Sランクパーティを追放された荷物持ちは、大聖女とイチャラブしながら成り上がる。ヘイト管理の重要性にようやく気付きましたか?~今さら戻ってこいと言われても、もう手遅れです~

猫宮うたい

追放、そして大聖女との出会い

第一話 Sランクパーティからの追放

「というわけで、今日でお前とはお別れだ。今までご苦労だったな」


 パーティリーダーである勇者エリックは、僕に向かって突然そう言った。


 ここはとある王国にある、冒険者ギルドの酒場。


「なんでだよ! エリック! 教えてくれないか? 僕のどこが悪かったんだ?」


「生意気な! 俺を誰だと思ってやがる。今をときめく勇者エリック様だぞ?」


 僕はテーブルに着いたまま、エリックのしかめっ面を見上げた。


「はぁ、お前のその目つきも気に入らねえんだよ。まあ追放の決定的な理由はそれかな。ハハハ」


「そんな! この目つきは生まれつきだ! 僕が不要になった理由をちゃんと説明してほしいんだけど?」


「ラルクさー、平民出身の荷物持ちのくせに。素直に受け入れなさいよ」

「そうよそうよ。んまあ……自分の無能さは自分ではわからないかー、アハハッ」


 他の二人のメンバーも、エリックと同じ雰囲気で僕を責め立ててくる。


「なあ、ラルク。お前のパーティでの役割ってなんだ? 言ってみろよ」


「僕は荷物持ちだ……。だけど! 『挑発』スキルが使えるから、タゲ取りをしてみんなをサポートしてる。最近はサブアタッカーとしてもそこそこ戦えてると思ってるんだけど……」


 僕は悔しくて、早口でまくし立てた。


「タゲ取りでサポートだと? 笑わせんな! モンスターから逃げ回ってるだけじゃねえか。お前を狙ったモンスターを倒してやってるのは俺たちだぞ! それにお前の剣術はまだまだヘナチョコだ。あの程度でサブアタッカーを名乗るなんておこがましいぞ」


 僕は二年前、このパーティに荷物持ちとして入った。その時はまだBランクのパーティだったけど、それから上級ダンジョンを何度も攻略した功績を評価され成長していき、Sランクにまで成り上がった。


 『挑発』スキルによって、モンスターのヘイトを自在に操ることができた僕は、囮になってうまくサポートに徹していた。そしていっしょに戦えるようになりたいとも思って、必死に剣の腕も磨いてきた。


 最初の頃に比べればそこそこ戦えるようにも成長したが、剣術に絶対の自信があるエリックは、一切僕を認めるつもりはないようだ。


 僕はエリックの目をまっすぐに見つめていた。


「何か言いたい事があるのか? まったく俺を誰だと思ってるんだよ」


 公爵家の令息でもあるエリックは、溜め息をつきながらそう言った。


 同じパーティである以上、家柄や立場は関係ない──と、エリックは最初に組む時にそう言ってくれたはずだが、心の中では平民出身の僕を見下していたようだ。


「てか、ラルクさー。一応平民であるアンタを迎え入れてあげたアタシたちに、感謝の気持ちとかあってもよくない?」


「そうそう、アリサの言う通りだぜ。こいつは上流貴族である俺たちを妬んでやがる。田舎者は性格が歪んでるな」


「あんまり役に立ってないお前の代わりに新しいメンバーが入ることになったんだ。だから、お前はもうお払い箱だよ」


「そうなんだ……」


 新しいメンバーが入ることになってたなんて、全然知らなかった。


「僕がいなくなったら、どうするの?」


「は? 荷物持ちなんて臨時で雇うぜ。お前の代わりはいくらでもいる」


「いや、荷物持ちじゃなくて、モンスターのタゲ取りさ。パーティのヘイト管理は誰がするのさ?」


「はああ? なんだその態度は! お前のいうヘイト管理なんてのはな、別に必要ないんだよ。挑発なんていう小細工スキルは圧倒的な火力の前では役に立たねえのさ」


 魔法剣士であるエリックは、自分の強さに絶対の自信を持っている。冒険者ギルド内で勇者と呼ばれて持ち上げられている彼は、現在魔王討伐に一番近い男と言われている。


「ねえ、エリック、言い方考えなよ。ラルクがかわいそうじゃん? ラルクだって今まで必死に走り回って頑張ってくれてたんだからさ」


 魔法使いのノエルが、そう言って僕に同情の言葉をかける。

 しかし、彼女も内心では僕のことを下に見ているのはわかっていた。直接言われなくても、言葉の節々や態度からそういう気持ちは伝わってくるもんだ。


 ヘイト管理の重要性はみんなに何度も説明しているが、やっぱりエリックはわかってくれない。一番肌感覚でわかってそうなのはヒーラーのアリサだが、彼女の方を見ると下を向いて自分の髪の毛をイジっていた。どうやら長話に飽きてしまったらしい。この話に全く興味がないようだ。


「おい、ラルク。他になんか言うことないのかよ」


「……新しく入ってくるメンバーってどんな人なの?」


「バカが、聞いて驚くな! 新メンバーはこの国の第三王子であるアーサー殿下だぞ」


 アーサー殿下という人物をよく知らなかったが、この王国の王子であるなら実力は十分にあるのだろう。


「アーサー殿下の剣技は有名だ。俺と合わせてパーティの総合的な火力は更にアップするわけだ。ラルク、タンクでもないお前が挑発スキルなど使うより、パーティ全体の殲滅力を上げるほうが断然いいんだよ!」


(僕の『挑発』スキルは普通のそれとは一味違うんだけど、聞き入れてもらえなさそうだ)


「わかった。そこまで言うなら、僕は抜けることにするよ」


「なんだその言い方は! 抜けるんじゃなくてこっちが追放するんだよ。もうギルドのほうに除名の話は通してあるからな。あとは自分で手続きしといてくれよ」


(なんだって? じゃあ最初から僕を追放する気だったのか。なんだったんだこの話し合いは)


「そうか。今まで世話になりました。それじゃ」


 僕はそう言って立ち上がり、テーブルを後にする。


 すると後ろからアリサの声が聞こえた。


「ねーねー。アタシ、明日は朝イチで髪の毛切りに行きたいんだ。とりあえず今日はもう帰ってイイ?」


「アリサ、ちょっと待てよ。この後は俺と二人で飲み直す約束だろ?」


「ちょっと、なにそれ。聞いてなーい。三人で飲めばいいじゃん」


 エリックが、帰ろうとするアリサを慌てて止めている。それを聞いてノエルが不満を漏らしている。

 彼らはもう違う話題で盛り上がっている。彼らにとって僕の存在はそんなに重要ではなかったようだ。残念だった。


「くくく、見ろよ。あいつパーティを追放されたみたいだぜ。哀れだな」

「役立たずの烙印を押されたようなもんだからな。どこも拾ってくれねえぞ」

「追放されたヤツをパーティに入れるなんてまっぴらごめんだ。あいつはこれからどうするのやら」


 他の冒険者の嘲笑を含んだ声が、僕の背中に飛んでくる。エリックとの会話を聞いていたのだろう。別に他の者にどう思われてもいい。


 僕は酒場を出て、ギルドの受付に向かった。


「ラルクさんですね。Sランクパーティ『†栄光の騎士団†』を除名されたようですね。したがって冒険者ランクもEランクまで下がりますのでご了承ください」


「えー! そんな……そこまで下がるもんなのか」




 帰り道、僕は明日からどうするか考えながら宿舎に向かっていた。


 王都の夜は今夜もにぎわっている。


(食っていく分の日銭はソロでも稼げないことはないけど、それだと寂しい生活になるなあ)


 より良い報酬を得るためには、高難度のクエストをこなすか、上級ダンジョンに行かなければならない。しかし上級ダンジョンはソロだと厳しい。

 新しい仲間とパーティを組む必要があった。しかしSランクパーティを追放されたという触れ込みがあっては、どこも入れてくれないだろう。またやっかいな事になるのはごめんだ。


「よし! パーティを作ろう! そのために新しい仲間を探そう」


 僕はそう決めて、その日は眠りについた。




 翌日、僕は運命的な出会いをすることになる。






──────────────────────


あとがき


読んでいただきありがとうございました。


7月4日に新作投稿しました。こちらもお時間ありましたら、御覧ください。


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