第1話高校入学とシューティングゲーム

巴side

 あ〜〜怠い。

 今日は高校生にとって重要なイベント……。そう……入学式だ。

 だが、私にとってウザいものでしかない。

「まぁそんな嫌そうな顔すんなや」

 そう言ってお兄ちゃんは、ポンッと頭に手を置く。

「……」

 それを振り払い、無言をかえす。だがこの制服は気に入ってる。白のシャツに控えめな紅色のリボン。その上にリボンと同じ色のブレザー。そして灰色のチェックのスカート。なんか私にあってる。

「じゃ、行ってきます」

 素っ気なくつぶやいて、私は家を出た。

 桜の花びらが散る道をスタスタと早足で歩く。周りの視線を感じながら。それと同じくらいにこんな声も聞こえてくる。

「あら……あの子、上野さんの所の子じゃない?」

「あ、本当……可哀想にね」

 なにが可哀想なのか……。それは私が一番分かっている。

 学校に着くとその視線は、悲しげな視線から畏怖の目に変わる。

「お、おい……来たぞ」

「あ、本当だ……。こえーな」

 そんな感じで、私の周りには人がやって来ない。

(あーあ、またこんな感じか……)

 そう心の中でつぶやいて、足を進めようとしたその時……。

「あれ? 上野さん?」

 聞いた事があるよーな声が聞こえて、パッと後ろを向く。そこには……。

「あれ? 偶然だね。上野さんもこの学校?」

 そこには……。

「……誰?」

 なんか緑のジャージにボロボロの靴を着たイケメンがいた。

「えぇ!?酷くない!?」

 そう叫んで、そのイケメンはそのまま言葉を紡ぐ

「ほら! 初詣の時の神楽だよ」

 そう言われ、やっとあの男子だと思い出す。

「あぁ、あの時の……」

「そう!!あの時の!!」

 そう言って男子……もとい神楽は嬉しそうに頬を緩める。

「良かった〜。おぼえてた……」

「……それで? なんか用?」

 わざと素っ気なくそう言うが神楽は、

「え? いたから話しかけただけだよ?」

 なんだ? こいつ、コミュ力高いのか?

 キョトンと首を傾げる神楽に私はハァとため息をつく。

「? ……どうしたの?」

「……なんでもない」

 コミュ障の私とは、全然違うな……。

「じゃあさ上野さん。一緒にクラスを見に行こうよ」

 そう言って神楽は私の横を通り、玄関の前のクラス表を見に行った。

「……」

 私は無言でそれについて行った。

 まさか、こんな所で会うとは思わずに……。

悠side

 いやー。こんな偶然があるもんなんだな〜。

 僕はそう感心しつつ、玄関の前に立つ。偶然とは、上野さんが同じ学校で同じ歳だったことだ。

 クラス表を眺めて自分の名前を探す。

「あった……」

 二組の七番だ。そのまま上野さんの名前を探していると……。

「……おまえ、何組……?」

 いつの間にか、上野さんが後ろにいた。

「ん?僕は二組だよ」

 そう答えると上野さんはチラッとクラス表を見て、げた箱に向かった。

「あ、あれ?上野さんのクラスは?」

 上野さんの後を追いかけ、そう聞く。

「……私も二組」

 そう言ってササッと靴を脱いで、自分の靴箱に靴を入れている。

「えっ?今の一瞬で見たの?」

 そう聞くと上野さんはコクリと頷いた。

「す、すごいね……」

 思わずそうつぶやく。そのつぶやきに上野さんは、まったく反応しない。それどころか無視して教室に歩いて行った。

「待ってよ〜」

 僕はその後ろ姿を追いかけた。

巴side

 ようやく入学式が終わり、ヘトヘトになった私は教室に戻ってきた。なにしろ、校長の話が長いもんだから眠くて眠くて仕方がない。

 そして……。

「上野さん一緒に帰ろ!」

 なぜか神楽に懐かれてしまった。なぜかコイツは私を怖がらない。

 私は、不思議に思いつつ、話しかけてきたことが嬉しかった。

「別にいいけど……」

 そう言うと神楽はパアアアッと顔を輝かせ、ニコッと笑う。

「良かった〜。じゃあまた後でね」

 そう告げて神楽は自分の席に戻って行った。

 そのままHRホー厶ルームが終わると同時に神楽が私の席に来た。

「じゃあ上野さん、帰ろ?」

「……」

 私は無言で立ち上がりバッグを掴む。

 そして帰路に着いた。

悠side

「……」

「……」

 き、気まずい……。

 ノリで一緒に帰ろうと言ったけど、よくよく考えてみたら、ほぼ初対面みたいなもんじゃん。

 うわーどうしよう。なにか話す事……。

「あ、あのさ上野さんは趣味とかってあるの?」

 そうたずねると、

「シューティングゲーム」

 とだけ呟いた。だが話のネタとしては充分だった。

「え!?シューティングゲームできるの?すごいね!!」

 その言葉に驚いたのか、バッと上野さんがこっちを見る。

「ん?どうしたの?」

「……そんなにすごいか?」

 すぐに前を向いて。ボソッとつぶやく。

「え?すごいよ?だって僕やった事ないもん」

 その言葉にまた上野さんがこっちを向く。

「ハ……?やった事ねえの?」

「え……?あ、うん一回も……」

 すると、信じられないものを見たみたいな顔をする上野さん。

「マ、マジか……。あんなに面白いものをやった事ないなんて……」

 そう呟いたかと思えば、ガッと僕の手をつかむ。

「ふぇ?う、上野さん?」

「いくぞ!」

 そう言って上野さんは僕の手を引っ張って走った。

巴side

 色々な音が響く室内に私達はいた。

「へ〜すごいね。いろんな機械があるね」

 そう言って神楽はキョロキョロと辺りを見渡す。

まじでゲーセン来るの初めてなんだな。そう変な感心をしていると、キラキラした目で神楽は私を見る.

「それで?どこからいくの?」

「……まずはここら辺を歩くぞ」

 そう言うと神楽は、コクコクと頷いて歩き出す。その後はいろいろと遊んだ。クレーンゲームに釣りのゲーム。音ゲーなどなど、そして……

「ワーッすごい、上野さん!!ほぼパーフェクトだよ!!」

「別に……。普通だろ」

 すごい反応をする神楽に私はそうボヤく

「でもすごいよ!シューティングゲームは初めて見たけどほぼパーフェクトをとれるなんて……」

 そう私に笑いかける。

「もっと上野さんは自信持っていいと思うよ。すごいことなんだから」

 そう言われ、なんか照れてしまう。

「そ、そうかよ」

 そうつぶやき、またゲーム機に百円を突っ込む。

 銃の形のコントローラーでゾンビを撃った。なぜかとても懐かしいと感じた。その帰り道。

「あー楽しかった……。初めてゲームセンターに行ったけど面白いんだね」

「……おまえ見てるだけだったろ」

 そうつぶやくと神楽はアハハッと笑う。

「そうだけど、とっても楽しかったよ」

 そう微笑み、神楽はゆっくりと歩みを止める。

「じゃあ、僕こっちだから」

 そう言ってあいつは左の道に歩いて行く。

「また明日ね」

 そうあいつは手を振りながら遠ざかって行く。

「……」

 私は、ついそれに無言を返してしまう。だが神楽は全然気にしてないような顔で歩いて行った。

悠side

 スタスタと歩いてボロボロのサビだらけのアパートの階段を上がる。そしてとある部屋の鍵を開ける。

 カチリと音がし、ドアノブを捻るとドアは簡単に開いた

「……ただいま」

 狭い部屋に僕の声が響く。靴を脱いで台所に立つ。蛇口を捻り手を洗う。

 そして僕は三畳しかないリビングに正座する。そして、仏壇に向かって手を合わせた。

「ただいま。母さん」

 仏壇の写真立ての中には優しく微笑んでいる女性がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る