第4話 除霊、そしてその顛末は・・・

 Z青年がよつ葉園に来た日から、幽霊目撃情報は、頻度の点でも数の点でも上昇傾向を示した。ちょうど、夏場だったからというのもあるかもしれない。

 もっとも、その前年にZ君がO大学に合格してよつ葉園を「卒園」した頃から度々目撃情報はあったし、冬場でも見かけたという話があった。だが、回数と頻度がそこまで増えることは今までになかった。


 さすがの大槻園長も、この問題を非科学的と言い切って無視できなくなってきた。本当かウソか、妄想なのか現実なのか、幽霊が話しかけてきたとまで言う人物が、一人やそこらでなく、何人も出てきたからだ。子どもたちならまだしも、大の大人、それも、国立T商工大学を卒業したほどの職員までが言い出したとなれば・・・。

 大槻園長は、職員住宅内にある自宅の書斎で、随分考え込んだ。

 彼の妻は、とある宗教団体の信者でもあった。彼女の所属団体ではないが、他団体の知人を通して、そういう場合は一度、除霊でもした方がいいのではないかという意見が入ってきた。


 そのような意見を述べたのは、大槻夫人の関係者だけではない。

 話を聞きつけた山崎良三指導員の親族である知人女性が、それならこうしたらいいということで、祈祷をすることを申し入れてきた。

 彼女は、霊感の強い人物であった。

 一度よつ葉園を訪れた段階で、確かにここは幽霊が出る場所ですね、母子連れと聞いていて確かにそのとおりだが、それ以外の幽霊が出る可能性も、今後ないわけではない。とにかく、早めに除霊して清めたほうがいいですよと、彼女は言った。

 特に除霊のための費用は要らない。ただ、祈祷用の物品、要は、塩やら酒やら、その手のものの実費だけは負担してくれとのこと。

 それらについては、適当な名目をつけて、よつ葉園の経費で落とすことにした。


 いわゆる「除霊」なる行事は、それから数日後、よつ葉園内のある場所で、厳かに行われた。

 山崎指導員はもとより、尾沢指導員も、およそ非科学的なものなど信じないという大槻園長も、その「除霊」に参加した。

 おおむね1時間かそこら、祈祷は続いた。


 では、これにて終わります。この地は、清められました。


 祈祷師は、そう宣言した。

 除霊を行う前に比べると、気のせいと言われてしまえばそれまでかもしれないが、確かに、この地が清浄な場所になったような心地はしないわけでもない。参加した誰もが、そんな思いを持った。

 いくらなんでも無料ではまずいので、祈祷後、交通費と称して、大槻園長らがあらかじめポケットマネーを包んでいたのし袋を、祈祷師に謝礼として手渡した。

 固辞せずありがたく受取った祈祷師の女性は、自ら運転する自家用車に乗って帰っていった。


 祈祷師が去ってしばらくの間、「幽霊騒動」はひとまず沈静化した。事務所に設けられた簡便な祈祷用の場所で、職員らが時々、件の霊媒師に言われたとおりの儀式をしていたこともあり、幽霊が出たという話はしばらく止まった。

 しかし、夏が過ぎて秋も終わろうとしていた頃、再び、幽霊の目撃情報が職員らから入ってきた。

 今度もまた、以前と同じ年頃の母子連れだった。ただし今度は、冬が近づいている時期でもあったので、彼女たちもまた、そういう季節らしい格好をしていたという。 見かけたのは、C寮の光本保母だけでなく、A寮の小沢真紀児童指導員、B寮の竹下泰子保母など、複数の職員たち、それに、男女含めて何人かの子どもたちだった。母子連れの子どものほうは男の子、今度もやはり5歳ぐらいの子だという。母親とともに、和服を着ていた。

 話を聞き合わせてみるほどに、どう見ても今どきの子ではない。


 大槻園長はこの期に及んで、もはや、「非科学的な話」という意識は持ち合わせていなかった。

 ともあれ、対外的に問題となるような話にさえならなければよいと考えていた。

 幽霊といっても、害を加えようとした形跡は一度もない。

 むしろ、卒園生のZ君に対しては「がんばれ」とエールを送っていたという。

 尾沢指導員の幼い娘には、にっこり笑って手を振っていて、その子の母である尾沢夫人には、その少年「こんにちは」と挨拶したそうな。

 C寮の光本保母には、特にどちらかが話しかけたというわけではないが、母子ともにいつも挨拶するというし、尾沢指導員や竹下保母に対しても、特に敵意を表したという話は聞かない。

 彼女たちにも、会えば挨拶をするとか何とか。

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