恋する少年と目つき悪い少女

霜石アラン

第0話出会い

ともえside

目が覚める。ベッドから起き上がると大きく伸びをする。そしてあらかじめベッドに入れておいたパーカーとジーンズに着替える。

 若草色のベッドから出ると靴下を履いて部屋を出た。階段を降りて下に行くとすぐ近くの洗面所で顔を洗う。

「巴。交代」

 そう声がして後ろを向く。

 するとそこには私のお兄ちゃんがいた。上野うえのたけるといって私と同じで目つきが悪い。それを見ると私達は兄妹なのだと感じる。

「待って。もう少しで終わる」

 私はそう言うとササッと髪を二つに結び、そこを離れる。

 そのままリビングに向かって歩きお兄ちゃんが焼いたトーストにかじり付いた。

「巴……今日は初詣に行くのか?」

 洗面所から出て来たお兄ちゃんは私の前に座りながらそんな事を聞いてくる。

「ん?……行くけど」

 するとお兄ちゃんは何だか心配そうな顔をする。

「大丈夫か?一人で行けるか?」

「いやいや、私、もう少しで高校生だし……大丈夫だって……」

 多少自信がなかったがまあ大丈夫でしょ。

 そう思いつつトーストに齧りつく。

 食べ終わるとマフラーとスマホ、さらに少しのお金をもって外に出た。

 そして一時間後……。

「ま、迷った……」

 神社に行く気だったのになぜか、なぜかどこかの住宅街に行くけどいた。

「どどどどどうしよう」

 そうだ!スマホ!!

 私はポケットの中に手を突っ込む……が

「な、ない」

 なぜだ。確かにポケットに入れておいたはず……。そこではっと気が付く。

 それは、玄関でのことだった。

『巴、ティシュもっていけよ』

『あ、分かった』

 そう言って私は玄関にスマホを置いていたのだ。

「お、お、お兄ちゃんの馬鹿ーーー!!」

そう思いっきり空に向かって叫んだ。

ゆうside

 目が覚める。ベッドから出て窓の外を覗くとチラホラと雪が降っていた。

「わっ雪だ」

 そうつぶやき、僕は急いで黒のジャージに着替えると、ダッフルコートを羽織りながら外に飛び出した。

 スタスタと町を歩いていると、とある住宅街を通りかかる。

「フンフン〜♪」

 そう鼻歌を歌っていると、道の隅にうずくまっている人がいた。雪のように白いパーカーと青いジーンズを着た人だ。

(どうしたのかな……?もしかして体調が悪いのかな?)

 僕はそっと近づくと声をかけた。

「あの……大丈夫ですか?」

 そう声をかけるとその人が顔を上げる。

 そして僕はそっと息を飲んだ。その人は女の子だった。しかしただの女の子ではない。

 …………かわいいのだ。

 スッとした顔立ちに少し……いやかなり悪い目つき。だがそれが怖いとは思わなかった。髪は二つにまとめていて、鼻筋も通っている。

 キレイな人だ。

「……」

「……何?」

 その言葉にはっとなる。

 その女の子はムスッとなってこちらを睨んできている。

「あ、ごめん……体調崩してるのかな?って思って」

「……あっそ」

 すると女の子は立ち上がってパーカーを少しはたく。

「……迷っただけだ」

 ボソッと女の子がつぶやく。

「そ、そうなんだ……。……もしよかったら、道を教えようか?」

 そういうと女の子はパッと目を輝かせる。

「……いいのか?」

 そうモジモジとしながら聞いてくる。

「うん!!大丈夫だよ」

 そう言って僕は笑いかけた。

「それで?どこに行きたいの?」

 そう問いかけるとその女の子は小さくつぶやく。

「……神社」

 声はとても小さくて、それでもすごく嬉しそうだった。

「分かった。じゃあ付いてきて」

 そう僕達は、神社に向かって足を進めた。

巴side

 あ〜〜助かった……

 たまたま通りかかった私と同じくらいの歳の男子が声をかけてくれなかったらどうしようかと思った。

 サラサラの髪にスっとした顔……。長いまつ毛に薄い唇。ジャージでなければ、結構なイケメンだ。それに優しい。

 私じゃなかったら惚れてたぞ。

 そんなことを心の中でつぶやいているとその男子が振り返った。

「そういえば、初詣に行くの?」

「ふぇ?……まあ……そうだけど」

 急に男子が喋りかけてきて素っ頓狂な声が出てしまう。

「そうなんだ!僕も行く所なんだちょうどよかった〜」

 そう言って男子は言葉を続ける。

「えっと……君名前は?ちなみに僕は神楽坂かぐらざか悠って言うんだ。神楽って呼んでね」

 そう男子……もとい神楽は少し歯を見せて笑った。

「……私は……巴。上野 巴」

 すると、神楽はパッと顔を輝かせた。

「上野さん……いい名前だね!」

 なぜかニコニコしながら小さく『上野さん、上野さんか……』とつぶやいてはなぜかニヤニヤしてる。

「……?」

 なぜニヤニヤしてるのか分からずちょっと首を傾げる。

 そんな感じで話しながら私は薄く積もった雪を踏みしめた。

 そうして神社に着くと神楽という男子は手を振ってどこかに行ってしまった。

 その後ろ姿を見ながら、もう会うことはないと思った。……この時までは……。

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