第三話 唯一無二のレアスキル

 中級ダンジョンでたまたま出会って助けた女性。僕は彼女に自己紹介をした。


「自己紹介がまだでしたね。僕の名前はラルクっていいます」


「ラルクさん、ですか。わたしはシンシアといいます」


 シンシアと名乗った彼女の見た目は、黒髪のロングヘアにエメラルドの瞳が映えている。清楚でとても美しかった。服装も聖女を連想させるものだ。


「シンシアさんですか。ところで……一体何を探してるんですか? 一人で探すのは大変でしょう。ホントに手伝いますよ?」


「本当にいいんですか? ありがとうございます。実はペンダントを無くしてしまって……」


「ペンダント、ですか。どんなものですか?」


「緑色の宝石がはめ込まれているもので、母の形見なんです。もう三日ほど探していますが見つかりません……」


「なるほど、母の形見ですか……。それはショックですよねえ。無くしたのが三日前となると、もう他の冒険者に拾われたか、モンスターの腹の中かもしれませんね……」


「そう、ですよね」


 彼女はガックリと肩を落としている。


「とりあえず探してみましょうか!」




 僕たちはダンジョン内を歩いてペンダントを探しながら、お互いのことを少しずつ話した。


「あのー、シンシアさん、ペンダントを無くした時は、どういう状況だったんですか?」


「はい……、三日前にパーティの方たちと、このダンジョンを訪れていました。みなさんお強いのでどんどん先に行ってしまって、私は追いつくのに必死だったんです。それでこの辺りでモンスターに絡まれた時にペンダントを落としてしまったんです。でも先を急いでたので……」


「そうだったんですね」


 シンシアは少し黙ってからポツリと答えた。


「はい、私はモンスターを倒せないので、落としたペンダントを拾うことはできませんでした。そして仕方なくみなさんの後を追いかけました。あの時無理してでも拾っていればよかったんですが……」


「パーティのみんなにはペンダントのことは言わなかったんですか?」


「それは……追いついた時に言ったんですが、みなさんに反対されてしまって。せっかく下層まで来たのに戻って探すわけにはいかないと言われました」


「えー! ひどいなあ! いっしょに探してあげたらいいのに」


 シンシアはビックリした顔でこちらを見た。急に憤慨した僕を見て驚かせてしまったのかもしれない。


「えっ、ラルクさん、そう言ってくださって嬉しいです。でもいろんな考え方がありますからね。私はみなさんに迷惑かけっぱなしだったので信頼されてなかったのかもしれません」


 そう言ったシンシアの顔はどちらかといえば暗かった。さっきはたまたまいっしょに笑いあったが、彼女は普段こんな感じの温度なのだろう。


「シンシアさんは、なんていうパーティに入ってたんですか?」


「はい、『深紅の華』という女性5人で構成されたパーティです」


「聞いたことあります。女性だけの冒険者パーティはかなり珍しいですよね。ヒーラーだったんですか?」


「いえ、ヒーラーではなく……なんというか、どちらかといえば支援職、です」


 彼女は歯切れ悪くそう言うので、何か言いづらいことがあるのかもしれない。


「バフとか、アイテム生産とか? サポート系?」


「いえ、聖域……展開です」


「えっ! なんですか?」


「聖域展開というスキルです。聞いたことないですよね……」


「『聖域展開』! 聞いたことありますよ。昔の文献で読んだことがあります!」


「ほんとですか!」


「ええ、確か聖域という空間を作り出して、中に入った者にいろんな効果をかけるんですよね?」


「わたしのスキルのことを知ってる人に会えたのは初めてです! なんだか嬉しいです!」


 シンシアはよほど嬉しかったのか、突然にぐいぐいきた。


 僕は様々な知識を得るために文献を読み漁ってた時期があり、その時に珍しいスキルの項目なども見た記憶があったのだ。


「確か、相当なレアスキルなんじゃないですか? 現代では選ばれし大聖女しか使えないスキル、とかだったような……」


「はい、わたし、実は聖女なんです……大が付くほどではありませんが」


「え、聖女……」


 真顔でそう言うのを見て、僕はなんて返せばいいかわからなかった。


「あの、ラルクさん、聞いてます? わたし、聖女なんですよ」


 彼女は覗き込むように上目遣いで、僕の顔を見てきた。


「あ、ごめん。なんかあまりにもビックリして、えと、聖女ってホント?」


「はい! その顔は、信用してませんよね?」


 僕は、笑いをこらえながら、彼女から目をそらしてこう言った。


「いやあ、だって聖女ってもっと大事に扱われてるものだと思ってたから。まさかパーティから追放される聖女がいるなんて思わなくって」


「ひどいっ! ひどいです!」


 シンシアは少し泣きの演技をしながら、そう言った。本気で怒ってるわけじゃないようだ。


「ごめんごめん。冗談ですよ。しかし聖女って自分で言う人に初めて会いましたよ。なんていうか、もっと厳かな場所にいるもんだと思ってたので。大教会とか」


「その通りですよ。わたしは半年前まで教会にいる普通の聖職者見習いでした。ある日、聖女としての力に目覚めて、そこを冒険者パーティ『深紅の華』のリーダーさんにスカウトされたんです」


「へー、聖女として目覚めたことで冒険者パーティに勧誘されたんですね。すごいなあ」


「聖女自体は珍しいですけど、私は全然すごくないですよ。ダメダメでした」


「なんでですか? 聖女に選ばれるだけですごい才能があるってことじゃないですか」


「私の場合、スキルがレアってだけで、全然実用的じゃなかったんです」


「そんな、『聖域展開』はすごいレアスキルじゃないですか」


「はい、少なくともこの王国で使える人はいないと先輩の聖職者に聞きました」


「ホントですか? 聖域って聖職者なら張れる人もいるくらいに思ってましたが」


「わたしの場合、普通の聖域に比べて範囲も効果も段違いなんです。その代わり詠唱時間も長いですけど」


「詠唱時間? どれくらいかかるんですか?」


「二時間……くらいですかね」



「……えっ! 二時間!!!」



「はい、そうなんです……」


「……二時間っていったら、ダンジョンに行って戻ってくる時間じゃないですか!」


 僕が大声でそう言うと、シンシアは泣きそうな顔になっていた。


「はい……やっぱりゴミスキルですよね。ごめんなさい」


 彼女の表情を見て、冗談を言ってるわけじゃないことはわかった。そうなってくると効果の方も気になるな。


「『聖域展開』ってどんなスキルなんですか? 詳しく聞かせてください」


「は、はい。えっと、入った者に様々な効果が現れる聖域を出すことができます」


「大きさはどれくらい?」


「詠唱時間に比例するので、最大二時間の詠唱だと直径30メートルくらいになります」


「30メートル! すっごく広いですね!」


「最大はそれくらいですね。その聖域に出入りする対象はわたしが自由に選べま

すよ」


「なるほど、じゃあいれなかったり、逆に閉じ込めたりすることもできるわけですね」


「はい! あとは聖域に入った対象に様々な効果を付与したり、バフ、デバフをかけることもできますよ」


「すごいじゃないですか? なんかとんでもなく夢のあるスキルですね!」


「そっ! そんなに褒めていただけたの、ラルクさんが初めてです!」


「いやいや、ホントですよ」


「でも詠唱時間が……長すぎるって、みんなにはバカにされてパーティではお荷物扱いでした……」


「いや、そんなことはないですよ! どんなスキルも使い方次第で絶対に使い道があるはずです!」


「そうでしょうか……」


「少し乱暴なやり方になりますが、考えがあります! 僕に任せてくれませんか」


「えっ! わたしのこのスキル、何か良い使い道あるでしょうか?」


「とりあえず臨時でいいので、僕とパーティ組みませんか。スキルの効果を確認したいのでいっしょに来てほしいです」


「わたし、このスキル以外には何もできません。落ちこぼれ聖職者だったので、ヒールすらも使えないんです。みんなから本当に役立たずだって言われてました……」


「いいですよ! 弱いモンスターのいる場所に行きましょう。安心してください!」


「はいっ! ではよろしくお願いします」


 彼女は、エメラルドのような瞳をキラキラと輝かせてそう言った。こうして、僕とシンシアはパーティを組むことになった。




 そして、僕は彼女のとんでもないスキルの効果を体感することになる。






──────────────────────


あとがき


読んでいただきありがとうございました。

あなたのご意見、ご感想をお待ちしております。


次のお話は、ラルクを追放した勇者エリックのその後です。

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