第一章 六
「それで、作戦は?」
場所は変わって城内の応接の間、王女を助けるための作戦会議が行われている。
「呪いを解くには術者に呪いを返すか、身代わりを立てなければいけないのだろう?」
王は問う。
「術者を殺すのではいけないのか?」
疑問を挙げたのは、静かに話しを聞いていたグラヘム。なるほどもっともな意見に希望が見える、しかし。
「それではだめだ。」
話を止めたダンは理由を話す。
「一年前の話を聞いた限り、術者は二つの呪いをかけている。」
そう、ロゼルージュにかけられた呪いは、灰の蛇の呪いに加えもう一つある。
「術者はロゼルージュの髪の毛を体内に入れた、つまり相手の一部を体に含んだ。これの意味するのは、異体同値の呪い。相手の身体と自らの身体を繋ぎとめるこの呪いは、片方が死ぬともう片方の命まで失われるんだ。」
とても残酷な呪い、これは術者にとっても危険な賭けだが、ロゼルージュの命が失われることなど無いと分かってのことなのだろう。
「卑劣な、!」
激昂するグラヘム、やはり誰かを犠牲にするしかないのか。
「いや、待て。犠牲にする人間が誰でもいいのなら、お前ではだめなのかダン・ルガルゼーナ。」
盲点だったと言わんばかりに、魚が水を得たようなグラヘムはまくし立てる。
「くはは!いいねえ、グラヘム、とても良い案だ。だが見ろ、それはお前にしかできない提案だ。」
グラヘムが見回すと王を含めた他の人間は俯いている。
「命を捨てろ、そう言ってるんだよ、お前は。民を思う国王やギルド長にそんな酷いことは言えないさ。」
言葉の意味にはっとする。いくら不老不死とはいえ簡単に命を費やせと言ったのだ。先ほどまで不老不死など半信半疑であったのに、そこに希望が垣間見えれば、醜くも手をにばしてしまう。
「確かに、俺は不老不死だ。今まで悠久ともいえる時間生きてきた。でもな、それがいつ終わってこの身体が朽ちるのか分からない。いつ死ぬか分からない、この恐怖はお前たちと同じはずだ。」
ダンのいうことがグラヘムの心に刺さる。それにこの男は死にたいときに死ねず、永遠に苦しみ、死にたくないときに死んでしまうかもしれないのだ。
すまない。心からの謝罪を述べる。話は振り出しに戻ってしまう。
「そうだ、いい考えを思いついた。」
不快沈黙と均衡を破ったのはダン。何かを思い出したようなその顔は何かをたくらむような顔に変わった。
「聞かせてくれ!」
食い気味問い詰める王を両手で抑え、話始めた。
「灰の蛇の呪いは百年程前に流行したものでな、術をかけるのにはとても高度な技術が要る。その時代も使えたのはごく僅か、加えて今も使える程長生きで強力な呪術師とすれば知ってるやつかもしれない。」
年の功か、長生きというのは多くの知恵を与えてくれる。
「相手も不老不死、なんてことはないのか?」
ミロクが疑問を投げかける。
「それは無い、断言できる。だがまああいつなら近いものはあるな。」
くくく、と悪い顔で笑うダン。
「そうとあらば、対処は早いほうが良い。ロゼルージュの余命はごく僅かだ。」
皆の顔に緊張が走る。分かるのか、と王は聞く。
「灰の蛇は長い時間をかけて対象を苦しめる卑劣なものだ。初期症状としては全体を締め付けるような痛みに襲われる、段階が進むごとに体の一部が動きを失う。」
思うことがあるのか、王は悟る。
「確かに、ロゼはもう歩くことが出来ない。それに徐々に視力が失われていき、最近では何も見えなくなってしまった。」
どれほど辛いことだっただろうか、ロゼの気持ちを思い王の顔が悲痛に染まる。
「もう末期の段階に入っている。そして最終的には内臓まで蛇が這いより、最後まで苦しめるように少しづつ肺を締め付けていく。」
生きが出来ずに悶える彼女を想像してしまい、真っ青な顔をする王。
時間は無い。
「ダン、お主に頼みたい。どうか我が孫を救ってくれ!」
力強く懇願する表情の王は覚悟を決めている。望みは他にない。
「任された。戦える人間が欲しい、グラヘム、ミロク。ついて来てくれ。」
もちろんだと、二人は意気込んだ。準備は整った、あとは外道な蛇を狩るだけだ。
三人は部屋を後にする、その直前ダンは振り返る。
「王様はこの部屋で待っててくれ、報酬には期待しておくぞ。」
悪戯に笑う男はそういうと足早に出ていった。
「全く、憎めない男だ。」
部屋に残された、二人は顔を見合わせてほほ笑んだ。
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