第165話 花火姉さんの「すまん! なんや勢い余って、壁が山ほど壊れたわ!! これ全部な、魔族のせいやで!!」 ~味方のふりした破壊神、早速破壊活動をこなす~

 バーリッシュの正門前では、睨み合いを続けていたアルバーノ隊の前衛と聖騎士部隊がついに戦闘状態へと突入していた。


「落ち着きな!! 敵は多いけどね、所詮は帝国の犬が率いる部隊だ!! アタシたちは誇り高きエルミナ連邦の聖騎士部隊!! 女神様の加護がある以上、負けっこないんだからね!! さあ! 重装兵に押されるんじゃないよ!!」


 マチコ・エルッドセブンは少しだけ胸が痛んだと言う。

 彼女はエルミナさんのありのままの姿を既に知っているため、「あの人、悪い人じゃないんだけどね。……加護は期待できないよねぇ」と内心強く感じていた。


 だが、戦闘で指揮官が部下の士気を低下させる事ほど愚かな事はない。

 実際のところ、なんだかよく分からない加護は受けているのだから、これはもういい意味で考えるしかないと彼女も半ば強引に自分を納得させている。


「裏切者の聖騎士は前線にいるぞ!! 魔法兵!! 討ち取れ!!」

「よし! 任せろ!! 撃て、撃て!!」


 一方、戦意高揚中のアルバーノ隊。

 マチコはちょっとだけ羨ましくなったが、それをかき消すかのように細剣を振るう。


「アタシを討つなら、聖騎士連れて来な!! てぇい! 『細空論サイクロン』!!」


 風属性の魔法剣を駆使するマチコ。

 攻防に対応できる補助寄りの属性が部隊戦で輝きを増す。


 彼女を配置したのは紅蓮の聖騎士ジオ・バッテルグリフ。

 彼の用兵も盤石の光を放っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その紅蓮の聖騎士は、額から出血しつつもどうにか前を向く。

 「花火姉さんが来るらしい!!」と聞いてショックのあまり顔面ダイブをキメたのは、ほんの数分前の事である。


「これは好機と捉えよう。エノキ殿はまだ帰参しない。戦線が膠着すれば、私が前線に出る事も考えていた。が、花火殿が遊撃隊として戦場に参加してくれるのであれば、心強い。……はずだ」

「ジオの言う通りさー。花火はとても強いのさー。ただ懸念すべきは、花火が野放しになってることさー。ロギスリンで大活躍したのは、武光がしっかりと自己犠牲しながら制御したからさー。今の花火は誰かに制御されるどころか、インダマスカの魔族たちを制御してるさー。ぶっちゃけ率いている兵力が大きすぎてダメな方に振れた時が怖いさー」


 ジオさん、振り絞るように言葉を呟く。


「リンくん……」

「あいさー」



「ヤメてくれ。胃が痛い。私だって知っている。こうあって欲しいと願えば願うほど、この世界では謎の反作用が起きる事を……」

「ごめんなのさー。けど、嫌な予感と言うのはとどのつまり経験則さー。根拠がないふりしてるだけでさー。予感にもちゃんとした理由はあるのさー」



 リンさん。理詰めで総督を追い詰める。

 言っている事には理があるし、反対意見を誰かが述べる事で会議というものは1つ上の段階へとステップアップする。


 が、今はただ願いたいと言うジオ総督の気持ちは非常に理解のできるものだった。

 残念ながら、描いた夢は叶わないのがこの世界である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バーリッシュの上空では。


 ギダルガルが中心となって、炎弾の撃てる上位魔族が中心の編隊を組んでいた。

 攻撃する際、異なる属性を用いると効果が薄れるばかりではなく、下手すると暴発の危険性も孕んでしまう。


 よって、一斉に撃つならば同属性。

 それが無理でも邪魔をしない属性同士を重ねるのがベター。


「おっしゃ! ギダやん! やったれ!! これがあんたらインダマスカの再生物語や!! ど派手にぶちかましたれ!! なっ! はよせぇ!! ウチ、もう我慢できへんで!! 秘密兵器使うか? んん? どっちがええんや?」

「ゲゲゲゲ。オレに続いて、総員! 炎弾であの壁を狙え!! かぁあぁぁぁぁぁ!!」


 魔族たちが火炎を放った。

 次の瞬間。



 左右の壁を含めて、約60メートルの外壁が崩れ落ちた。



 呆気にとられる魔族たち。

 彼らは極めて高い魔力を有しているが、これほどの破壊力を一瞬で発揮できるレベルには到達していない。


 ギダルガルはギギギと油の切れたブリキ人形のように首を動かすと、背中に乗せている狂気姉さんを見た。

 そこには、舌を出しておどける花火姉さんがいた。


「いやー! すまん、すまん!! ほら、ウチもさ? 戦闘でいきなり秘密兵器ぶっ放すのは不安やん? せやからね、撃ちました! ほら、これ。『花火大砲ナイトメア』な。ギダやんが名前付けてくれたやん? ね? せやからさ、思った以上にウチの大砲が吼えた言うてさ? 責任の9割はギダやんにあると思わへん?」


 花火姉さんの放った、たった1発の砲撃でバーリッシュ南側の外壁がほぼなくなっていた。


「うわー! なんやこいつぅ!! 急に黙りおってから!! こーゆうとこやん! 魔族ぅ!! な? 人は手を取り合って生きてるんやで? ほんで、君らはどないなん? お姉さんのほんのちょっとのミスを全部ウチのせいみたいな空気にして? ええー? ちょっと考えられへんわー。なにー? それが魔族のやり方なん?」


 ギダルガルは静かに旋回して、地上へと降下する。

 部下たちもそれに続いた。


「なにしとるん?」

「ゲゲゲ。連邦の兵に加勢する。後背で注意を引くくらいせねば、このままだと敵軍が市街地へと流入する様、指を咥えて見ているだけになってしまう。我らは一度、あの街を破壊している。2度目はないと心得ている」


「よう言うたで! ギダやん!! それそれぇ!! それよぉ!! ウチはな! おどれらに、そういう気持ちを抱いて欲しくて、敢えて悪者になったんや!! 泣いた赤鬼って知っとる?」

「い、いや。知らんが。それはあなたの物語か?」


「せやな! だいたいウチの自叙伝みたいなもんや!!」

「そうか。是非、この戦いが終わったら読ませて頂きたい」


「え? 嫌やで。ウチ、あの話嫌いやねん。なんで泣かなあかんの? あんなんな、力にもの言わせてゴチーンやったったらええねん。人は泣くかもしれへんけど、鬼は泣かんと済むで? おっ。着陸やなー!! おっしゃ! 景気づけにもう1発撃ったろ!!」


 花火姉さん、『花火大砲ナイトメア』の第二射を充填へ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 物見やぐらに登っていたルーナさんがキノコパワーでダイレクトジャンプして来た。

 総督府の屋根から屋内に入ると、すぐに報告した。


「ジオさん! お知らせー!!」


 その瞬間。

 『血の鼓動石ブラッドルビー』がドォンと鈍い音を立てて砕けた。


 ギダルガルが送った合図である。


 全てを悟ったジオ・バッテルグリフさん。


「……何か、良くない事が起きたのだね? まさか、味方を撃ったのかね?」

「ううん! あのね! 壁がなくなったよ!!」


「なくなったとは?」

「南側の壁がね、全部崩れたの!! 空には魔族さんたちが飛んでた!!」



「私が想定していた良くない事は、むしろラッキーだったようだ。外壁が崩落したのか? エノキ殿。早く帰って来てくれ……」


 目を伏せる総督閣下である。



 エルミナ団のメンバーが対処に当たる。


「とりあえず、わたくしはルーナさんをお連れして市街地へ行って来ますわ!!」

「ジオや。西門の騎士団を何割か動かしたらどうじゃろか? 壁が壊れたのならじゃ。敵さんもわざわざ西に回り込む必要はないわけじゃし、近くの穴から市街地に入るのを優先するじゃろ」


 ジオさん、ちょっとだけ正気を取り戻す。

 ステラさんの発言も心強かったが、何より先ほど同じタイミングでダメになったはずのエリーさんが復活している事実が彼を鼓舞した。


「よし。そのように伝達させよう。ステラくんとルーナくんは無理をしないように。エリー殿。君はやはり立派なレディだな。私は目が覚めた」

「んーん? エリーゼね、無理してるだけだよ? 心はとっくに折れてるよ?」


 ジオさんはさらに立ち上がる必然性を手に入れる。

 幼い少女がこれほど無理をしているのに、自分が無理をせずいかがすると。


 なお、エリーさんを幼い少女扱いした事実は戦いが無事に済めば謝罪されるだろう。

 こちらのエリーゼ・ラブリアンさん。18歳である。

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