第4話休日とお兄ちゃん

巴side

 今日は休日だ〜。一週間の疲れを取る日、それが休日だ。そして私は休日が大好きだ。

「さて、今日は一日ゲームでもしようか」

 そうベッドに寝転んだ時だった。

「おーい、巴。買い物に行くぞ」

 そうノックもせずにお兄ちゃんが私の部屋に入ってくる。天然の茶髪に睨みを利かした目。そのため、他の人からは、不良だと思われている。それが私のお兄ちゃんだ。

「エー……なんで行かんといけんの?」

「なんでって……お前が昨日買い物に行くって言ったんだろうが」

 さっさと着替えろよ。とお兄ちゃんは部屋を出ていく。

「チッ……」

 軽く舌打ちをして、寝転んだままベッドの下の引き出しから服を取りだした。

 青いパーカーとベージュのジーパンでいいか。

 数分で服を着替え終わり私は玄関に向かう。

「お、着替え終わったか?」

「……終わった」

 ボソッとつぶやく。それでお兄ちゃんは満足そうにうなずく。

 ちなみにお兄ちゃんは、薄い青のカーディガンに白のシャツ。それに黒のジーンズで足が細く見える。……いいな〜。

「ん? どうした?」

「なんでもない」

 ハテナマークを浮かべているお兄ちゃんは置いて行く。

「あ、待てよ」

 そう言って、お兄ちゃんが追ってくるのが分かっていても私は足を止めなかった。

 商店街に着くと私はお兄ちゃんに話しかける。

「で?何を買うの?」

「ん……?ああ、まずは豚肉と野菜かな?」

「分かった。じゃあ行こうや」

 その後肉屋や八百屋に向かう。

「はー、はー、はー」

「おいおい大丈夫か?」

 そうお兄ちゃんが心配そうに話しかける。

「だい……じょうぶ……!」

「全然大丈夫じゃなさそうじゃん」

 そう言うお兄ちゃんを尻目に私はキャベツやネギなどが入ったエコバックを両手で持ち直す。

「ハァ。しゃあねえな」

 そう言って私からエコバックをもぎ取る。

「あ……ちょっと大丈夫?」

「ん……? 大丈夫だよ」

 こう言うのが優しい所である。なーんでモテないのかな?目つきが悪いとこさえ目を瞑れば、イケメンなのに……。

 そんなことを考えながら歩いていると。

「あれ? 上野さん?」

 そう私を呼ぶ声が聞こえパッと後ろを振り向く。そこには、黒のジャージ姿の神楽がいた。

「やっぱり上野さんだ。偶然だね。お買い物の途中?」

「ああ、神楽か。そう、買い物だよ。そっちは?」

 すると、神楽は頬をふにゃっとさせる。

「え〜っと、僕はバイトの帰りだよ」

 最近は話す度に神楽はとても嬉しそうな顔をする。それが何故かは知らない。

「ん……? どうした巴。とも……だち……か?」

 お兄ちゃんが後ろから声をかけてくるが、その言葉は神楽を見た途端に小さくなっていく。

「……え? ……男?」

「ん?どうしたの?お兄ちゃん」

 私がそうお兄ちゃんの方を見ると、お兄ちゃんは青ざめていた。

「あ、お兄さんでしたか。はじめまして。神楽坂悠と言います。神楽って呼んでください。」

 神楽がそう言うと、お兄ちゃんがさらに青ざめた。

「ちょっと、大丈夫? お兄ちゃ……」

「お前に巴はやらんぞ!!」

悠side

「お前に巴はやらんぞ!!」

 急に上野さんのお兄さんがよく分からないことを口走る。

「……え?」

「……は?」

 僕と上野さんがほうけたような声を出した。チラッと上野さんの方を見ると、最初はポカンッとした顔をみるみるうちに真っ赤になっていく。

(あ、カワイイ)

 思わずそう思った。それと同時に上野さんが大声をだす。

「な、何言ってんだよ!? お兄ちゃん!!」

 恥ずかしそうに上野さんが声を荒らげる。

「だって、巴の彼氏だろ!?」

 そう叫ぶ上野さんのお兄さん。その言葉にカーッと顔が熱くなる。

「ち、ちげーよ。こいつは友達。と、も、だ、ち!!」

 そう上野さんがすごい説得している。

 数分後……。

「すまん。ちょっと混乱していた」

「いえ、大丈夫ですよ」

 そういうが、まだ少し顔が熱い。

「では、あらためて神楽坂悠と言います。気軽に神楽と呼んでください」

「ああ、俺は上野たけるって言うんだ言うんだ。よろしくな」

 と爽やかにお兄さんは手を差し出す。その手を握る。その瞬間、手が潰れるのかってくらい握られる。

「巴に手ぇ出したらぶっ殺すぞ」

 その爽やかな笑みのまま物騒なことを言われ、頬がひきつる。

「あ、はい……」

「お兄ちゃん!?何言ってるの!?」

 上野さんがそう叫ぶとお兄さんはクスクスと笑った。

「いや? べつに変なことは言ってないぞ?」

 そう笑うお兄さん。

「いや、変なこと言ってるからね!?」

 それに上野さんがつっこむ。それの思わず吹き出してしまう。

「あ……?なに笑ってんだよ」

「あ、ごめん。仲良しだな〜……って思って」

 そう言うと2つの反応を見ることができた。

「当たり前じゃね〜か」

「んなわけねーだろ!!」

 まったく違う反応。お兄さんの方は誇らしげに笑うのに対して、上野さんは怒ったような声を出した。

巴side

 あれから神楽とお兄ちゃんは買い物をしながら話をしている。

「ニンニクの薄皮はレンジで十秒ほどチンすると簡単に剥けますよ」

「ほぉー……。だがあんまりニンニクとか食べないしな〜」

 などと話しながら歩いている。なんか、料理の話で盛り上がっている。

「……」

 つまんねぇ〜。てか男が料理の話で盛り上がるもんか?いや、そんなことはないはずだ。男がどんな話をするのかは知らないが、料理の話で盛り上がることはあまり無いはずだ。

「ん?どうした?巴」

 じっと見てたせいか、急にお兄ちゃん振り返る。

「ハ? 何でもねーし」

 そう答えると、神楽がジーッと見てくる。

「な、なんだよ」

「上野さん。体調でも悪いの?」

 なんか急に訳わからん事を言ってきた。

「なんでだよ」

「いや、さっきからだまってるし……」

 そう言って、首を傾げている。それがなんかムカついて、軽く神楽の胸を拳で叩く。

「いたっ!?」

「なーんでもねえよ」

 そう笑いかける。すると神楽は一瞬キョトンとなってそしてふふっと笑った。

「そっか。でも体調が悪かったら言ってね?」

 神楽はそう言うと、じゃあねと曲がり角を曲がる。

 曲がる前にピタッと足を止め、こっちを向く。

「また明日。学校でね!!」

 子供のように手を振る神楽に顔の横で軽く手を振り返す。

 それに、神楽は笑って曲がり角に消えた。

「……お前、いい友が出来たな」

 そうお兄ちゃんがポツリと呟く。

「……まぁ……ね」

 私は何故か、嬉しく思って空を見上げる。そこには赤く染まった雲が流れていた。

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