第164話 バーリッシュの攻防、開始寸前!! ~忍び寄るエルミナ団のジョーカー~

 フロラリアでエルミナさんがキノコを生やし散らかしたり、武光がキノコのように自分を生やし散らかしたりと、結構な勢いでやりたい放題している頃。

 ほぼ同じタイミングで、バーリッシュ外壁までアルバーノ隊が侵攻していた。


 外壁の前に控えるのは、白銀の聖騎士ソフィア・ラフバンズさんから聖騎士部隊の指揮を預かった翡翠の聖騎士マチコ・エルドッセブンさん。

 たった一文で聖騎士が3度も出て来る異常事態。

 彼女は既に抜刀しており、細剣には風が渦巻いている。


 霧雨の聖騎士アルバーノ・エルムドアは血気盛んな男ではないが、必要とあれば前線へ打って出る事も厭わない勇猛果敢さを秘めている。

 だが、今回はガルス隊に500人ほど人員を割いたとはいえ、まだ1000人を超える兵を率いる大軍勢の隊長であり、さらに聖騎士の同行者もいない。


 よって、軽々に先陣に加わるのを良しとしなかったアルバーノ。

 セオリー通り、重装兵を前衛に配置し、中衛に騎士を。

 後衛に弓兵と魔法兵を配備する布陣を敷いた。


「レオーナ。部隊に攻撃を開始させてくれ。合図を出すまで、各隊長の指示に従うようにと。小隊長をわざわざ置いているのだからな。数の有利を生かすべきだ。続けて、別動隊を4つ組織。それらをバーリッシュの南東部へ。見たところ、あの地点は一度外壁の崩落した痕がある。よって、あの地点の壁を破壊し、一気に市街地へと侵入させる」

「了解いたしました! 連絡兵に通達を!! アル様?」


「なんだ? ……もうゲロウナギは勘弁してくれないか」

「いえ! 先ほど差し上げたウナギちゃんの姿が見えませんので! 気になりました!!」


「あれか。部下に焼いてもらって食べたが」

「え゛っ。食べられたのですか? アル様、意外と肉食系ですか? 私、ちょっと色々と覚悟しました!!」



「君がくれたのだろうに……。自分は戦場では毒虫だろうと粗末にしない事に決めているのだ。……どうして顔を引きつらせる?」

「虫も食べてしまわれるのですか!? お待ちください! ちょっとレオーナ・アルキシオン、心の整理をします!! ……はい! どうにか受け入れられました!!」



 アルバーノ・エルムドアは実直であり、生粋の聖騎士。

 生き残る確率を上げるためならば何でもこなし、合理的な行動を心がける。


 毒虫だろうが毒蛇だろうがゲロウナギだろうが、食べられるものは食べる。

 レオーナが「毒虫のお料理をヴァレグレラに戻ったら学びましょう!!」と静かに決意していた事は、この聖騎士も知り得ない情報であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 総督府では、エルミナ団が多忙を極めていた。


「やべぇですわよ!! 敵の皆さん、結構なスピードですわ!! リンさん! 計算お願いしますわ!!」

「あいさー。ふむふむさー。大まかな計算なら出たのさー。報告してもいいさー?」


 榎木武光不在の今、ジオさんは実務から指揮、判断、決裁の全てを担っている。

 既に割と死にそうである。


「よ、よし。リンくん。頼む」

「あいさー。マチコが頑張ってる正門は現状なら4から5時間は維持できると思われるさー。ただ、敵部隊の数が明らかに足りないさー」


「西門にもエルミナ親衛騎士団を配備しているが。そちらに向かったのではないかね?」

「これはボクの推測だけどさー。敵部隊はどこかの壁を破壊しようとしているのではないかと愚考するさー。武光がいつも言ってるさー。自分のやられて嫌な事をやってくるのがライバル社の営業なのさー」


 リンさん。

 予想がほとんど的中する。


 鬼面族は文官の血筋を受け継ぐ亜人種だが、通訳や交渉のみならず、軍略にも精通しているのは同族の不死身じいちゃんマリリンを見ていてハッキリと分かる事実。

 リンさんにも同じ遺伝子が存在しており、必要に応じて才能を開花させていた。


「おおい。怪我人を診て来た帰りなのじゃが。壁がゴンゴン言うとるのじゃ。これ、なんか工作されておらぬか?」


 薬箱を抱えた白衣のエリーさんが総督府に戻って来た。

 彼女は今回、医療分野の専任として総督府を拠点に、市街地から前線部隊までの間を飛び回っている。


「壁を破壊……!? しまった!! エノキ殿の資料を出してくれるか、リンくん!! 外壁の修復記録だ!!」

「あいさー! どうぞさー!!」


 ジオさん、急ぎ情報を改める。

 すると、外れていて欲しかった記憶と予感が見事に合致した。


「ここか!! 以前、インダマスカの襲撃を受けた際に破壊された外壁がある!! 確かに、あの頃はまだ連邦ではなくラジルーニ地方だったため、予算の関係で万全な修復をしていなかった!! そこを突かれるとは!! くっ。エノキ殿ならば看破したに違いない!!」


 実際のところ、エノキ社員は看破しただろう。

 そのために修復資料もすぐに取り出せる引き出しに保管しておいたのだ。


 しかし、ジオは軍を率いる事はあっても、戦争の指揮を執るのは専門外。

 それならば日本から来た榎木武光はと言う話になるが、敏腕営業マンにもなると一通りの軍略は修めるのが基本らしいので、諸君も営業マンをあまり刺激しない方が良いと思われる。


「おお! ルーナ様なのじゃ!! おかえりなさいなのじゃ!!」

「たっだいまー!!」


 エノキ社員から密命を与えられていたルーナさん、帰還。

 なお、エリーさんは未だルーナさんに餌付けされており、「おっぱいおっきくなる料理だよ!!」と言ってゲテモノを与えられる度に彼女への崇拝をランクアップさせている。


 同い年なのに様付けはデフォ。

 時々勢い余って敬語になる。


「ジオさん! 助っ人連れて来たよー!! 連れて来たって言うか、飛び出したのを報告するだけなんだけど!!」

「そ、そうなのか!? 私は聞いていないが!!」


「うんっ! 武光がね! 直前まで言わないでくださいって!! ジオさんとかエリーちゃんとかが壊れるからって!!」

「ぬははっ。ワシはもう正気を失わんのじゃ! どこかの亜人でも連れて来たのじゃな?」


 ルーナさん、笑顔で地獄の偵察部隊を務めていた事が発覚する。

 発表の瞬間がやって来た。



「インダマスカからねー! 花火さんと魔族さんが来たよー!!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぴっ!! エリーゼね、なんか具合悪くなったから横になりたいな」



 ジオさんが顔面から机にダイブして、エリーさんがダメになりました。

 果たして、魔境からの援軍は差し引きするとちゃんと利益は出るのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 30分ほど前の事。

 エルミナ連邦南東部の湿地帯から大軍の魔族がバーリッシュへ向かって飛びたっていた。


 先頭は魔王ギダルガル。

 その背中には。


「なー。ギダやん。ウチなー。むっちゃ面白いこと考えてん。聞くー?」

「ゲゲゲゲゲ。是非聞こう」


「ギダやんさー。あんた、人殺しまくっとるんやで? それをさ。面白い話聞きたい言うんやったら、お願いしますやろ?」

「ゲゲゲ。お、お願いします」


「おー。ええやん。ウチな、素直に言うこと聞ける子好きやで? あんなー。ほれ、あそこ見てみ? バーリッシュの壁ぇ。あそこだけ明らかに薄いやんか? なんでやと思う?」

「ゲゲゲ……」



「こらぁ! ギダやん!! 黙っとったら誤魔化せる思うて!! そないな子やと思わんかったで!! おどれらがぶっ壊したからやろが!! おおん!?」

「ゲゲゲ。申し訳ありませんでした。がああぁぁぁっ!?」



「あ。すまん、すまん。ついて手ぇ出てしもうたわ。いや、バールか。んでな? あの壁。壊そか?」

「ゲゲゲ」


「敢えてぶっ壊してさ? そこをあんたらの魔力でビシーッと壁作った方がええやんな? ほれ、不思議パワーで何でもできるやん? 魔族って? な?」

「い、いや。オレを含めて一部の上位種にしかそのような事は」


「は? つまり、ギダやんはできるんやろ? せやったらね。やりなさいってお姉さんは言うとるの。ね? おどれらが原因で壁が柔くなってんで? そこから敵さん突入してやで? 無辜の住人山ほど死んだらどないするん? ん?」

「やります」


「アホ! そこは知らへんって言えや!! ノリ悪いヤツやで!! で? 無辜の住人は?」

「し、知らへん!!」



「えー。何言うとんの、ギダやん? あのさ、そーゆうとこやで? 魔族言うだけで白い目で見られるのにさ。なんでそんな超えたらあかんライン超えるん? 君、死ね言われたらほんまに死ぬタイプ? 嘘やん。命大事にした方がええで? ほな! 適当に火ぃでも噴いて! 壁! 壊そかー!!」



 破壊を司るガチクズ姉さん。

 上空から参戦。


 戦局が大きく動いた瞬間である。

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