第10話 続・ここだけの話だがな・・・

 大槻園長が米河青年に語ったのは、前3話で述べてきた通りであった。

 米河少年はこの話を聞いて、何かが起こりそうな予感を抱いたという。


 自分のいる場所にも、その幽霊母子が、来るのではなかろうか・・・?

 おそらく、これから先、大槻さんのところだけでなく、自分のところにも、だ。

 一度やそこらじゃないかもしれない。

 間違いなく、来るだろう。


 確かに、その母親というのは聞くからに、自分の祖母と同じくらいの年齢、息子というのはその祖母の息子、つまり、両親から見ても兄にあたる年齢の人物であることは間違いない。母が1947年、父が1948年に生まれているという彼からしてみれば、その少年が両親のどちらかの弟と同年齢、ということは、ありえない。1945年時点で5歳くらいというなら、1940年前後の生れということになる。

 となれば、父方こそ父が長男であるが、母方は、上に兄、それも複数人がいることがわかっている。一番上の、中央大学法学部に進んだ兄が、確か1940年生れ。

 ということは、その少年というのは、自分から見たら、伯父と同級生かそこらということになるだろう。

 しかし、少年に向かって「おじさん」というのは、なぁ・・・。


 その日彼は、大槻園長や山崎指導員らとともに、桜並木の見える園庭で焼肉を食しつつ、ビールを幾分飲んだ。

 この日は、よつ葉園が関わっている地元の海吉小学校と海吉中学校の先生方も来られていた。ここで彼は、養護施設くすのき学園で児童指導員をしていた経験のあるという、日高淳教諭と出会った。

 日高氏は海吉中の保健体育担当教師で、大槻園長の下の息子の担任もしていた。

 そのときは幽霊の話をしなかったものの、日高教諭が後に校長になって海吉中に赴任し、定年で退職した後に、そのときのことを日高氏に対し、酒の席で語った。

 その時のことだけではない。その後の、幽霊に関する話もしている。

 日高氏は、米河氏の話を興味深く聞き取った後、こう語ったという。


「米河君、ひょっとすると君は、神に選ばれし民、なのかもしれん。かねて君が見ているという、炎のランナーに出てくる台詞のユダヤ人を示す言葉ではないが、何だかわしには、そう思えて、ならんね・・・」


 日高氏と米河氏のこの会話は、大槻氏がよつ葉園の園長を退任して間もない頃。

 米河氏は、大槻氏からかねて聞かされていたその母子のことについて聞かされていた。このときは日高氏に酒の席で幽霊の話を披露していたが、この頃になると、大槻氏は特に人前で話さないようにという要望は、もはやしていなかった。

 ただし、自己責任で話すのは構わないし、創作のネタにしてフィクションとして扱うのであれば、むしろ大いに歓迎すると、大槻氏は園長退任記念のパーティーの前に米河氏を呼び寄せ、それを含めて事前にあったエピソードを語っていたのである。


 次回より、大槻氏が園長を退任する直前に起きたエピソードを御紹介します。


 

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