第三話 異世界ネイティシスで目覚める
気がつくと、私は一本の木の根元に座っていた。
周りを見渡すと丘もある広い草原で、所々に木が生えている。
目の前に田舎の田んぼ道のような
時代背景がわからないが、この轍は自動車のものではない。
女神様が言っていたこの世界【ネイティシス】は、さほど文明が進んでいないように見える。
恐らくこれは街と街を繋ぐ街道だろう。
おや、私はちゃんとした服を着ていた。
あの白い布のままここを歩いていたら、本当に奇人になるところだった。
服装は、黒い革ジャンに黒いカーゴパンツ、黒のスニーカー。
女神様からのプレゼントかも知れないが、そういうセンスなのか黒ずくめだな。
ブランド物ではなさそう。
日本の衣料品チェーン店で見かけたことがあるような安っぽさはあるけれど、そこそこ丈夫な物だ。
起き上がり、革ジャンを脱いて身体を
身体が軽く引き締まっている。
下着の白いシャツをめくって見ると、お腹がブヨブヨしていないどころか腹筋が六つに割れている。
ええっ!? 確かこれは私が十八歳くらいの姿だ。
顔も確認したいが、あいにく鏡を持っていない。
鏡どころか、ポケットに手を突っ込んでも何も無いじゃないか。
食べ物も無ければお金も無い。
無一文でこれからどうしろって言うのさ。
女神様がせっかく服を用意して身体まで若くしてもらったのに、もうちょっとだけサービスしてくれても良かったのではないか。
しばらく途方に暮れていたが、ここにいても仕方がない。
街道のどちらかへ進んで行こうと思うが、遠くをざっと見て木が少ない方向へ歩くことにした。
---
もう一時間近く歩いただろうか、田舎道のせいか誰一人見かけない。
そして街道は林の中へ入っていった。
せっかく木が少ない方向へ進んだのにあまり意味が無かったな……
数キロも歩けば以前の私では疲れているはず。
不思議なことに、全く疲れていないどころか調子がいい。
この身体になって体力が上がっているのだろうか。
そのまましばらく歩いていると、あちこちの木の陰からガサガサと音がした。
すると急に人がぞろぞろと出てきた。
「うわあ…… 俗に言う荒くれ者か? こいつら絶対ヤバいよな……」
姿はどう見ても世紀末の野盗のようで、五人いる。
この世界に来て初めて出会った人間がこんなやつらとはついていない。
こんなに人がいなけりゃ盗る物も無いだろうに、何故こいつらがいるのかわからない。
野盗は斧やサーベルを持っている。
私は武器も何も持っていない。
前の人生では格闘技の経験がなく、喧嘩に強いわけでもなかった。
おいおい。せっかく生き返ったのに早くも第二の人生が終わってしまうのか?
だがこんなことを考える余裕があるくらい、何故か全く恐怖感が無い。
「ヒャッハー!
おい、兄ちゃんよ。有り金と持っている物をよこしな!」
あいつらが喋っている言葉がわかる。
聞こえてきたのが日本語ではないから、私が言葉を理解出来る力を持っているということか。
それにしても、ヒャッハーってリアルで言っちゃう人がいるとはな。
待てよ? 兄ちゃんと呼ばれたということは、私がおっさん顔ではないということか。
「――いえ、お金も物も何もありません。無一文なんです……」
「ハアァァ!? なんだこいつ、長い時間待ち伏せていてこれかよ。
なんかムカついた。ヤッちまおうぜ!」
ムカついたら人を殺すんかい!
すごい世界に来てしまったな……
野盗の一人が斧を振り回しながら私に向かって攻撃してきたが、あっさりと
あれ? 余裕で速い動きが見える。
「むぅぅ? 当たらねえ! おまえらもやれ!」
斧を持った太った男、サーベルを持ったモヒカン、シミターを持ったスキンヘッドが一斉に飛びかかってきた。
しゃがんで太った男にキック、回り込んで後ろからモヒカンにチョップ、それを見てスキンヘッドが
なんと勝手に身体が動くように攻撃できた。
正確には戦闘経験があるかのように、脳神経に植え付けられている感覚だった。
太った男は起ち上がったが、モヒカンとスキンヘッドは倒れたままだ。
太った男と残りの二人がまた攻撃してきたが、パンチとキックで倒してしまった。
五人とも気を失っているだけで、死んではいない。
私の戦闘能力は、少なくとも香港映画の拳法家並の強さであろう手応えがあった。
これは元々あった力が目覚めたせいなのか、女神様から与えられた力なのか。
厳しい修行をしていないのにこれだけのことが出来るなんて、本当に頭に植え付けられたような気分だ。
盗賊が気絶しているうちに、
食べ物は私でも食べられそうな干し肉を持っていたが、こいつらもほぼ無一文だった。
服はぼろっちいし臭いのでいらない。
干し肉だけ頂いていくことにした。
武器はどれも汚いし、扱い方がよくわからない。
素手でこれだけ戦えるのならば取りあえずいらないだろう。
しかし、またこいつらが人を襲ってもいけないので、武器を少し離れた場所へ簡単に埋めておいた。
今までのことで私には、体力、動体視力、筋力、素手の戦闘能力、恐怖耐性など人並み外れた力がついていることがわかった。
---
盗賊を林の中へ放置して、再び歩み始めた。
半時もしないうちに、今度は人型の小さな何かがたくさん出てきた。
「ぎゃあ! 気持ちわるっ」
漫画やアニメで見たことある。これはゴブリンか!?
スンスン…… こいつらイカ臭い!
女神様が言っていた魔物とはこれのことか。
と思っているうちに、いきなり襲いかかってきた。
十五匹はいると思う。
ほとんどのゴブリンがナイフを持って襲ってきたが、中には弓や槍を持っているやつもいた。
『キー! キー! ギャヒー!』
だが難なく攻撃を
えぐい……
数が多いので無我夢中でチョップをしたらまるで刀で切ったように身体が真っ二つになったり、肢体がバラバラになってしまった。
昔読んだ世紀末漫画の拳法のようだ。
ううう…… 切断面がえぐい。
自分でやっていてなんだが気持ちが悪くなってきた。
全部片付けるのに何分もかからなかったように思う。
ゴブリンの死体が道に散らばっているが、通行の邪魔になりそう。
触るのも嫌だし、さてどうしたものか……
するとカラスに似た大きな鳥や狼っぽい動物が集まってきたので、血のにおいを嗅いできたのだろう。
片付けはそいつらに任せて先へ進んだ。
狼が来たのに怖くないとは、すごい恐怖耐性だな。
そういえばゴブリンの返り血を浴びたはずなのに、衣服は綺麗なままだ。
傷も無い。
この革ジャンとカーゴパンツは女神様のご加護があるアイテムなのだろうか。
汚れない衣服とは実にありがたい。
---
さらに二時間ばかり歩く。
もう十キロは歩いていると思うが街道の両側は林が続くばかりで、街と街の間の距離がずいぶん長いのか。
サリ様はとんでもない田舎道に落としてくれたものだ。
いい加減、腹が減ってきた。
盗賊から奪い取った何の肉なのかわからない干し肉を食べてみたが、日本で売れていたビーフジャーキーと比べればクソみたいに不味かった。
腹を壊さないかな……
量が少なかったので腹が減ったままだ。
死ぬ前に職場で昼食をとってからまともな食事をしていないので、お腹がグーグー鳴っている。
いくら体力があってもこの腹の減りようでは元気が無くなってくる。
---
空腹に耐えながら先を進むと、「やあ! えいやあ!」という叫び声が聞こえてきた。
誰かいるのか、行ってみよう。
走っても身体がすごく軽いし、疲れや息苦しさを感じない。
速さはプロスポーツ選手の全速力並のようだ。
(女神サリ視点)
無事にネイティシスへ降りたようね。
なんかプレゼントした服に文句言ってるようだけれど、超高い防御力、汚れもはじいて洗濯不要!
マヤさんのサイズに合うよう日本のお店で私が買ってきたものに力を付与した、神の衣なんだからねっ
でもおっさんを十八歳に若返らせたら、なかなかいい男になってんじゃない。
力は彼が元から持っていたものが少しずつ解放されていってるわ。
雑魚の魔物や人間相手ならば余裕の力になってるからね。
また時々様子をみるから頑張りなよー
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