第二話 聖女シンシアとの出会い

 翌日、僕は新しい仲間を探すために、中級ダンジョンに潜っていた。


 ここは中級者に人気の狩場であり、冒険者もいっぱいいる。何よりモンスターがそれほど強くないので、適当にブラブラするには最適なダンジョンだった。


「まずはヒーラーが必要だなあ。魔法使いも欲しいところだけど」


 上級ダンジョンを攻略する場合、仲間がいなければ話にならない。


 エリックたちとパーティを組んでいた時は、僕が集めたモンスターをエリックと魔法使いのノエルが倒すというやり方だった。

 その効率たるや凄まじいもので、僕たちはすごい勢いで成長して、あっという間にSランクパーティになったわけだが、まあもう過去のことだ。忘れよう。


(はあ、できれば穏やかな性格の人がいいなあ)




 しばらくダンジョンを歩いていると、袋小路になっている場所の奥に人が何人かいるのが見えた。


 何やら人の声がする──。


(こんなところに人が……何やってんだろ)


 そこには三人組の冒険者と一人の女性がいた。


「なあ、姉ちゃん! 聖女だろ? なんでソロでダンジョンにいるんだ?」

「ひひひ、オレたちのパーティに入らねえか? いい思いができると思うぜぇ?」

「なあなあ、俺たちの最強パーティ『アポカリプスの終焉』に入っちゃいなよ」


「あの……困ります。わたしは探し物をしているだけなので」


 どうやらガラの悪い冒険者たちが、一人の女性に絡んでいるようだ。女性は気の弱そうな感じでボソボソと返事をしている。


 ほっとくわけにもいかないな。見たところ男たちは中級冒険者って感じだ。腕は大したことなさそうだが、大の男三人相手に立ちまわると、あの女性も危険に晒す可能性がある。


 僕は冷静に自分と相手の力量を図り、どうするのが最適かを考えた。


(とりあえずこちらに注意を向かせるか)



スキル『挑発』! 対象は目の前の三人組! 威力は大!



 すると、三人組が一斉にこちらを振り向いた。


「なんだぁ? おめえは?」

「なんか文句あるのか?」

「その目つき、なんだか気に入らねえなあ」


 よしよし、予想通りの反応をしてくれる三人組だ。


「なあ、その『アポカリプスの終焉』とやらに、僕も入れてくれないか? 聞いたことないけど、すごい名前だね」


「聞いたことないだと? かっこいい名前だろうが!」

「てめえ! 俺たちをバカにしてんのか!」

「やっちまえ」


 三人組が剣を抜き、飛びかかってきた。

 冒険者同士の揉め事はギルドルールで禁止されている。言い争いならまだしも、暴力行為は完全にノーだ。


 ただ、僕の『挑発』スキルによって敵意ヘイトを操作された三人組は、否が応でも僕に襲いかかってくる。


 僕は振り返ってそのまま走り出した。


(ふふ、やっぱり単純な相手ほどかかりやすいな)


 僕のスキル『挑発』は、人やモンスターを対象に使うことで、僕に敵意ヘイトを向けさせることができる。モンスターだけじゃなく人にも使えるってのが一般的なタンクの使う『挑発』とは少し違うところだ。

 効果も自由にコントロールできる。ちょっと振り向かせるくらいから、一生恨まれるレベル(やらないが)まで様々だ。一度に複数の対象に使うことも可能だ。




 僕はダンジョン内をひたすら走り回った。三人組は尚も僕を追いかけてついてくる。全く追いつかれる気配はないが。


(昔から追いかけっこは得意なんだよな)




 そしてダンジョン内をほぼ一周して、またさっきの場所の近くに戻って来た僕は、足を止めて振り返った。


 三人組はとっくに息を切らしていたようだ。


「ハアハア、くそ、どこまで逃げやがる。なんて体力だ」

「追いかけたくないのに、無駄に追いかけたせいでクタクタだ」

「ゼエゼエ、だが行き止まりだ。覚悟しろよ。逃げられないぜ」


「いーや、逃げられないのは君たちの方だよ」



スキル『挑発』! 対象はリーダー格の男! 威力は特大!



 すると、リーダー格の大きな男が、雄たけびを上げて襲い掛かって来た。


「おおぉぉぉぉっっっ! っかはっ!」


 息切れしているようで、声がほとんど出ていない。


「おぉ! リーダー! やっちゃってくれー!」


(闇雲に突っ込んでくる相手ほど、やりやすいものはないんだよなあ)


 息も切れ切れで疲れている男の剣を弾き飛ばし、蹴りでその巨体を吹き飛ばした。


「くそっ! リーダーがやられた。こいつ強いぞ! どうする!」

「まあ、待て。ここは息を整えて、挟み撃ちにしていっきに……」


「そうはさせない! 今すぐに来てもらうよ!」



スキル『挑発』! 対象は残りの二人! 威力は特大!



「うおお、もう我慢できねえ!」

「ムカムカしてきた! やっちまうぞ!」


 二人は剣を振り回しながら、いっきに飛びかかって来た。太刀筋たちすじのなってない剣を弾き飛ばし、足をかけて転ばせた。


「いててててー! くっそー、こんな優男にやられるなんて!」

「くそ、なんかいつもと調子が狂うぜ」


 僕の『挑発』は威力も様々にコントロールできる。強く当てれば周りが見えなくなるほどに。そして、居てもたってもいられずに襲い掛かってくるわけだ。

 これで僕は戦況を自在にコントロールできる。


「君たち、威勢はいいけど腕はなまってるね。しっかり修行したほうがいい。か弱い女性相手に強がるようなマネしてるから、いつまでたっても中級者止まりなんだよ」



「「「ひえええぇぇ、ごめんなさい」」」



 三人組は逃げていった。


 僕は岩陰から顔を出しているさっきの女性の姿を見つけた。


「あ、さっきの。あいつらなら逃げて行きました。もう大丈夫ですよ!」


 女性は僕と目が合うと、ビックリした顔をして頭を下げてきた。


「あ、あの、どうもありがとうございました」


「いえいえ、大変でしたね」


「ずっと見ていました。相手は三人もいたのに、あっという間に倒してしまってビックリしました……」


「いえ、なんとか倒せたって感じですよ。彼らも反省して、今後はまっとうに冒険すると思います」


「そうなんですね。とても強そうな方たちでしたが、彼らを説得するなんて、あなたも相当お強いんですね」


「いやいやそんな、大したことないですよ。それにしてもここで何をしてるんですか?」


 女性は修道服を身に着けており、黒髪を胸元まで伸ばしたロングヘアだ。見たところ支援職だから、中級ダンジョンにソロでいるのは不自然だった。


「実は、そのー、えっとー」


「ああ、仲間とはぐれたんですか?」


「いえ、わたしは元々一人で来ました。以前ここへ来たときに大切な物を無くしてしまって、探しにきたんです」


「探し物ですか? 一人では大変そうですね。手伝いましょうか?」


「いえいえそんな! 見ず知らずの人に助けていただいた上に、そこまで迷惑をかけることはできません!」


 女性は慌てつつ、僕の目を見ながらそう言った。彼女の瞳はエメラルドのような碧眼だった。


「別に迷惑ではないですよ。僕もソロでウロウロしてるだけなので。パーティの方に手伝ってもらわなかったんですか?」


「えーっと……実はわたし、先日パーティを追い出されてしまって……今はずっと一人なんです」


 彼女は気まずそうに言った。


「何だって! 奇遇ですね! 僕も昨日パーティを追放されたばかりなんです」


 僕の言葉を聞いて、彼女は目を見開いてこう言った。


「そうなんですか! じゃあ、わたしたちは似た者同士なんですね。ふふふ、あ、ごめんなさい。私ったら」


「いやいや、笑ってください。ははは、こんなところで同じ境遇の人に出会うなんておもしろいなあ」


 僕たちはお互いに顔を見合わせて、声を出して笑いあった。






──────────────────────


あとがき


読んでいただきありがとうございました。

あなたのご意見、ご感想をお待ちしております。


次回、ヒロインのご紹介です。

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