第167話 雷鳴(大盛)&タケノコ(大盛)&白銀(大盛り)VS強欲(小盛)&豚(特盛)&不死身(年寄り)

 バーリッシュ東の森に稲光が走った。

 続けて巨大な雷が柱となって降り注ぐ。


「なんだこのやろー!! いきなり撃ってきやがってぇ!! フゴリーヌに当たんだろ!!」

「ベル、ありがとー。おやおやだねー。私たちの接近に気付いてたんだー」


 はぐれ女神連合軍、トールメイ遊撃隊とついに遭遇。

 迷わずぶっ放したお姉ちゃんの真意を問いたい。

 普段はもっと思慮深く、まずは対話を試みるのがトールメイ様のやり方だったはずである。


「トールメイ様? 敵発見からの即攻撃! 私は好きですが!! いささかトールメイ様のスタンスと違うように思えます! ……はっ!! これは壮大な作戦の一端ですか!?」


 白銀の聖騎士ソフィア・ラフバンズさん。

 戦争開始してからすっかり気配が消えていたものの、大事な局面ではちゃんと馳せ参じるコミュ症な脳筋乙女。大盛。


「いや。よく見てみろ、ソフィア。ヤツらの足元を。こちらに向かって魔力の導線が伸びておる。私が仕掛けなければ、不意を突いてやられていたのはこちらだ」


 こちらが3人娘のリーダー。

 女神界からやって来た1番頼りになる女神様。

 序列第8位。冠するは雷鳴。みんなのお姉ちゃん、トールメイさん。大盛。


「あー。えーと。トールメイ様ー。あのー。んー。んんー」


 いつもはハキハキ喋るのに、言いにくい事があると普通に口ごもるようになったのが、女神界からやって来たエルミナさんのライバル。

 タケノコの女神、プリモさん。大盛。


「なんだ、プリモ。ハッキリと申せ! 既に戦いは始まっているのだぞ!!」

「うぅー。じゃあ、申しますけどー。怒らないでくださいよ?」


「なんだ!!」

「はい! ではお答えします!! その魔力の導線! 私に繋がっています!!」


「ん? ちょっと意味が分からぬが?」

「私のタケノコに繋がっています!! こちら、マザータケノコさんです!! 『危機管理リスクマネジタケノコ』の子タケノコは全て! このマザータケノコに導線が繋がっています!! 新事実の発表です!!」


 トールルメイさんは頭を抱えてから5秒ほど黙り、黙った分だけ叫んだ。



「貴様のかよ!! 早く言わぬか!! 私、専守防衛を気取って先に手を出してしまったではないか!! これは非常に無礼だぞ!!」

「私が気付く前にですね! トールメイ様が皆さんを発見してすぐに雷を落とされました!! これはどうしようもありませんでした!! 無念です!!」


 お姉ちゃん、やらかしていた。



 こんなやり取りをしている間でも、ベルさんとフゴさんコンビは様子を見守っている。

 「これはもしかすると!」と、ソフィアさんの慧眼が輝いた。


 彼女はコミュ症。

 コミュ症は極めると「何となく仲良くなれそうだな」と言う空気に敏感になる。

 敏感になっただけで動かない、いやさ、動けないのがコミュ症だが、こちらはコミュ症の聖騎士。


 そこは気合でどうにかする。


「女神様とお見受けする! 私は白銀の聖騎士ソフィア・ラフバンズ!! 些細な食い違いがあり、非礼の数々! まずはお詫びしたい!! お二人を拝見していたところ、とても悪しき女神には見えません!! どうか、対話の機会を頂けないでしょうか!!」


 ソフィアさん、胸を張って堂々とした発言である。

 なお、内心は今すぐ泡噴いて倒れそうなくらいに精神的な圧迫が進んでおり、その証拠に足がガクガクと震え、可愛らしい内股になっていた。


「おー。なんかいい子だねー。ベル。どうしよっかー? ……あー。残念だなー」


 強欲の女神ベルさん、右手を天に向けると魔力を放出し始める。

 その出力はみるみるうちに上昇し続け、あっという間に先ほど放たれたトールメイさんの雷撃を超えていく。


 ベルさんの大きな瞳には涙が溜まっていた。

 彼女はそれを零しながら叫ぶ。



「お前らぁぁぁ!! 全員があたしよりも年下なのにぃ!! なんで! なんでぇぇ!! 全員揃っておっぱいデカいんだよぉぉぉぉぉ!! あああああ!! くそぉぉぉ!! 慎ましいのは態度だけでぇ!! 胸の主張が激し過ぎんだよぉぉぉぉぉぉ!! 姿勢よく胸張りやがってぇぇぇ!! せめて猫背になれよぉぉぉぉ!! うあぁぁぁぁぁ!! くそぅ! うぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 号泣である。なお、ベルさんは生まれてから今年で49年目。



 女神の年齢は人間の年齢に単純な換算はできないが、結構なお年である。

 その件に関して、トールメイさんからフォローがあるらしい。


「ソフィア。我々女神はな。100を超えるまでの間は若年なのだ。……まあ、あれだ。あちらにおられる先輩方もまだお若い。見ろ。普通に少女だろう? だから、な? お察しして差し上げろ?」

「はい! その通りです!! 私、捕捉します!! なお、肉体の成長は人間の女の子と同様に、10代が終わる頃に止まりますので!! ドンマイです!!」


 この時プチンと何かが切れる音が聞こえたと、ソフィアさんはのちに語る。


「慰めてるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!! あああああ!! あったま来たぁぁぁ!! 街ごと消し飛ばしてやるからなぁぁぁぁぁ!!」


 情緒が不安定で、キレると魔力のコントロールが効かなくなる。

 これがマザーによる「悪しき感情の女神たち抹消」の理由である。


 作ったヤツが教育しろと言う声が聞こえてくる。

 その件に関してはもう、マザーが責められるのは致し方ないだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 「あららー」とため息をつくフゴリーヌの隣に、ヒョコヒョコと出て来たのは小さいお年寄り。

 仮面族の不死身じいちゃん、マリリンさんである。


「フゴリーヌ様、意見具申よろしいですさー?」

「もちろんだよ。聞かせて、聞かせてー」


「わたくしが思うにですさー。この機に乗じて、亜人部隊を先行させるのはいかがですさー。この場所から総督府が見えますさー。視認できるのであればですさー。女神様の指揮がなくとも、襲撃が可能ですさー。ドラゴニュートもサイクロプスも頑強な種族ですさー。きっと結果を出しますさー」

「おおー。おじいさん相変わらずえげつない事を考えますなー。じゃあ、念のため私が同行しようかなー? 何かあった時に責任の取れる人が部隊にいないとだしー。よーし。私が……はっ!! はああああ!! あれは!!」


 全ての歯車が良くない形で噛み合い始めた。

 プリモさんが強欲魔力迎撃のためにタケノコを出現させたのである。


 お忘れの方に説明しておこう。

 タケノコさんはイノシシさんの大好物。

 イノシシさんは豚さんの親戚。

 フゴリーヌさんの冠する属性は豚さん。


 つまり、フゴリーヌさんはタケノコが大好物。


 加えて、悪しき感情の女神は情緒が不安定で、欲求をコントロールできない。

 するとどうなるか。


「わわわわわっ!! タケノコさんだー!! さっき食べて美味しかったヤツにそっくりだー!! 絶対においしーヤツだよー!! タケノコさーん!!」


 フゴリーヌさん、プリモさん目掛けて突進を開始。

 すぐにそれを察知して防御の構えを取るソフィアさん。


 この瞬間、亜人部隊の進軍を妨げる障害が一切なくなる。


「チャンスですさー。皆様、このじじいと共に女神様のため進みましょうですさー。ぐふぁっ!! と、血を吐いても平気なのですさー。さあさ、参りましょうですさー」


 アクティブな不死身じいちゃんが扇動したらば、脳筋タイプの亜人たちが「行っとく?」「とりあえず行っとく?」「行ってから考える?」と陽キャ大学生みたいなノリでこちらも突撃を始めた。


 現状の戦力を考えたところ、バーリッシュ東の森からは1人も割けない。

 また、崩れた外壁に引きつけられているステラ・ルーナ・花火姉さん・ギダルガル&魔族たちも動けない。


 総督府に残っているエルミナ団のメンバーは紅蓮の聖騎士ジオ・バッテルグリフと参謀補佐のリンさん。

 元気を失っているエリーさんと非戦闘員のルゥさん。


 そしてマザー。


 極めて頼りない状態の総督府に多方面から戦力が迫っている。

 いい加減に帰って来てくれないと、キノココンビが戻って来た時には総督府が焼け落ちている可能性が濃厚になってくる。


 さらに言えば、マザーが死ぬと転移魔法が使えなくなるため、キノココンビがすぐに戻って来ることすら叶わなくなる。

 結構な勢いで絶望の色が浸食して来たエルミナ連邦であった。

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