第175話 蒼雲の聖騎士レンブラント・フォルザの覚悟
蒼雲の聖騎士レンブラント・フォルザ。
彼も他の聖騎士と同じく魔法剣を使用するが、その特性は正道ではなく邪道。
1メートル半の長刀とその4分の1程度の短刀。
その二刀を駆使して技を繰り出す。
纏わせた魔力で刀身を透明に塗り替え、それを自在に伸縮させる。
雲に隠れるように姿を消した刀は、雲のごとく自在に形を変える。
これが帝国最強の聖騎士の戦い方であった。
レンブラントも自分の特性について明らかに魔法剣として汎用性、実用性共に劣っている事は自覚していたが、それでも彼はひたむきに研鑽を重ねた。
長き修行の過程で基本的な剣術の腕も向上させ続けた末産み出した、本来ならば一撃必殺となり得る聖騎士の魔法剣を補助的な使い方をする戦闘スタイルは彼の唯一無二と表現しても良いだろう。
「言っておく。手加減はしない」
「あはははっ! あなたは優しいですからね! その優しさを向けられた相手は幸せですが、優しさの行使のために残酷になれるレンブラントも好きですよ!」
「最期に頂いた誉め言葉として記憶しておこう! つぁぁぁ!! 『
短刀が消え去り、すぐに再度現れた時にはゼステルの眼前であった。
彼女は魔力を放出させ受け止める。
「初手で剣を投げつけますか! 本当に面白い人ですね!!」
「あなたも私の剣技の全ては知らないだろう。短刀は魔力で作った紐雲で手元に戻せる! つぁぁぁ! せぇぇぇい!!」
短刀を飛ばしながら長刀で左右に斬りつけて、再び短刀で間隙を突く。
属性攻撃を主体とする聖騎士に比べると見た目、攻撃威力共に地味と言ってしまえば終わりだが、その絶え間ない剣捌きはゼステルに反撃の暇を与えない。
「困りますよ! 私のせっかく蓄えた魔力が減ってしまいます!!」
「あなたは常に膨大な魔力を保っていたからな! それに比べれば、今は3分の1と言ったところか? 慣れない転移魔法が仇になったな」
「んー。残念ですね、レンブラント。あなたは少しばかり老いました! 剣技自体は熟練度を増していますよ! けれど、一撃が軽い! これでは私の身を多少傷つけることはあっても、致命傷などとてもとても!! あなたこそ、足場を作るのに魔力を常時放出していますけど? 辛くありませんか?」
「お心遣いは感謝するが! この戦いで私は命を捨てるつもりだ!! 魔力がどうなろうと知ったことか!! ぬっ……ぐっ……!!」
ゼステルの指から細い雷がほとばしった。
どうやら、先ほどリンさんが使った雷を習得した様子。
「やはり人間の使う女神の力は模倣品ですねー! 威力が全然です! けれど、左腕に当たりましたね! 辛くありませんか? 左利きのあなたは!!」
「二刀流の騎士に対して、利き腕がどうのと!! 宣うな、ゼステル!! ぬぅぅりゃぁぁい!! 『
レンブラントはゼステルの魔力を少しずつだが、着実に削り取って行く。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぴゃあぁぁぁ!! なんですかぁ、あれ!? もう次元が違いますよぉ!! うひぃー! 怖いですねぇ……!!」
「エルミナ。もう結構です。と言うか、あなたの胸が私の顔に乗っかったままで、かなり苦しいです。また死にそうなので、どいてもらえますか?」
マザーを抱き枕代わりにして、ゼステルとレンブラントの攻防にプルプル身とおっぱいを震わせるエルミナさん。
ひっそりと復活したマザー。
「あああ!? おい、ババア!! 生きてんのかよ!?」
すぐベルさんにバレたマザー。
「はい。もう逃げも隠れもしません。どうやら、私の中にあった悪い気も散って行ったようです。許しは乞いません。……あ゛。その、魔力蓄えた手のひらをこちらに向けるのだけはヤメて頂けませんか? ベル?」
「別に! あたしはもう、恨んでねぇし!! ババアはあたしを助けてくれた。それは事実だ。……ただ、その乳見てると手のひらが動かねぇんだ!!」
「エルミナ! ちょっと立ってください!!」
「ほえ? なんですかぁー?」
エルミナさんが立ち上がると、キノコおっぱいがバインバインと揺れた。
マザーが頷き、ベルさんの額に青筋が立った。
「……あんた、エルミナだったな。一発だけ撃って良い? ちょっとだけ。先っぽだけだから。すぐ終わる」
「ぴぃぃぃぃっ!? 良くないですよぉ!! わたし、何したんですかぁ!? ベルさん! ベル先輩! わたしはあなたを尊敬してますぅー!!」
エルミナさんは慌てているため、体を挙動不審に動かしつつ身振り手振りで釈明する。
おわかりいただけただろうか。
揺れております。
「やっべぇ。イライラしてきた。これ、欲求じゃねぇぞ。ただイライラしてきた!」
「こ、更年期障害でしょうかぁー? ぴっ!?」
バチバチとスパークし始めた強欲の腕。
そこに駆けつけたのは豚さんと雷鳴さん。
「落ち着いてー! ベル!! 今はゼステルを止めなきゃ! エルミナちゃんのおっぱいを吹き飛ばすのはそのあとだよ!!」
「え゛っ!? あのあの! フゴリーヌ先輩? 先輩もおっぱい大きいですけど?」
「えー? 私のはエルミナちゃんに比べたら小さいよー!!」
「そ、そんな事ないですぅー! フゴ先輩の方が大きいですぅ!! 触ったら分かりますぅー!!」
「わわわっ! ちょっとー!! あははっ、くすぐったいよー!!」
「……これは! わがままボディ!! フゴ先輩!! わたしと同じレベルですっ!!」
「何をしとるんだ、貴様は。先達の魔力が凄まじい事になっておるぞ。死にたいのか?」
「ぴゃっ!? そ、そだ! ベル先輩!! あそこに飛んでる悪い女神をやっつけたら! 魔力が増えておっぱい大きくなりませんか!?」
ベル先輩、瞳がキラキラと輝く。
「その手があったか!! エルミナ! お前、結構賢いな!!」
両手で照準を合わせ始めた強欲砲。
小声で抗議が殺到する。
「貴様……。土壇場でとんでもない嘘をついたな」
「私は知りませんからね? 姉妹で解決なさい」
「おー。ベルをコントロールするとはー。エルミナちゃん、やるねー」
「み、みなさん!? 助けてくれますよね!?」
誰も返事はせずに、ベルの巨大魔力砲がゼステルに向かって放たれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
当然だが、すぐに感知した上空のゼステル。
「あはははは!」と高笑いする。
彼女は魔力吸収の機会を求めていたので、ネギを背負ってきた強欲さん。
もちろん左手でそれを取り込みにかかる。
レンブラントの目が見開かれた。
「良い隙を作ってくれた!! つぁあああああああ!! 『
「甘いですねー! あなたの事はよーく知っていますから! 読めていましたよ!!」
「ふっ。私もあなたを良く知っている!! アルバーノ!!」
地面から飛び上がってきた霧雨の聖騎士。
彼は背中に触れるギリギリまで大剣を振りかぶり、全力で一閃を放った。
「うぉぉぉぉぉぉ!! 『スパローグランブレイク』!!!」
「……なっ!!」
ゼステルが地上に向かって吹き飛ばされ、民家が5棟ほど崩れ落ちる。
「師匠。これまでもあなたには辟易していたが。今度のはあんまりだ。普通、弟子の腹を貫きますか?」
「致命傷は避けたではないか。下には優秀な回復術師がいたことだし、お前の性格だ。私の意図を汲んでくれると確信していた」
アルバーノは大きなため息を吐く。
「自分を治療してくれた女性は、聞いたところによるとかつてあなたに一撃を与えた方らしいではないか。分の悪い賭けを弟子にさせないでくれ」
「……その話はよせ。後頭部が痛む」
構えを維持したまま地上を見下ろす当代の最強と次代の最強。
これで片付いたと考えられるほど彼らは楽天家ではなかった。
残念ながら、歴戦の猛者の予感は戦場において正答率が極めて上がる傾向にある。
ゼステルは民家の花瓶に生けてあった花に手を伸ばす。
花はすぐに萎れ、愉悦の女神は「あははっ」と笑みを浮かべた。
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