの注意を引きつけるような才能があることに気付いて、それを実践で磨いていくうちに『挑発』スキルが使えるようになったわけだ。


 タンクの使うそれとは異質な『挑発』スキルは、僕の最大の武器になった。




 そろそろ詠唱が終わる頃だろうか。薬草をカゴいっぱいに摘んだ僕は、試し切り用にスライムを何匹か連れて、シンシアの元に戻った。


 彼女は、まだ集中して詠唱していた。僕の姿を見ると、エメラルドのように輝く瞳をパッと開いて声をかけてきた。


「ラルクさん! そろそろ詠唱が完了します。足元に聖域を出しますね!」


「おぉっ、楽しみですね!」



「はい! いきます! 『聖域展開』!!!」



 彼女がそう叫ぶと、僕の足元に魔法陣が現れて輝いたかと思うと、地面に直径10メートルほどの円形の聖域が出現した。


「おぉ、すごい! これが聖域! んん? なんだか力が漲ってきます!」


「ラルクさんには特大の腕力アップのバフがついてます」


「ホントですか! 確かに本当に力が湧いてきてる! よし、この腕でスライムに試し切りを……」


 僕はスライムを振り返った。



 なんと、そこには狂暴化したスライムたちの姿があった!



「うわあ! ええぇ! スライムたちにもバフがかかってませんか?」


「ごめんなさい……、あまりにも弱そうなスライムたちに、デバフをかけるのがかわいそうでついやっちゃいました」


「ついやっちゃいましたじゃなくって! うわああ!」


 スライムたちは、当たるとヤバそうな液体ヘドロを次々と吐き出してきた。ドス黒い酸性の液体ヘドロだ。


 ヘドロが眼前に迫ってくる中、僕は素早く身をかわした。いつもの5倍くらいの素早さになっており、なんなく避けることができた。脚力も相当アップしているようだ。


 スライムたちはレベルアップしてエビルスライムになっていた。このスライムは上級ダンジョンで出てくるようなモンスターだ。


「モンスターに情けをかけてる場合じゃないですよ! とりあえず倒しますね!」


  ザシュ! シュバ! バシャ!


 僕は素早い身のこなしで、スライムたちをワンパンしていった。


「レベルが上がってもスライムはスライムですね。いや、僕が聖域の効果で強くなりすぎているのか」


 その時、スライムのうち一匹がシンシアに向かっていった。


「しまった! 一匹見逃した! シンシアさん! あぶない!」


 スライムは大きく膨らんだかと思うと、シンシアを押しつぶそうとしてのしかかった。






──────────────────────


あとがき


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次回、とんでもない強敵が現れます!

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